5/11の投稿で「審議という対話でなく審議拒否という圧力路線を実行した結果、麻生大臣の辞任や柳瀬氏の証人喚問という要求を、結果として実現出来なかった野党は批判を受けたのに、「対話の為の対話では意味がない、必要なのは圧力だ」と頑なに言い続け、その結果拉致問題解決に至っていない現政権には同様の批判がなぜ向けられないのか」ということについて書いた。日本と同様に圧力重視路線だったはずのアメリカが水面下では北朝鮮との交渉を進め、その結果として拘束されていたアメリカ人3人の帰国が実現した事実を考慮すれば、圧力一辺倒では拉致問題解決の近道とは言い難いと多くの人が感じるだろう。
一応、安倍首相は南北首脳会談前に韓国・文大統領に拉致問題について会談で触れて欲しいという旨を伝えたようだが、自分の知る限りでは南北首脳会談で日本人拉致問題が重要な要素として取り上げられたとは思えない。6/12にシンガポールで開催される米朝首脳会談でも拉致問題に是言及して欲しいという旨を、先日の日米首脳会談の中でトランプ大統領にも伝えたと報じられているし、トランプ大統領も応じたと報じられているが、あからさまに日本人拉致問題への言及を拒否するなんてことはしないだろうし、トランプ大統領が応じたのだとしても最悪一応一言口に出して言及するだけなんてこともあるだろう。
そんな流れが現実となり、米朝首脳会談では拉致問題の具体的な進展は望めないと感じさせるような、米・ポンペオ国務長官の発言が5/13にあったようだ。朝日新聞の記事「ポンペオ氏、「非核化で米企業の北朝鮮への投資可」示唆」によれば、ポンペオ氏は北朝鮮が非核化に応じれば、「米国の民間部門は、北朝鮮の電力供給網の構築を支援することができる」と述べ、インフラや農業分野で投資することができるという見解を示したそうだ。彼は11日の会見でも「北朝鮮が早期の非核化に向けて大胆な行動をとれば、北朝鮮の繁栄に協力する用意がある」と述べたそうで、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化が実現すれば、アメリカが経済的な見返りを与える可能性があることを示唆したようだ。
ポンペオ氏の発言を真に受ければ、北朝鮮問題でアメリカにとって重要なのはやはりアメリカ本土に到達するミサイルと核の封じ込めであって、それが実現するなら経済制裁という圧力は緩めるということだろうから、日本人拉致問題など彼らにとっては重要でないと考えていると推測できる。もしそれが事実であれば、米大統領に会談で拉致問題に言及して欲しいと他力本願的に申し出たところで、日本の為に拉致問題解決を金氏に強く訴えてくれるとは毛頭思えない。何せ彼は「アメリカファースト! アメリカファースト!」と声高に訴えている人物だ。自国の利害と完全に一致しているのなら話は別だろうが、拉致問題という日本独自の事案に積極的に尽力するとは思えない。拉致問題を彼が解決に導いたところで、日本人には感謝されてもアメリカで選挙権も持っている国民、というか彼の支持者へのアピールに役立つ側面は限定的だろうから。
このような流れを見れば見るほど、「対話の為の対話では意味がない、必要なのは圧力だ」という姿勢では拉致問題解決は遠のくばかりとしか思えなくなる。圧力が必要ではないとは自分も思わない。これまで何度も約束を反故され北朝鮮側に裏切られてきたことも事実だ。しかし「対話の為の対話」では確かに意義は薄いだろうが「対話の為の対話ではない対話」は必要で、それを実現することが拉致問題を解決に導く近道であることは、拘束されていたアメリカ人3人の帰国の実現を見ても明らかだ。言い換えれば「対話の為の対話ではない実効性のある対話」を実現出来ない、しようとすらしない現政権は、拉致問題解決に消極的であると言わざるを得ない。