「食品衛生法では、食中毒を起こした店は営業停止になる。指定感染症のコロナでも、同様の制度に置き換えるべきだ」と、8/8に兵庫県・井戸知事が会見で発言した。「感染者が出た飲食店を営業停止処分にできるように法を改めろ」と言っている。一応「防御もしないで感染源になってしまう場合」と言ってはいるが、どの程度の対応を想定してそんなことを言っているのだろうか。
神戸新聞NEXT|総合|井戸知事「防御せず感染者発生の店舗は営業停止に」
防御もしないで感染源になってしまう場合は、食中毒と同じ対応で制度改正すべきではないか。そういう制度を持っていないので『休業要請したら補償を』という議論を呼んでしまう
「『休業要請したら補償を』という議論を呼んでしまう」、つまりこの知事は感染症対策の責任を経営者に丸投げし、感染者を出したら制裁を加えると言っている。感染を抑制したいなら、各店舗が充分に感染防止策を講じる助成をするとか、感染防止の為に休業できる充分な補償をするのが筋だろうが、それよりも制裁による対応をしたいと言っている。
音楽家の七尾 旅人さんが、この兵庫県知事の発言についてこのようにツイートしていた。
知事「感染者出した店、食中毒のように営業停止を」…法整備を要望
— 七尾旅人 (@tavito_net) August 10, 2020
どんな空間でも感染リスクがあるのに、
こうやって飲食だのライブハウスだの一部の業種をスケープゴートにして全体の状況を誤魔化すやり方が、今の歪みを生んだと思うが。
もし県庁で感染者でたら、この知事はどうするんだ。 https://t.co/ApiVUHytoT
もし県庁で感染者がでたらこの知事はどうするか? 県庁では充分に防止策を講じていたと言い張るだけだろう。この種の人は大抵自分や身内にだけ都合よく物事を解釈するし、県知事という立場を利用して、自分と身内には火の粉が降りかからないように根回しをするつもりだろう。
七尾さんは「県庁で」と言っているが、もっと整合性を欠くのは公共交通機関への対応だ。世界中で感染が拡大した3月、ロンドンやニューヨークの地下鉄で感染が拡大した恐れが指摘された。当時日本では行政やメディアは公共交通機関への懸念には触れず、BuzzFeed Japanのように「満員電車はそれ程危険でない」なんて話を平然と掲載するメディア、そう主張する専門家までいた。しかし4月に入って日本でも感染が急増し、その頃になってやっと、政府の専門家会議と関わりのある者も満員電車への懸念を示し始めた。だが、5月下旬から6月上旬に感染者の増加がひと段落すると、その種の話は再び下火になった。感染抑止よりも経済性を優先したい政府にとって、公共交通機関への懸念が高まるのは都合が悪く、そのような圧力がかけられたか、もしくは忖度が起きたのだろう。
現在は明らかに4-5月よりも深刻な状況だが、公共交通機関は、平時より乗客は少ないものの、3月頃とは変わらないかそれよりも混雑しており、所謂ソーシャルディスタンスは確保できないような状況である。よく「○○でクラスター発生」なんてニュースが報じられるが、公共交通機関で、という話は一切聞かない。クラスターが生じたとされる案件の感染者は誰も感染が推測される時期に公共交通機関を使っていなかったのだろうか。そんなことは絶対にありえない。感染源不明、という表現が都合よく用いられているとしか思えない。
兵庫県知事の論理が妥当だとしたら、3月と大差ない状況なのだから、公共交通機関が充分な感染防止策を講じているとは思えないし、感染者が使った交通機関は全面運休させることになるだろう。そんな簡単な整合性すら無視する者が知事をやっているのだから恐ろしい。
この兵庫県知事は7月にも「(感染拡大の)諸悪の根源は東京」と発言して大きな反発を呼び、多数の批判に晒された。
神戸新聞NEXT|総合|コロナ感染拡大 井戸知事が「諸悪の根源は東京」
当該発言を後に取り消すとして「(東京からの感染の)確度が高いという意味。東京で感染者の追跡などをしっかりしてほしいという意味だった」と釈明していたが、これらの発言から考えれば、この知事が何かをスケープゴートにしがちな思考を持っていることが強く推測できる。
それは、この「諸悪の根源は東京」と言ってからたった1ヶ月しか経っていないのに、今度は「感染源はきっと大阪だろう。そこでかかった人が家庭や職場、会食で2次感染させている」と発言した。
神戸新聞NEXT|総合|減らない感染者に井戸知事「感染源はきっと大阪」
同記事によれば更に、
『感染経路が分からない』というのは逃げ口上で、大抵は飲食や夜の街に結び付く。陽性者の周辺をPCR検査して抑え込んでいくことが基本
とも述べており、何かをスケープゴートにしがちな思考、というか、何かに責任転嫁しないと気が済まない人であることは明白だ。
そもそも国のコロナ危機担当大臣らが夜の街だのパチンコ店だのとスケープゴートづくりに躍起になっているし、その裏で御用学者に「旅行自体は感染を起こさない」と言わせ感染が再拡大する中で、旅行促進政策を強行しているのだから、こんな首長などが出てくるのも当然の成り行きだろう。
まともな政治家や首長もいるが、今の日本には保身と責任逃れの方が感染症対策よりも大事、と考えているとしか思えない政治家や首長の方が多い。これでは感染症が拡大するのも当然だ。
トップ画像は、mohamed HassanによるPixabayからの画像 を加工して使用した。