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フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer」、1896年ドイツの、資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである(八時間労働制 - Wikipedia)。


 労働者層の搾取は産業革命以降に始まったことではなく、前近代までも領主による領民の搾取が長らく続いてきた。だが、名誉革命の後イギリス国民は1689年に権利章典を国王に認めさせ、1776年にはアメリカがイギリスより独立を果たし、1789年には身分制や領主制の一掃、法の下の平等、経済的自由、人民主権、権力分立等を求めたフランス革命が起こり、人間の自由と平等、人民主権、言論の自由、三権分立、所有権の神聖など17条からなる、フランス革命の基本原則を記したフランス人権宣言が示された(人間と市民の権利の宣言 - Wikipedia)。
 フランス人権宣言は、現在の民主主義/自由主義国の土台を担うものであったが、冒頭の1896年の風刺画を見れば分かるように、宣言後いきなりその理念が確立されたわけではない。フランス人権宣言からおよそ100年経っても搾取は形を変えて残り、そして、それから約100年後の現代でもまだまだ搾取はあちらこちらに残っている

 朝日新聞は、この約10年で労働者として急増したベトナム人の中には、新型コロナウイルスの感染拡大の余波で仕事を失ったまま帰国できない人も少なくない、という旨の記事を掲載した。

妊婦「何でもするから助けて」 実習生、コロナ禍の過酷:朝日新聞デジタル

「あまりにつらく、最初は日本人が嫌いになった」。1週間前にやってきたニャットさん(28)はそう言って、これまでの境遇を語り始めた。2016年に技能実習生として来日。熊本県でビニールハウスを組み立てていた。来日前には月給約17万円と言われていたが、実際は約9万円。1日10時間働いても、日本人に払われていた残業代は払われなかったという。
 田んぼに置かれたコンテナに3人で住まわされた。シャワーは野外で、寒風が中に吹き込んだ。それでも家賃として2万円を差し引かれていた。

 記事はこんな記述がある。これを搾取と言わずに何と言おうか。全く賃金が支払われなかった最悪な頃の奴隷制と比べればマシかもしれない。だが、現在の自由主義国/民主主義国の標準的な労働規制や日本の労働基準法の規定からはかなり逸脱した環境だ。日本では日本人もかなり多くの人が未だに労基法を無視した労働環境に置かれているが、記事に書かれているのは、日本人が強いられる一般的なな労働環境と比べても、それよりもかなり悪い労働環境であると言わざるを得ない。「日本人に払われていた残業代は払われなかった」という話を勘案すれば、それは明らかに外国人差別であり、労基法の無視だけでなく属性差別という面でも人権を蔑ろにしていると言わざるを得ない。
 朝日新聞は更に「「死ね」「ベトナムに帰れ」 絶望、建設会社を解雇され:朝日新聞デジタル」という記事も掲載している。そもそも新型コロナウイルス感染拡大以前から、技能実習生制度は外国人労働力を搾取するのに悪用されているとされ、長らく問題視され続けてきた。

 日本には、強制的に連れてこられ労働等を強いられた慰安婦や徴用工はいなかった、と主張する人達が一定数いる。日本では現在でも平然と外国人の人権無視して働かせることが横行しているのに、今よりも確実に人権意識の低かった戦前戦中、そんなことはなかったとどうして言えるだろうか。また、その種の主張をする人の多くは人権感覚に乏しい人達であり、明確な根拠も示さない彼らの主張には全く説得力がない。

安倍氏、台湾人徴用工の給与袋をツイート 「中傷への反撃はファクトで」 - 産経ニュース


 この記事が示すように、都合の悪いことからは目を背け、都合のよい部分だけを強調して「これがファクトだ」なんて言う男に7年も首相をやらせ、そして今もそれを継承すると公言する者に首相をやらせているのが日本である。米国では日本の首相と似たような大統領が選挙によって拒否されたが、このままでは日本はまだまだ悪夢が続くし、まだまだ沈むだろう。


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