1980年代にジャパニメーションという表現が用いられ始めた頃の代表的な作品の一つに、大友 克洋原作・監督のAKIRAがある。同作品は今でも色褪せないサイバーパンクアニメの傑作と言っても過言ではない。そしてAKIRAの世界観を支持した層が次に注目したのが士郎 正宗原作・押井 守監督の Ghost in The Shell 攻殻機動隊 だった。同作品は マトリックス にも強い影響を与えたことで知られている。トップ画像に用いたのはその続編・イノセンスである。
そのイノセンスの台詞には様々な格言・名言が引用されている。その中の一つに、
ロバが旅にでたところで馬になって帰ってくるわけではない
という西洋の諺がある。これは17世紀イギリスの歴史家・トーマス フラーの言葉とされており、元は英語で「If an ass goes travelling he will not come home a horse.」だ。この場合のロバは家畜として馬よりも劣る存在であり、旅に出たくらいで馬に、つまり有能になるわけもない、その本質はちょっとやそっとでは変わらない、ということを示している。
8年にも及ぶ自民党政権では、大臣になる前から「この人大丈夫?」と言われていた人が、やっぱり前評判通りダメだったというケースが決して少なくない。例えば、防衛大臣に登用された稲田なんてのはその筆頭だ。その他にも「(震災が起きたのが)東北でよかった」と発言して辞任した復興大臣の今村、PCを使ったことはないと平然と言い放ち、USBメモリが何かさえ答えられなかったサイバーセキュリティ担当大臣・桜田、北方四島の一つ・歯舞群島が読めなかった北方領土担当大臣の島尻など枚挙に暇がない。
現政権の首相・菅や、新型コロナウイルス対応担当の西村などもその類である。菅の答弁は前政権の官房長官時代からかなり酷く、聞かれたことに答えないこともしばしばで、特定の記者を罵倒する場面も頻繁に見られた。西村も前政権で内閣官房副長官だった頃に、加計学園に関する答弁で支離滅裂なこと、実質的な嘘を言っている。気象庁が豪雨を警告する中で首相らを始め自民党有志が議員宿舎で行った酒盛り・所謂赤坂自民亭の様子を、喜び勇んでSNSへ投稿したのも西村だった。
そのような人物らが、首相・大臣になったところで急に有能な政治家になるわけではない、ということは今の状況を見れば誰の目にも明らかで、菅や西村は「ロバが旅にでたところで馬になって帰ってくるわけではない」をまさに体現している。
イノセンスで引用されている格言には、17世紀イギリスの詩人・ジョン・ミルトンの、旧約聖書の『創世記』をテーマにした叙事詩「Paradise Lost/失楽園」の1節、
彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたけり
もある。これは、神に反旗を翻した堕天使ルシファーが地獄に落ちサタンとなる場面を表現しており、彼らとは、サタンになってしまう堕天使ルシファーと彼の側についた者らのことで、彼らがなすすべなく、ただただ叫びながら地獄に落ちていく様子を秋に枯れて木から落ちる葉に例えている。
因みに堕天使ルシファーはサタンになった後、神が創った従順な生き物である人間アダムとイブを誘惑し、エデンの楽園から追われるようにしむけることで神への復讐を企てる。
何が正しく何が過ちかを絶対的に断定することは難しい。しかし嘘ばかり吐き、都合の悪いことは有耶無耶にしたり、そもそも記録を残さないような、例えばGoto云々なる狂気の旅行促進政策を新型コロナウイルス感染収束前から始めておいて、それが新型コロナウイルス感染拡大へどのような影響を及ぼしているかを明確にするのは都合が悪いので、そもそも調査検証すらしていないのに、「Gotoトラベルが不適切だというエビデンスを示してみろ」なんて言う者がいたりするような政府と与党は、どう考えても正しい行い・適切な政治をしているとは思えない。言うなれば、国、つまり主権者である国民に対して反旗を翻しているとしか思えない。
そんな者達や彼らの側につく支持者などは、この1節が示すようにいつか枯れ葉のように落ちていくことになるだろう。但し、もし日本の有権者がアダムとイブのように誘惑されて(騙されて)しまうなら、Paradise Lost/失楽園 となってしまうかもしれない。