織田 裕二主演の 就職戦線異常なし という映画が1991年に公開された。原作は杉元 伶一という人の小説だそうで、それが書かれたのは1990年のことで、バブル崩壊後に公開された映画ではあるが、描かれているのはバブル絶頂期・新卒採用が売り手市場だった頃の状況である。自分がこれを見たのは90年代中頃・最初の就職氷河期の頃で、たった数年でこんなにも状況が変わるものか、と思った記憶がある。
この映画のタイトル、というか小説のタイトルは、1930年代のアメリカ映画、というかその原作となったドイツの小説のタイトルをもじっている、ということは当時から知っていたが、当時の自分はまだ ネタ元の 西部戦線異状なし がどんな作品なのか詳しく知らなかったので、それをもじったタイトルであることに何も感じなかったのだが、後に西部戦線異状なしの内容を知って、それをもじったバブル期の感覚が如何に浮かれていたか、を感じた。
西部戦線異状なしは、第一次世界大戦をテーマにした作品で、学校で教員が説く愛国論に感化されて入隊志願した若いドイツ兵の視点で、戦争の過酷さ描いている。
All Quiet on the Western Front - YouTube
今日本では、愛国論を推す者たちが、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて声高に愛国論を唱え、軍拡の必要性、憲法9条の形骸化・廃止などを叫んでいるが、そんな話に騙され感化されると、西部戦線異状なしのような悲劇、というか第一次世界大戦の悲劇、いや日本で言えば日露戦争の悲劇・太平洋戦争の悲劇を、再び繰り返すことにもなりかねない。
こんな話でこの投稿を始めたのは、こんなツイートがタイムラインに流れてきたからだ。
テレビ朝日の番組・朝まで生テレビの中で、日本が侵略されたら戦いたいか、と聞く視聴者アンケートをやっていたようで、その回答として、国民の義務だ、美しく気高い日本の国土と国民を守るため絶対戦う、なんてのが紹介されていた、ということのようだ。
このツイートを見てこう思った。第一次世界大戦に志願した若者たちが、そんな軽い気持ちで志願してどれだけ悲惨な目にあったか、誰もが少しくらいは知るべきだ、と。第一次世界大戦は1914年7月に始まったのだが、多くの兵士たちは「クリスマスまでには帰れる」と思っていた、というのはよく言われる話である。しかし戦争は泥沼化し半年以上にわたる塹壕戦になる。連合国側約90万人、ドイツ約60万人の死傷者を出したが決着はつかず、生き残っていてもクリスマスには当然帰れなかった。しかも開戦の翌年・1918年からはスペイン風邪の流行も始まり、兵士も多くが罹患することになり、前線の悲惨さは増していく。
番組はそのような過去の悲惨な戦争の事例を紹介した上でアンケートを取ったんだろうか。朝まで生テレビはそんなことはしないだろう。ただ単純に、日本が侵略されたら戦いたいか、と聞いただけだろう。
この番組に限らず、テレビ番組の視聴者・街頭アンケートほど調査として不適切なものはないし、最近ではしばしば、大手メディアが行う世論調査における不適切な設問設定や聞き方、も話題になる。以前は頻繁に世論調査の結果・内閣等の支持率が話題にのぼっていたが、この数ヶ月は殆ど注目されていないように思う。それはメディア側がアピールしなくなったからなのか、それとも視聴者や読者が大手メディアの世論調査にすら信憑性を感じなくなっているからか。多分両方なんだろうが、個人的には後者の方が主な理由のように思える。
今国会の中継をNHKがまともにやっていない、オリンピック中継は普段使われていないサブチャンネルまで使ってやるくせに、という指摘を、2月頃から頻繁に見かける。いまだに、NHKにもテレビ業界にもまともな人がいて頑張っている、みたいなことを言う人がいるのだが、NHKのこんな状況、テレビ業界全般の似たような状況を、内部にいながら批判もせずに静観しずっと沈黙している人たちは、果たしてまともなんだろうか。確かにまともな人もゼロではないかもしれないが、まともな人はおかしいと声を上げているか、そんな組織に所属していられないかのどちらかではないだろうか。新聞はテレビに比べればまだマシな気もするが、基本的にはどんぐりの背比べみたいなものだろう。
テレビも新聞も、昨年の衆院選直後に「国会議員の文書交通費は月100万円で1日でも満額支給はおかしい!」と維新の議員が言い出した際には、あんなにもそれを取り上げていたのに、その話が尻切れトンボなこと、維新は自分達で自分達宛の領収書を切るなどの行為をやっていることなどはそれほど取り上げられなかったし、また、4/22に日経が
という記事を出し、他の一部の新聞も予備費の使途の不透明さに疑問を呈する社説などは書いているものの、テレビがこれに触れた形跡は皆無で、これに関する報道は驚くほどに盛り上がっていない。
このような状況から考えれば、今の日本の大手メディアは翼賛報道化している、と言わざるをえない。自民政府の不誠実さはあまり取り上げず、自民政府の思惑に都合のよい愛国論を煽るようなことをやっているのだから、そう言われるのも当然だ。