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自国第一


 とうとうトランプ氏がアメリカ大統領に就任した。既存の政治家とのしがらみがなく変革に期待できるという意見もあるが、暴言や差別的な主張などを繰り返しアメリカにとどまらず世界を危機的な状況に陥れかねないという声も多い。

 メキシコ国境に壁を作るや、イスラム教徒の入国禁止など多くの問題発言が報道されているが、個人的に最も違和感を覚えるのは”アメリカ第一主義”を大々的に掲げている点である。現在アメリカは名実ともに世界で一番他国への影響力の強い国の一つである。軍事力も世界一だし、経済規模でも世界一であることは間違いない。そんな既に一番とも言える国が自国第一主義を声高らかに唱えてよいのだろうか。「自分たちが幸せになるためなら、他人を不幸にしてしまっても気にしない」と言っているように聞こえる。


 現にアメリカの雇用を守るために、メキシコに工場を作らずアメリカに工場を作れという圧力を様々な方面にかけている。一方でアメリカに麻薬や犯罪者を入れないためにメキシコ国境に壁を作るとも言っている。メキシコに工場を新しく作って雇用を生み、メキシコの経済を安定させ、その結果メキシコの治安が安定すれば、アメリカへの不法移民や麻薬の密輸が減らせるということは考えないのだろうか。こんな視点で見ているとアメリカの利益のみを追求するという姿勢には全く共感できない。まるで戦前の、一方的な植民地経営を行った帝国主義の悪い部分を模倣しているかのようだ。戦後だってアメリカの一部の企業は、世界中で進出先の社会を顧みず自社の利益を過剰に追求してきたという一面もある。

 彼の支持者層は80年代以降のアメリカ国内の産業空洞化のあおりを受けて中間層から貧困層へ落ちてしまった白人が多く、そんな状況から安い賃金で働く中南米からの移民を敵視しているようだ。経済状況が世界的に見て決して最悪とは言えないアメリカ国内で貧富の差が拡大しているのであれば、富裕層・支配者層が不当に利益を独占していると考えてもよさそうなものだが、強者である白人が多い富裕層や支配者層よりも社会的弱者であるヒスパニックやアフリカ系が多い移民を敵視するあたりに、彼らの考え方の根底には未だに白人至上主義の影響があるように思えてならない。だからトランプ氏の差別的発言も容認してしまうのかもしれない。不法移民の排除と言えば一見正当性があるようにも思えるが、報道を見ていると不法移民ではないヒスパニック・アフリカ系をも差別する風潮が広がっているようにも感じられる。少数の人種・民族を攻撃することによって支持を得ることを否定しない彼の姿から、戦前のヨーロッパのあの国のあの団体を連想してしまうのは自分だけではないだろう。

 第二次世界大戦終結から70年余が経過したにも関わらず、その戦争の一因となったブロック経済を復活させそうな空気や、人種・民族・宗教間の対立を煽るような発言、このような姿勢を彼が今後も貫けば、今は各国様子見をしているような状態だが、アメリカが自国第一ならウチも自国第一でと、対立姿勢を示す国もそのうち出てくるだろう。特にメキシコに対してのアメリカの姿勢を見て、メキシコと似たような状況の中南米や東南アジア諸国などが団結してアメリカに背を向けるなんてことも考えられる。どこの国も自国が第一なんてのはある意味では当然だが、あからさまにそれを主張し過ぎれば対立しか生まないのではないだろうか。

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