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敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。

 タイタニックが沈没した原因には様々な説があり、また原因は主張されているそれらのどれかだけではなく、いくつかの要因の複合という説も含めたらば、枚挙に暇がない。但し、氷山に衝突する前に、タイタニックは警告を7回も受けていたにもかかわらず、船は最高速に近い状態で氷山に衝突した、ということは、どんな説でも大抵事実として扱われている。

 なぜ警告を受けていたにもかかわらず、速度を落とさずに航行し氷山に衝突したのか、それについても諸説あるようだが、1997年の映画の中では、スミス船長が警告を軽視し、航行速度を変えなかった様子が描かれている。ちなみに実際のスミスは、タイタニックの姉妹船で同型1号であるオリンピック号が、イギリス海軍の巡洋艦ホークとの衝突事故を起こした際の船長でもある。

 スミスが有能な人物だったか無能だったかは分からないが、タイタニックが氷山に衝突したということは、判断ミスを犯したことに違いはない。警告がスミスに伝わっていなかった、という説もあるが、もしそうだとしても、船長という責任ある立場なら、部下の管理、人選、教育などに問題があったということになる。それもまた判断ミスの類だ。そして致命的な事故に繋がる判断ミスを犯したということは、スミスは決して有能な人物とは言えない、ということになるだろう。

 バカな大将、敵より怖い、という寛容表現がある。指揮官が無能だと、敵と戦う前に命を落としかねない、のようなニュアンスだ。精神論に傾倒しがちな旧日本軍の指揮官を揶揄する為に出来た言い回しのようで、しばしば目に付くのは、近代日本最大の愚策と言っても過言ではない、無謀なインパール作戦を立案・指揮した牟田口 廉也や、その上官だった河辺 正和などに対する批判の為に発生した言い回し、という説だ。

 インパール作戦は、太平洋戦争当時のビルマ戦線で1944年に開始された作戦で、日本が中国で敵対していた蒋介石への連合軍の支援、所謂援蒋ルートを遮断することが目的だった。援蒋ルートの拠点である英領インドのインパール攻略をしようとした作戦だったことから、インパール作戦と呼ばれている。
 インパール作戦は兵站、つまり補給を全く無視した作戦であった為、参加した日本兵の殆どが命を落とした。その数は16万にも及ぶとされ、しかも大半は戦死ではなく餓死・マラリアや赤痢による病死だったと言われている。

 タイタニック沈没もインパール作戦の失敗も、組織のトップの判断ミスによって引き起こされた、という点では共通している。


 タイタニック沈没は、バカな大将、敵より怖い、の例として側面が強い例だが、無能な船長に関する日本語の言い回しに、船頭多くして船山を上る、というのがある。これは、指図する人が多すぎると現場が混乱して、物事がうまく進まずにとんでもない結果になりかねない、ということを意味する。

 今の日本では、バカな大将、敵より怖い、と、船頭多くして船山に上る、が同時に起きている気がしてならない。いや、そう確信する。
 首相や都知事は、感染爆発と医療崩壊が起きているのに、いや彼らの無作が感染爆発と医療崩壊を起こしていて、治療を受けられずに自宅で死亡する人が複数、更には妊婦の搬送先が見つからず乳児が死亡する事案まで発生しているのに、この期に及んでまだオリンピックと感染拡大は無関係と言い張り、パラリンピックを強行しようとしている。
 オリンピックに関しては都知事、組織委、IOC/IPC、JOC、首相、五輪担当大臣、新型コロナウイルスの感染拡大への対応に関しては、首相、政府新型コロナウイルス対策分科会とその会長、厚生労働大臣、新型コロナウイルス対応担当大臣、ワクチン担当大臣など、舵取り役が複数いるのに、誰に最終的な責任があるのか定かでなく、それぞれが責任をたらい回しにしつついい加減なことを言いまくっている。そしてその結果、感染拡大が懸念されていたのにオリンピックを強行し、感染爆発が起きた。

 船頭多くして船山を上るは、責任の所在を明確化しない日本の風潮の下では生じやすい状態だ。前民主党政権でも、権力争いや責任の押し付け合いが生じた結果、政権運営が上手くいかなかった。しかし今は更に悪く、乱立している船頭が軒並みバカな大将なのだ。

 敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

という状態なのだ。それでは収まるものも収まらないどころか、どんどん状況が悪化していくのも当然だ。


 産経新聞がこんな記事を掲載しているが、休まないことが誇れたのは、どんなに長く見積もっても平成までだ。休まずに連続勤務しても結果が伴わないなら、それは単なる給料泥棒だし、首相なんてのは政治的な結果が出ていればどれだけ休んでもいい。世界で最も優れた新型コロナウイルス対応をしているニュージーランドのアーダーン首相は、2018年に6週間もの育休を取得し称賛を浴びた。
 また日本では、上が休まなければ、休める状況をつくらなければ、その下は休みづらくなる。つまりトップが休んでないなんてアピールは害悪の方が大きい

菅首相休みなし連続執務147日、安倍氏に並ぶ - 産経ニュース

 第1次世界大戦期のドイツの軍人、ハンス フォン ゼークトは「愚鈍で勤勉な者を軍隊において重用してはならない」と言ったとされている。これを過激に解釈した「無能な働き者は処刑するしかない」なんて言い回しもある。但し、実際にはゼークトはそんなことは言っていないという話もある。

 ゼークトの組織論とされるこの話はどんな意味なのかと言えば、無能な働き者は、無能だから本来すべきであることはできない、しかし勤勉であるが為に余計なことばかりする、つまり雇っておくといらぬ問題が増えていくので、どんどん状況が悪化していく原因になる、という意味だ。だから無能な働き者は雇入れてはいけない、働かせてはいけない、という意味である。
 つまり、新型コロナウイルス対応で全く結果が出ない、結果が出ないどころか寧ろどんどん状況を悪化させるだけの菅には、永久に休んでいてもらった方がよい、休まずに働かれたら困る、更に状況が悪化する、ということだ。


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