近畿財務局が大阪府豊中市のある国有地の売却額を非公開にしていることを朝日新聞が報じている。朝日新聞によれば、国有地の売却額は原則として公開しなくてはならないのに、この件では公開されておらず、この国有地の売却額は近隣の同じような広さの国有地が豊中市に売却された額のおよそ1/10程度とのことだ。そして売却先の学校法人森友学園がこの土地に開校する予定の、瑞穂の國記念小學院の名誉校長には安部首相夫人の昭恵氏が名を連ねている。理事長も安部政権を支援をしている憲法改正に意欲的な団体である日本会議の役員とのことだ。サイトのごあいさつのページには平沼赳夫衆議院議員の声援コメントも掲載されている。これらの情報から考えれば首相や政府関係者、もしくは首相に近い人間が不正に便宜を計ったように見えてしまうのも仕方がない。
個人的に気になってしまったのは、不自然なほど低額な売却額よりも、この学校の名誉校長に首相夫人が就任していることの方だ。同校のウェブサイトによると、”天皇国日本を再認識、皇室を尊ぶ”や”教育勅語素読・解釈による日本人精神の育成”など戦前の学校教育を想起させる教育方針がいくつも紹介されている。日本では思想信条の自由が認められているし、キリスト教系、仏教系の学校も数多くある。神道系の学校があってもおかしくはない。しかし近代日本が太平洋戦争へ向かっていった背景に、天皇を国家元首かつ統治権の総攬者とした旧天皇制を利用し、軍部が暴走したということがあり、そのことを教訓に戦後の日本国憲法では、旧天皇制を象徴天皇制へ改め、戦争放棄を実現するために軍隊を持たないことを定めている。ドイツ国民が挙手する際、ナチス式敬礼に見えないように人差し指だけを出して手を上げるなど、第二次世界大戦の大きなトラウマとしてナチスやヒトラーに対し、ヨーロッパ地域以外の国から見れば過剰と思えるほど神経質になるのと同じように、日本人が旧天皇制やその維持を目的とした封建的な学校教育、あるいは軍隊(自衛隊)の在り方について神経質になってしまうのは自然なことではないだろうか。ある意味において、日本人にとって旧天皇制と軍隊はドイツ人にとってのナチス的な存在なのではないかと思う。そんな戦前の学校教育を目指しているかのような学校の名誉校長に首相夫人が名を連ねるていることに大きな違和感を感じる。
しかもこの学校の校長が園長を務める、同じような教育方針を掲げている塚本幼稚園幼児教育学園のサイトには、"インターネット上での当園に対する誹謗・中傷記事について"という以下の文書が掲載してある。
この幼稚園に対する誹謗中傷をしているブログに対する抗議文なのだが、”投稿者は、巧妙に潜り込んだ K 国・C 国人等の元不良保護者”や、”日本に在住する極めて少数派の K 国・C 国等の人たちのこういった行為に対して、断固として立ち向かう”という表現が使われている。誹謗中傷があるのであれば抗議すること自体はなんら不思議はないが、上記のようなヘイトスピーチと疑われそうな表現を使うことは全く理解できない。誹謗中傷している人が特定できているのなら、こんなことをせずに司法機関に判断を任せるべきなのではないだろうか。このような学校法人の新設校の名誉校長に首相夫人が名を連ねているということは、首相自身も全く無関係とは言えないだろう。昨年5月にヘイトスピーチ対策法が成立したばかりなのに安倍首相と夫人はどのように考えているだろうか。
この学校の教育方針である教育勅語素読・天皇国日本とヘイトスピーチ的発想、そしてこの学校と同様に、日本会議との浅からぬ関係がありそうな安倍政権が推し進めた特定秘密保護法・安保関連法や、憲法改正への意欲が根本的には繋がっているのかもしれないと思うと、現憲法を大日本帝国憲法的に改正し、旧天皇制を復活させ、軍国主義・全体主義へと向かっていった戦前の時代へと日本を戻すことが彼らの理想なんじゃないかという疑念を抱いてしまう。アメリカ人が80年代的な思考が強いように見えるトランプ氏を大統領に選ぶよりももっと前に、日本人は戦前的な思考が強い人物を首相に選んでいるのかもしれないと思うとかなり心配になる。どちらも経済政策を前面に出していることで国民の支持を取り付けている点も似ている。アメリカも日本も時代が悪い方に巻き戻らないことをただただ祈るばかりだ。