安部首相が日米首脳会談のために訪米している最中に、北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射した。それを受けて発表したトランプ大統領・安部首相の共同声明で、安部首相は北朝鮮に対して「国連決議を完全に順守すべき」とし、トランプ大統領は「偉大な同盟国である日本と100%ともにある」と発言したらしい。興味深いのは安部首相の「国連決議を完全に順守すべき」という発言だ。というのは、共同声明を出したもう一人の人物が、国連決議に反する行動に出ようとしているからだ。
トランプ大統領はイスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移転する方針を示している。エルサレムはキリスト教・ユダヤ教・イスラム教それぞれの聖地であり、歴史上それら3つの宗教の争いの火種になることが多い土地である。近代以降では第一次大戦時のイギリスによる三枚舌外交を発端とした、パレスチナを巡る問題が現在も尾を引いており、ユダヤ教国家イスラエルとイスラム教徒が住むパレスチナ自治区・それを支援するイスラム教系アラブ諸国の間で争いが多く起きている。エルサレムはその争いでも象徴的な都市になっている。現在は実質的にエルサレム全域がイスラエルの統治下にあり、イスラエルは首都と宣言しているが多くの国は首都とは認めず、それ以前の首都だったテルアビブに大使館を置いている。以前はエルサレムの西側をイスラエル、東側をパレスチナ自治区が統治していたが、第三次中東戦争で東側もイスラエルが占領し、首都と宣言した。これに対して1980年の国連総会ではこれを非難し、無効とする決議を行っている。トランプ大統領はこの国連決議に反してエルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館をテルアビブから移転しようとしているのである。このトランプ大統領の方針の裏側には、彼の娘・イヴァンカの夫で、正統派ユダヤ教徒であるジャレッド・クシュナー氏や、彼のようなユダヤ系投資家らトランプ支持者の影響があるという見方もある。
要するに安部総理は、国連決議を破ろうという人物と一緒に出した共同声明で、北朝鮮に国連決議の完全な順守を求めるという矛盾した発言をしたわけだ。考え様によっては、安部総理は「北朝鮮が国連決議を守らないのはおかしいだろ?(だからトランプ大統領も国連決議は守れよ?)」と暗に言っているとも考えられる。もしそのような意図があるとすれば、それはすばらしいと思える。しかし「北朝鮮は国連決議を守れ!(トランプ大統領には同じことを言えないから、彼の国連決議に対する姿勢には触れずに黙っておこう)」だとしたら、情けないを通り越して呆れてしまう。彼が前者の考え方であることを信じたい。その為にそうであることを感じられるような素振りを少しでもいいので見せてほしい。