スキップしてメイン コンテンツに移動
 

コンテンツ


 出版不況と言われて久しい。雑誌の廃刊や町の書店の閉店の多さを見ればわかることだが、ネットメディアの存在感が増したことやデジタル書籍の普及によって、紙媒体の出版物の市場規模が縮小しているのは明らかだ。しかしそれだけでなく出版社の保守的な営業姿勢もその一因になっているのではないかと思う。音楽業界も出版業界同様に様々なスタイルのデジタル配信サービスが主流になり、音楽CD販売の減少に悩んでいる状態だ。しかし音楽業界のCDとデジタル配信、出版業界の紙媒体とデジタル配信との関係性は大きく異なる点が1つある。それは音楽CDは物質的な媒体だがデータ自体はデジタルであるが、紙媒体の本はデータがアナログであるということだ。そういう意味ではデジタル書籍が普及し始めた現在、紙媒体の本が置かれている状況は、十数年前に音楽のデジタル配信が拡大し始めた頃の音楽CDよりも、更に不利な状況にあると言えると思う。


 デジタル配信が主流になっても、本当に好きなものは手元に置いておきたいと考えるコアな消費者は、データ配信はデータ(が入っているパソコンやハードディスク、スマートフォンなど)が壊れてしまったら、もしくはデータ配信しているサービスが終了してしまったらコンテンツを楽しめなくなる恐れがあることや、ジャケットや装丁まで含めて作品と考えることなどからCDや紙媒体の本など実態があるものを購入する傾向があると思う。しかし利便性が高いのは、ネットを使ったデータ配信を利用しデジタルデータで管理する方で、特に家の外に持ち出して使うならその優位性は圧倒的だ。音楽CDは比較的データファイル化するのが容易で、ネットに繋がったPCを使えばほぼ自動で曲名・ジャケット画像などまで付いたファイル化ができる。しかし紙媒体の本はそういうわけにはいかない。1ページづつスキャンしてデータ化するにはかなりの手間が掛かる。綺麗にデータ化しようとしたらスキャンの為に本をばらさなければならない場合もあり、スキャン用と保存用の2冊が必要になることもある。以前の状況に比べれば専用のスキャナがあったり、有料代行サービスがあったりするが、本のデジタルデータ化にかかる手間はCDのデータ化の手間とは雲泥の差がある。現実的には紙媒体で本を買う消費者がデジタル書籍のような利便性を得るためには、紙媒体の本とデジタル書籍の両方を買うしかない状況だ。

 音楽業界で紙媒体の本と似た状況なのはレコードだ。MDやiPodなどデジタルオーディオプレイヤー普及以前はそれが当たり前だったが、レコードも録音(データ化)するのには結構な手間が掛かる。しかし一方でジャケットの大きさや独特の音質などレコードに価値を感じて買う消費者がいるのも事実だ。販売されているレコードの中には消費者の利便性を考慮し、デジタルデータをダウンロードして利用することができる権利を付けているものもある。CDのように簡単にデータファイル化できない欠点を補う為の措置だろう。こうすることによって「現物の媒体を手元には置いておきたいけど、データファイル化するのは面倒だからデジタル配信でいいや」という層を逃がさずアナログメディアの購入に繋げられるのではないだろうか。本もこれに習い、紙媒体を買ったらPDFファイルをダウンロードできるようにするなど、デジタルデータを利用できる権利を付けて販売すれば、同じような効果を期待できるのではないだろうか。

 デジタルデータ配信によって不正コピーが増え、売り上げが落ちると懸念しているのか、コアな消費者はデジタルデータと紙媒体の両方を買ってくれるだろうからその分売り上げが増えるかもしれないので、そのような必要はないと出版業界は考えているのかもしれないが、今のままでは不正コピーを懸念してコピーコントロールCDやデータ配信のDRMなどを導入したが、消費者の利便性との両立ができずに結局定着させられず、結果的にその方針をとった間の販売機会を自ら減らしたに過ぎなかった音楽業界と、同じような道を歩んでいるとも考えられる。ディズニーは著作権にうるさいことでも有名な企業だが、その一方で既に媒体には拘らずに、映像ソフトをMovieNEXという名称でDVD+BD+データ利用権という形で販売している。単体販売に比べて多少割高感がある場合もあるが、消費者からすれば内容が同じものをプレーヤーに合わせて別媒体で購入し直したり、別媒体で利用するために録音・録画・変換する手間が掛からないという利点もある。消費者はCDやDVD、本等のデータの入れ物ではなく、その内容・コンテンツにお金を支払っているということがその本質だ。

 紙媒体にデータファイルの利用権を付けて販売すれば、今どんな本があるのかの下調べは本屋でするが、利便性のためにネットでデジタル書籍を購入している消費者に、このケースで販促を行っているだけになってしまい利益が上がらない本屋で購入させることに繋げられるという面もあり、紙媒体の本を守るのには必要な本屋の減少に歯止めをかける一つの方策にもなるのではないだろうか。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。