居酒屋 甘太郎などを運営する会社・コロワイドの社内報に掲載された、蔵人金男会長の挨拶が、あまりにも前時代的で話題になっている。傘下の企業・レインズの従業員に対して「挨拶もできない」と苦言を呈する内容なのだが、従業員を指して”馬鹿””アホ”と呼んだり、”(挨拶ができない者を)張り倒した”としたり、”(従業員たちの)生殺与奪の権は、私が握っている”としたりと、戦前教育の影響がまだまだ残っていた昭和50年頃以前ならば百歩譲って分からなくもないが、現在では完全に理解に苦しむ表現ばかりだ。同社の広報室はBuzzFeed Newsの取材に対して何とか釈明しようとしているが、どう読んでも確実にアウトとしか思えない。広報室は同社サイトに掲載した”「現在 SNS 等において弊社社内報の一部が拡散されております件」について”という文書内で、問題の挨拶について、”弊社グループの社員はもとより、株主様等も株主総会などで耳にされております弊社会長の独特の言い回し”と表現しているが、まず独特の言い回しとは高圧的な態度で従業員を過剰に威圧することとしか思えないし、株主らがこのような表現を良しとしているかのような表現をして、まるで一般的なことの範疇であるかのように書いている。「恥の上塗り」とはまさしくこういう時の為にある言葉だ。今後メディアの取材に対して、実名を公表してこの会長を擁護してくれる株主”様”が登場するかにも注目したい。
この件を初めて知った際の率直な感想は「また居酒屋でこの手の話か」だった。というのはアルバイトの賃金切り捨て、内部告発者を懲罰解雇、女性従業員の過労自殺など2000年代に数々の労働問題を起こしたワタミの存在があるからだ。今回の件でその社名が上がったのは甘太郎などを運営しているコロワイドと、牛角などを運営している買収されたレインズで、今回の社内報だけを見るとコロワイド会長がレインズに対してパワハラをしているように感じられるが、そのレインズも運営店・しゃぶしゃぶ温野菜で店長らがアルバイトに対してパワハラ、残業代の未払い、時間外労働の強制、落ちた食材などの弁済を強要、それに伴う脅迫があったとして2015年に訴訟を起こされている。レインズにもこの他にもいくつか同種の問題があるようだ。
最初は「また居酒屋業界でこの手の話か」とも思ったが、これを書いているうちに牛丼チェーン・すき家などの所謂ワンオペ問題や、マクドナルドなどの店長が管理職として扱われることの是非の問題など、居酒屋業界に限らず飲食業界は特に問題が多いように感じる。しかし最近でいえば、昨年明るみになった電通社員の過労自殺問題はワタミの女性社員過労自殺問題とかなり共通点が多いように思えるし、ヤマト運輸の労組が荷受量抑制を申し入れた件などは、すき家のワンオペ問題同様、現場労働者が社の利益優先の姿勢に対して悲鳴を上げている点では同じだ。近年数多く話題になっているコンビニでのアルバイトに販売ノルマ・ペナルティなどを課すような対応も、質的には居酒屋アルバイトへ食材の弁済させたり、時間外労働を強制したりすることと同じである。要するにこの手の問題は居酒屋業界・飲食業界に限った話ではないということだ。
しかし飲食業界を初めとした小売り業界などでこのような問題が起きやすいという傾向は多からずあると思う。というのは、店頭での販売接客業務は店舗営業時間による縛りがあり、24時間営業など長時間営業の傾向が強まるほどその影響は大きくなり、人集めが大きな負担になる。そこにはほとんど悪循環しかないと思う。
・従業員が少ない・集まらない
・大手チェーン店などでは営業時間も簡単に変えられない
・少ない人数で強引にシフトを埋めようとする
・労働の質・従業員のモチベーションは下がる
・しかし売り上げも落とせない
・従業員に販売ノルマを課す
・従業員は辞めたくなる
・従業員が辞めないように脅迫まがいの行動
・管理者がその状態に慣れ勘違いを起こす
・犯罪まがいの事件に発展
・大手チェーン店などでは営業時間も簡単に変えられない
・少ない人数で強引にシフトを埋めようとする
・労働の質・従業員のモチベーションは下がる
・しかし売り上げも落とせない
・従業員に販売ノルマを課す
・従業員は辞めたくなる
・従業員が辞めないように脅迫まがいの行動
・管理者がその状態に慣れ勘違いを起こす
・犯罪まがいの事件に発展
飲食小売業などと先に書いたが、上司が残業していると帰りづらい営業職など、体育会の悪い部分を培養したような社風の下では他の業界でも、労働の質・従業員のモチベーションが下がるあたりからは似たような状況かもしれない。こう書きながら結局、何が最も問題なのか、と考えた。それは押し付けられる責任が大きいのに貰える対価が少ないことかとも思った。その点では「お金さえ貰えれば大抵のことは我慢できる」という人もいるだろう。しかしもっと本質的には”働く環境のストレスが大きすぎる”ということだろう。ピラミッド式にストレスを上(経営者)から下(現場の労働者)へ流している構造があるのだと思う。確かに”働く”ということにおいてストレスが全くないということはあり得ない。しかしストレスが大きければ、それを解消できるだけの何かが与えられるべきではないだろうか。そうでなければ旅客機のパイロットは無制限に個人・会社の裁量で就業できることになっていそうだし、消防士だってもっと少人数で一般的な毎日勤務になっていてもよさそうだ。しかしそうなっていないのは、もしそうだったらそれなりのリスクがあるからだろう。
企業組織では上部になるほど経営責任などのストレスは下部に比べて大きいかもしれないが、社内のルールを自ら決められたり、労働時間も自己都合で融通できる範囲が大きいなど、下部にはないストレス相殺要因もあると思う。中にはコロワイド会長の挨拶にもあったように「(それが)気に入らないなら辞めろ」とか「自分で会社を作れ」という短絡的な考えの人もいるだろうが、経営者は”何をしてもよい独裁者”ではない。なぜ彼らには従業員に「働いてもらっている」という発想がないのだろうか。資本主義の悪い部分を都合よく利用しているとしか思えない。ヒトラーや金日成など政治上の独裁者は忌み嫌われていることを知らないのだろうか。”ビジネスマン”だというトランプ大統領も、彼らと同じように歴史の勉強をしてこなかったのだろう。経済優先という言葉がまるで万能かのように語られてしまうケースが多々あるように感じられるが、経済優先のしわ寄せが多くの人の心を蝕んでいるような気がしてならない。