2日のNHK・クローズアップ現代+で「大麻汚染 新たな危機 移住者たちに何が」というテーマを扱っていた。このタイトルの”大麻汚染”という表現は適切なのだろうか。番組の構成は、ある学者が昨年大麻の成分が身体に与える影響に関する論文を発表したことを紹介し、まず大麻が危険な薬物という印象を描く。そして昨年長野県で摘発された大麻事犯を取り上げ、現在国内に流通する大麻は密輸が減り、国内の過疎地などへの移住者が生産し使用しているということを紹介し、さらに鳥取の産業用大麻生産者を吸引目的での所持で逮捕したという事件の紹介へと続けた。それ以外でも番組内では大麻の危険性を強調し、”大麻に若者が興味を持つこと”自体が悪という論調で語られていた。これが番組タイトルの”大麻汚染”ということなのだろう。しかし、個人的には大麻の精神への影響、依存性、より強い薬物への入り口と考えるゲートドラッグ理論、そのどれも日本では大麻をなぜ問答無用で禁止しているのかを納得させるほどの説得力が感じられず、大麻が法律で禁止されているから悪と言っているようにしか思えなかった。最も強力な合法ドラッグとも考えられる強い酩酊効果を持つ”アルコール”との違いも説明しきれていない。大体”大麻に興味を持つこと”自体が悪だなんて論調を国を代表する報道機関が肯定的に放送するなんて、信条思想の自由に反しないと言えるのだろうか。
日本では大麻吸引を経験したことがあると表明しただけで「危ないおかしな奴」扱いされてしまうのであまり言いたくはないが、自分が大麻を吸った体験から言えば、大麻の酩酊効果には少なからず精神への影響もあるだろうし、依存性も少なからずあるとは思う。しかし生活に支障をきたすほどの影響を感じたこともなかったし、大麻を吸わないと居られなくなったなんてこともなかった。アルコールでも過剰に摂取すれば、生活に支障をきたす精神への影響が出る人や依存症に陥る人もいる。大麻使用者のほとんどが重度の依存症になってしまうというわけではないことは、制限付きで大麻を認めている国や地域の実情を見れば明らかだ。おそらく大麻について拒否反応を示す人のほとんどは、実体験ではなく、法律で禁止されていることに基づいて論じているだけだろう。否定的な意見の人の中に、大麻で家族が逮捕されたという人はいるだろうが、大麻によって精神が崩壊した家族を持つ人や、大麻中毒者に家族を殺されたという人はどれほどいるだろう。日本で許されているアルコール・飲酒で酩酊した状態で、傷害・殺人事件を起こす人がいるという現実があるにも関わらず、アルコールはOKで大麻はNGという状況にどう整合性を持たせるのか説明してみてほしい。
現在日本で大麻の所持・栽培は禁止されているという現実は受け入れなければいけないのは事実ではあるが、個人的に大麻規制に疑問を持つ人には主張の場がほとんど与えられず、ある意味過剰に差別的に攻撃することが許される風潮には賛同しかねる。法律で禁止されているから悪というのは、安部首相もよく言う”思考停止”ということだろう。法律が絶対正しいということはないし、時が経てばそれまで正しかった法律が現実に合わなくなるなんてのはしばしばある事だ。大麻が暴力団など反社会勢力の資金源になっているという意見もあるかもしれないが、大麻規制自体が反社会勢力にほぼ独占的に大麻を取り扱う機会を与えているとも言えないだろうか。実際にウルグアイで2013年に制限付きで栽培・販売・使用を合法化した理由の一つには反社会勢力の資金源を絶つという考え方がある。
上記のウルグアイや1976年から寛容な政策をとっているオランダの他にも、いくつかの国・地域では消極的にではあるが、大麻を容認しようという動きもある。もちろんこれについても番組内では「日本よりハードドラッグによる汚染が進んでいるので仕方なく大麻を黙認せざるを得ない状況で、日本とは状況が異なる」と説明していたが、その一方で「大麻はヘロインと並んでWHOが懸念を示す薬物」と言ってみたり、「大麻はより強力なドラッグにつながるゲートドラッグ」と紹介するなど、大麻がハードドラッグなのかソフトドラッグなのかや、他のドラッグにつながるゲートドラッグなのか、他のドラッグの使用等を抑制する効果のあるものなのかという相反する考え方を、都合によって使い分けて説明するという矛盾が起きていたように見えた。大麻が、番組が強調するように恐ろしく危険なドラッグならば、一部でも諸外国で医療用として認可する、嗜好品としても少量使用なら黙認、もしくは軽微な罪にするなどという流れが生まれるだろうか。そして人によって感覚は違うだろうが、その程度の危険性を”汚染”という強烈な言葉を用いて紹介するという、必要以上に恐怖感を煽る行為を、NHKという番組内容の公平性に人一倍留意しなければならないメディアが行うのは、果たして正常なのだろうか。もしこれを正当化できるなら「大麻が合法化されているオランダやウルグアイ、合法化を前向きに検討しているカナダなどは汚染の進んだ深刻な状態の国」とか、「汚染の進んだ深刻な状態の国だから日本人は渡航するべきではない」などと、それらの国の政策を報道機関として堂々と批判できると思うのだが、クローズアップ現代+のスタッフやNHKはどう考えているだろうか。自分にはそれらの国々が”汚染の進んだ深刻な状態”であるようには全く見えない。