とあるファミリーマートで、監視カメラで撮影した不審な行動をとった客の顔が識別できる写真を、万引き犯として店頭に張り出していたことが話題になっている。本部側の原則として監視カメラ映像を公開しないようにという指導を受けて、写真の掲示を取り止める結果になったようだが、ネット上では「なぜ犯罪者を擁護しなければならないのか、顔写真を取り下げる必要はないんじゃないか」というような意見が多くて驚いた。
万引きは他人の物を盗むという犯罪行為で、万引きした人=犯罪者というのは分かる。自分も個人経営の小売店で働いていたこともあり、万引きをされた側の腹立たしい気持ちも良く分かる。しかしそこばかりに注目しすぎて、今回の件を感情的に判断してしまうことには問題がある。顔写真を公開された人は、厳密にはまだ”万引き犯”ではなく、”万引き犯であることが強く疑われる人”だ。万引き現場を押さえ現行犯で捕まえ、相手も認めれば即万引き犯と認定できるかもしれないが、監視カメラに不審な行動が映っていたとしても、それだけで万引き犯と決めつけて写真を公開することを容認してしまうのはやや危険でもある。この件の写真の人物が万引き犯かどうかは、被害を受けた店舗にとっては厳しく聞こえてしまうかもしれないが、その段階ではまだ確定していない。店員の見間違え・勘違いの恐れもあるし、最悪、悪意を持った店員のでっち上げの恐れが絶対ないとは言いきれない。監視カメラの映像だって加工できないわけではないし、公開されたのは一連の動作を確認できる映像ではなく、映像の一部を切り取った写真だけだ。そこから第三者が万引き犯かどうか確実に間違いのない判断ができるだろうか。もし万引き犯でない人の写真に「万引き犯です」と書かれていたとしても、この件に賛同する人は簡単に騙されてしまうだろう。場合によっては自分が罪をでっち上げられる側になってしまう恐れも考えてみたほうがいい。身に覚えがないのに万引き犯として自分の顔写真がもし店頭に張り出されていたとしたらどうだろうか。最悪今回のようにニュースに取り上げられ、してもいない万引きで犯罪者として日本中に知られることにもなりかねない。このようなケースが絶対ないとは言えず、そのような事が起こってしまったら、ファミリーマートは人権侵害を黙認するコンビニだとしてグループの店舗全てが批判される事態になってしまうこともあり得る。そんな理由もあって店舗の判断だけで監視カメラ映像を公開しないようにというのが本部の方針なのだろう。
万引き犯だけでなく犯罪者かどうかは、本人が認めている場合を除いて、厳密には裁判の判決確定をもって決まることだ。警察でさえ犯人と認定することはできない。「警察が犯人の写真を公開することがあるじゃないか」と言う意見が聞こえてきそうだが、それは”犯人”ではなく犯罪を犯したことを強く疑われている”容疑者”の写真を、捜査機関として重要な案件に限って公開しているのであって、誰もが勝手にやっていい行為というわけではない。警察でさえ犯罪を犯していない者の写真を容疑者として公開してしまい、批難を受ける場合がある。また、犯人と容疑者を混同している人が少なくないのは、テレビをはじめとした報道機関が、警察に拘束されたり、捜査対象になっただけでもまるで”犯罪者”確定というようなニュアンスで扱う場合がしばしばあることもその理由の一つだと思う。
もし写真の人物が万引き犯であることが立証されて、犯罪者ということが確定した場合は、社会的制裁を受けるなど罪を償う必要があるとは思う。しかし犯罪者にはどんな仕打ちをしても構わないというわけではなく、罪の重さによって制限のされ方に違いはあるが、一応一定の人権はある。交通事故を起こした人に恨みをもった被害者が、事故を起こした人に同じ思いをさせてやるとして怪我をさせることが許されないことは、多くの人が理解できることだと思う。容疑者を個人の判断で勝手に犯罪者扱いするような人権侵害を認めてしまったら、悪意を持って対立する人・恨みのある人を犯罪者に仕立て上げようとする人が少なからず出てくるだろう。この件で顔写真の公開に賛同している人には、そういう社会になっても仕方がないと思えるかも聞いてみたい。