注目されていたオランダの選挙では、事前の世論調査などに基づきイスラム排斥などを過激な論調で訴えていたウィルダース氏の自由党が第一党になってしまう恐れあると報じられていたが、自由党も議席数を増やしたものの、ルッテ首相率いる自由民主党が第一党の座を守る結果となった。注目を集めていたウィルダース氏はメディアと距離を置き、主にツイッターで持論を展開する手法や、移民・イスラム教徒などを”クズ”と呼ぶなどの過激な発言から、トランプ米大統領との共通性が報じられていた。ウィルダース氏はトランプ大統領よりも先にこのような活動を始めており、トランプ大統領の方がウィルダース氏の手法を取り入れたと言う話もある。
そのトランプ大統領は、世界中で大きな波紋を呼んだ2月初旬のイスラム系7カ国からの入国禁止する大統領令問題以降も、明確な証拠を示さずにオバマ大統領が自分に対して盗聴を仕掛けていたとツイートしたり、ややその内容については緩和したものの、前述した大統領令が司法当局により執行を差し止められたにも関わらず、ほとんど変わらないと思えるような大統領令にまた署名したりと、相変わらずの傍若無人ぶりだ。その新入国禁止大統領令についてもハワイ州やワシントン州でまたもや執行差し止めの訴えが起こされ、ハワイ連邦地裁が全米での執行差し止めを既に命じている。
中東やアフリカからの移民・難民が増えていることなどを背景に、移民難民、その多くを占めるイスラム教徒の排斥や、そういった施策を進める上で障害となりうるEUからの離脱を訴える、ナショナリズム・民族主義・国粋主義・極右などとされる勢力がヨーロッパ各国で勢いを増しているようだが、今回オランダでの選挙の結果がこのようになったのは、トランプ大統領就任後2ヵ月のアメリカの世界中に大きな影響を与えるような大混乱や、イギリスが昨年国民投票でEU離脱を決めた後の、離脱を訴えていた勢力の無責任な態度などの影響もあるだろう。
ヨーロッパで極右などとされる勢力が支持を集めている理由に、労働者が移民に仕事を奪われることを懸念しているだとか、EU内の経済鈍化の影響で各国が緊縮財政を余儀なくされ、社会福祉政策の規模が縮小しており政府への不満が大きくなっているという見方がある。このような事態について現政府に対して不満をぶつけ、政権交代を望むということは理解できるが、その状況に陥っている理由を特定の宗教や民族に求める考え方は全く理解できない。それは社会的弱者やマイノリティをストレスのはけ口として利用しているだけのように思えてならない。
ヨーロッパ各国の多くは宗教的にはキリスト教徒が多い国がほとんどだと思うが、キリスト教は差別や迫害を認めている宗教なのだろうか。外国からの移民によって自国文化が侵食されてしまうという懸念もわからなくもないが、近代以前にヨーロッパ各国がそれらの国の多くを植民地化し、一部では現地の文化を破壊してきたという歴史をどう考えるだろうか。日本にだって一部で在日韓国・朝鮮人や中国人を差別する人がいること、近世以降に併合した沖縄に対して差別的な意識を持つ人が今でもいることも事実だし、現在難民をほとんど受け入れていない国に住んでいる自分が、こんなことを言えるような立場なのかどうかも怪しいが、”アメリカファースト”とトランプ大統領が訴えるように世界中の国や民族がそれぞれの利益だけを追求し、他はどうでもよいと思い始めたら、最終的に行き着く先はナチスのような危険な思想かもしれないと心配になってしまう。