アダルトビデオ出演強要に関する問題は昨年あたりから話題になっている。ハフィントンポストが、3/2に開かれた被害者根絶を目指すシンポジウムで被害者女性が自らの体験を語ったことについて「「私は洗脳されていた」AV強要の実態、被害者のくるみんアロマさんが語る」という見出しで報じている。記事を読んで、この体験談に関して、この女性が自分の意思に反してアダルトビデオに出演することになったこと、さらに事務所の社長がお金を持ち逃げしてギャラを貰えなかったことなど、所属していた事務所や社長・スタッフが用意周到に彼女を騙したということは事実と言えそうだが、一方で彼女自身も芸能活動(?)の一連の流れの初期段階から明確に”ノー”という意思表示をしておらず、果たして彼女の「私は洗脳されていた」という主張が的確なのかについてはやや疑問を感じる。
記事の中でも触れているように、昨年来話題になるアダルトビデオの出演強要は、法外な違約金を設定したり、監禁に近い状態で被害者に出演を強要するなどのパターンだ。この件に関しては事務所と彼女の間にそのような如何にも”強要”というような要素が感じられない。彼女にとってそれは”洗脳”と表現できる状態だったのかもしれないが、3度ほど全文読み返してみても果たして一連の行為が”洗脳”なのかどうかは、自分は明確に判断することが出来なかった。
例えば彼女が18歳未満で所謂”うまい話”に乗せられてスカウトされ、満18歳になったところで意志に反してアダルトビデオに出演させられたのなら、社会的に判断力が未熟とされる18歳未満をターゲットにした”洗脳”という表現も妥当だとも思えるが、文中に彼女が「高校のとき3年間音楽をやっていたのもあって、」と表現していることから、スカウトされた時点で彼女は既に18歳以上だったと推測できる。この件に関して計画的に騙した事務所側が圧倒的に悪いという主張は痛いほどよくわかるし、そのことに関しては何も間違っていないと思う。しかし一定の判断力がある(とされる)満18歳以上だったにも関わらず、その”うまい話”に乗ってしまい、そして最初の面接でヌード撮影に対して、不本意ながらも「はい」という意思表示をしてしまった彼女にも程度は小さいながらも落ち度があったと感じてしまう。彼女にとっては”洗脳”されていたから「はい」と答えたということなのだろうが、個人的にはその前段階からの彼女の判断にも少なからず問題があったように思える。
これから同じような被害者が出ないようにと彼女が体験談を自ら語ったことに関しては、とても勇気がいることだっただろうし、その行為は素晴らしいと思う。しかしこの記事に関しては、彼女がそういうニュアンスで実際に語ったのか、記者がそういうニュアンスに仕立てたのかは分からないが、音楽活動をしたいという彼女の夢に付け込んだ”洗脳”のように書かれているが、彼女が”うまい話”に乗ってしまったという失敗談であることを強調したほうが今後被害者を出さない為の教訓になると言えるのではないだろうか。アダルト業界や芸能界に限らず、どんな業界にも性質の悪い輩が少なからず存在することは、不本意ながら事実である。騙される人が悪いなんて言うつもりは全くないし、決して彼女のことを批判するわけでもないが、騙されないために判断力を付けることもまた大事なことである。この体験談ではそのこと、最初に”ノー”と言わなかったという彼女の判断が、結果的にこの体験談のようにズルズル業界に染まっていくことになってしまった理由の一つだということについては強調されておらず、そのことを理解しないでこの体験談を読んでしまう人は、結局どこかで別の形で騙されてしまう恐れがあるように思う。
そう思う一方で、アダルト業界で働く女性は満18歳以上とはいえ、社会に出て間もない女性が圧倒的に多いということ、仕事の性質上、内容などについて人に相談し難く、周りの人間も当事者が騙されているということに気付く機会がほぼないということなどを考えれば、彼女のような判断力が充分とは言えない女性たちが、他人の目を気にせず相談できるような、アダルト業界で働いた経験を持つ女性などを中心とした労働組合のようなコミュニティを確立することも必要なのかもしれないとも感じた。