スキップしてメイン コンテンツに移動
 

時給1500円は高いのか


 4/15、新宿で最低時給の1500円への引き上げを求めるデモが行われたことが複数のメディアで報じられている。デモを行ったのはエキタスという若者のグループだ。最低時給1500円と聞いてまず思い浮かんだのは、夢物語では?という感想だ。物価の高い東京では比例するように時給も国内の他地域より比較的高い。しかし東京の街中で見かけるコンビニ・飲食チェーンなどの募集広告でも大体1000円から1200円ぐらいが相場だろう。中には最低賃金を無視するような900円以下の募集を見かけることすらある。政府は景気は緩やかに回復なんてお決まりの台詞を毎年並べてはいるし、株価や円相場もそれなりに安定、失業率は過去最低というニュースが報じられてはいるが、可処分所得は微減、非正規雇用が増えているなど相反する要素も多く景気が良くなっているとは思えないのが現状で、大企業の内部留保は過去最大らしいが、時給を引き上げるだけの体力が日本の多数派である中小零細企業にあるようには思えないし、国民よりも企業の経済性重視の政策を進めているように見える現政府が、そんな現状を知りつつ最低賃金を引き上げるなんて施策を行うとは到底思えないからだ。


 MXの朝番組・モーニングCROSSでもこのデモについて週明けの4/17に取り上げていた。番組コメンテーターたちは

声を上げることが重要」「現在の最低時給は30年前の実質的な時給とほとんど変わらないが、アルバイトの主な担い手である大学生たちの払う学費は上がっている。最低賃金の基準見直しは必要」「声を上げるだけ無く、そうような政策を掲げる政党・団体などへの支持・サポートが必要

というようなコメントをしていた。一方放送中に画面に表示される視聴者のツイートは「福利厚生費・労災その他の保険料などが正規社員には手取りと別に支払われている(のにアルバイトにはそれが無い。時給を1500円に出来ないならそれらを非正規にまで広げる必要があるのでは?)」と言うような肯定的な意見もあったが、

最低時給が上がれば当然物価も上がる。それがわからない人に時給1500円分の能力があるとは思えない」「最低時給1500円になったら雇用者数は減る。企業に無尽蔵に金があるわけではない」「8時間寝て(8時間労働・残業なしと同じような意味と思われる)得られる成果では、時給1500円貰うに値しない」「結果的な平等を求めているから、最低時給1500円なんてデモをすることになる」「最低賃金デモをするなら、休まず、遅刻せず働いてからしろ

などデモについて批判的な意見が多く見られた。中には「真面目な学生を誰かが扇動しているのではないか」という陰謀論を疑うようなものまであった。一応書いておくが、ここに列記したコメント・ツイートは純粋な引用ではない。それぞれのニュアンスを抜粋したつもりだが、コメント・ツイートを元に必要以上に加筆している恐れがあることは理解している。

 番組で表示されていた多くの批判的なツイートを要約すれば、「金が欲しけりゃ時給1500円なんて非現実的なデモなんてせずにその分働け」と言いたいのだろう。前述したように確かに自分も時給1500円は、現状では非現実的だと思う。だが、時給1500円は批判的な人々が言うように無謀な高望みとしか言えないのだろうか。現在の最低賃金は地域ごとに異なっており、932円(東京)から714円(宮崎・沖縄)の間で設定されている。時給900円で1日8時間・週5日で40時間働くとすると月収は14万4千円。時給1500円だと同じ時間働くとして月収24万円。アルバイトなのでボーナスは無いと仮定して年収にすると時給900円で172万8千円、1500円で288万円。時給1500円でも正規雇用者の平均年収や中央値以下であることは間違いない。アルバイトに学生が多いことは事実だが、アルバイトなどで生計を立てている非正規雇用者が確実に増えていることを考えれば決して時給1500円が高いとまでは言えないだろう。時給1500円が現状では非現実的なことは事実だが、デモを行い声を上げることを”馬鹿げた行為”だとまでは決して言えない。

 また、批判的な人が主張する”時給1500円の為にはそれなりの能力が必要・それなりの責任が発生する”という話だが、最低賃金と能力は全く別の話だと思う。最低賃金は物価などから労働者が生活していく上で必要になる金額を計算し、それに見合う賃金を定め労働者が搾取されないようにする為に設定されるものだ。最低賃金と能力を並べて考えるのは適切とは言えない。また”最低時給が上がれば当然物価も上がるのだから最低時給を上げても意味は無い”という批判もあったが、日本が抱える大きな経済命題のひとつ”デフレからの脱却”という視点で考えればそれは意味がないどころか、政府の経済政策とも共通点がある。それがわからないなら時給1500円分の能力がないというのなら、首相や財務大臣は時給1500円以下で働けと言うことになる。現政権の経済政策が順風満帆とは決して言えないが、「最低時給が上がれば当然物価も上がる。それがわからない人に時給1500円分の能力があるとは思えない」と主張した人の方が実は能力が無いのかもしれない。

 このように考えると、結局番組に投稿されていたデモに批判的な人々の多くがまずブラック企業的な発想を持っていることがわかる。更に無責任な学生などのアルバイトに無断欠勤・無断辞職などをされて、何かしらのとばっちりを受けたというような経験があり、アルバイト=質の悪い労働者という固定観念に捉われているのだろう。しかし質の悪い労働者でなくても非正規雇用でしか働けない人が増えているというのが現状である。政府が掲げる働き方改革、非正規雇用の拡大を労働者の流動性を高めることと捉え肯定的に受け止めるならば、最低時給の引き上げ・非正規労働者の福祉充実などを検討する必要性があることを認めなければならないと思う。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。