泥沼化するシリア内戦で化学兵器を使用した攻撃が行われ市民など70名以上が死傷した。アメリカを始めとした西側諸国ではアサド政権・シリア政府軍が化学兵器を使用した爆撃を行ったという見解が拡がっているが、アサド政権を支持しているロシア政府はシリア軍は化学兵器を保有していない・使用していないという見解を示している。今までの経過などを考慮すると、アサド政権やこの件に関するロシアの主張に信憑性があるとは思えないが、現状ではその主張が真実ではないという明確な根拠は明らかになっていない。にも関わらず、アメリカ・トランプ大統領はこの件に関する裏取りが出来たとして化学兵器攻撃の拠点とされるシリア空軍基地への攻撃を指示し、実際に59発の巡航ミサイルが基地へ打ち込まれた。
トランプ大統領は、シリア軍が化学兵器を使用したという確証を掴んだとしているが、トランプ大統領は確証を掴んだとしてオバマ政権のトランプ氏への盗聴を訴えていたが、いつまでたってもその証拠は示されず大統領への信頼度が大きく下がっているだけに、アサド政権・ロシアと同じようにこちらの話も手放しで信用するわけにもいかないと考えるのが筋だろう。アメリカには、イラクを攻撃した際も大量破壊兵器の保有をその理由にあ掲げたが、結局その大量破壊兵器は見つからなかったという過去もある。
トランプ政権は発足以来、公約に掲げていた政策をまともに実行出来ずにいる。未だに政権内人事もしっかり固まっておらず、それらしい成果を上げることが出来ずに支持率を日々下げている状況だ。更に唯一の政権の手柄とも言える、政権の掲げた経済政策への期待感による株高も前述のような状況を背景に反転しそうな状態だ。今まで大統領就任以前から「シリアについてはロシアに任せた方がIS対策になる」という姿勢だったトランプ大統領が、何故急に180度転換したかと言えば、建前では「子供や女性を殺し、アサド政権は一線を越えた」などとしているが、就任後全く良いところのない事からきた焦りがそうさせたのだろう。要するに大統領は手っ取り早く手柄を立てることだけに気をとられ、もしくはよく考えずに政権発足以来の悪いイメージから国民・世界の目を逸らそうという短絡的な考えで攻撃を指示したようにしか思えない。短絡的な・直感的な行動はある種彼の特徴とも言えるが、今回は武力行使という重大な行為に及んだのだから今後への影響はこれまでとは質・規模で明らかに異なることは確実だ。
現状ではロシアとアメリカの関係悪化は避けられないという見方が大勢を占めている。それは冷戦時代への逆行を危惧させるし、中東での武力衝突に端を発し大戦クラスの戦争へなんて最悪のシナリオも頭をよぎる。実際はそうならないように国連や他の国の代表などが努力をするのだろうが、我が国の首相は即座に「米国の決意を支持する」というコメントを発表した。このコメントの前には「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないという米国政府の決意」という発言があり、一部ではシリアに攻撃を仕掛けたトランプ政権は、核不拡散を前提に同じ様な対応を北朝鮮にもしてくれるだろうという期待があるという見方もあるが、発言のタイミング・その後の菅官房長官の会見などを考慮して考えれば、米国のシリアへの攻撃を支持と捉えて間違いない。戦争の放棄を憲法に掲げている我が国の首相が、日本人が犠牲になったとか、日本への攻撃が直前まで迫っているならまだわかるが、そうではない現状において果たして妥当なのだろうか。
日本が西側諸国の一員・アメリカの子分筆頭のようなポジションであるにも関わらず、赤軍やオウム真理教など国内発の事件は別として、戦後70年外国による武力攻撃や近年のイスラム過激派によるテロのような攻撃の対象になぜならなかったのかと言えば、それは在日米軍の存在もあるのだろうが、”戦争の放棄・戦力の不保持”を掲げた憲法の存在があると思う。戦力の不保持については予算規模が決して小さいとは言えない自衛隊の存在という矛盾点は抱えているものの、日本の”他国への武力行使をしない、良しとしない”姿勢は確実に日本がこれまでそのような事態に巻き込まれなかったことの大きな要因だと感じている。だとすれば今回の米国のシリア攻撃について、我が国の首相は支持するのではなく、「もう少しよく考えて行動した方が得策だ」と諫めるような姿勢をとるべきだったと感じる。勿論化学兵器が使用され多くの市民が殺されたことには何等かの対応・対策を講じる必要はある。しかし紛争の解決に武力を用いないとしている国の代表である首相が、明確な理由を示さずに行われた他国への攻撃を支持するのは、ある意味では戦争をけしかけているようでもあり、如何なものかと思えてならない。