韓国人タレント男性がネット生番組の配信中に訪れた京都のラーメン店でその店にいた客から、「Fack'n Koreaやねん、Go outや」などと差別的な発言を受けたことが大きな波紋を呼んでいる。この客の発言を咎めなかった店に対する批判も起こっているようだ。発言に対する批判・擁護ともに様々な憶測を交えた、複数の主張が主にネット上で展開されているが、個人的には発言した客は言語道断、店に居合わせた客・店員が彼の言動を止めなかったことにも憤りを感じる。当然ネット上で主張されている”この発言自体が韓国人タレントが行ったヤラセ”という見解にも全く同意できない。
差別発言をした本人は批判されて当然だが、他の客や店員まで批判されるのは如何なものかという意見もあるだろう。だが、件の映像を見ていると差別発言の後にそれを見て嘲笑するような声が聞こえてくる。店内の様子が良く見えないので居合わせた客(店員が含まれる可能性もある)全員が笑ったのかは分からないが、確実に何人かは差別発言を受けた韓国人タレントを嘲笑している。居合わせた人のうちの何人かも差別的発言をしたも同然だ。また店員はこの出来事について作業に没頭していて気がつかなかった可能性もある。しかし”こんな差別的な店は営業するべきではない”という程の強い批判や、そのレベルの制裁を与えるべきとは思わないが、自分たちが管理している店の店先でこのような事件が起こったことに気が付けなかったことには、ある程度の反省が必要だと思う。BuzzFeed Japanの記事によれば、店のオーナーもこの件に関しての謝罪を示しているようだ。また店が客と共謀して差別を行ったこともないとしている。
自分が学生だった30年前、イジメについて”見て見ぬふりするのもイジメを行っているのと同じことだ”と教わった。今でも同じ話を学校でもしているだろうし、テレビでも啓発コマーシャルが流されている。この件に当てはめれば、韓国人タレントがいじめられる側、差別発言をした男性がいじめの主体、嘲笑する客がいじめの共犯者、気がついても何も言わなかった、もしくは気がつかなかった客・店員が見て見ぬふりをする第三者に当たると考えられる。イジメというと私たちは未熟な未成年の問題と捉えがちだが、成人の中にも同じような構図で行われるイジメがこのような外国人差別以外にも多く存在する気がする。要するにイジメを行う未熟な成人が存在しているということだ。
ネット上で繰り広げられる、この件は韓国人タレントと客が共謀して行った、日本の評判を落とそうとするやらせ・フェイクニュースではないかという見解だが、テレビ朝日のモーニングショーによると、韓国人タレント・店のオーナーだけでなく発言を行った男性にもインタビューを行ったとしており、3者ともやらせではないと明言したようだ。男性は酔っていたらしく”自撮り棒片手に店の様子を伺っていたので、撮影されることに腹を立て、イントネーションで韓国人と判断しあのような発言をした”という趣旨のコメントをしたようだ。また”心の底から韓国人を排除したい”という意図はなかったとも話したようだ。その報道に間違いがなければやらせでもフェイクニュースでもないだろう。
よくこの手の所謂ヘイトスピーチ的な発言を”表現の自由”があると擁護したり正当化しようとする主張を目にする。自由にはもれなく責任がセットになっていることを忘れているのではないだろうか。確かにどのような思想信条も制限されるべきではないが、それは公序良俗に反しない限りという前提があり、自由に思ったまま何でもして良いということではない。例えば、嫌いな人が居たとしても、嫌いというだけで公共の場所から排除したり、傷つけたり、殺したりする自由はない。この件で言えば、撮影されることに腹が立ったとしても、国籍・民族を対象にした差別的発言が許される理由にはならないということだ。この韓国人タレントが行っていた生番組の、問題の場面より前の映像を見てみると、彼が一般的に女性受けのよい容姿であり、街中で女性ばかりに声を掛けて回っている様子が多く、個人的にはあまり良い印象は抱けなかった。でもそれは個人の印象で、当然好意的に受け止める人もいるだろう。彼の行動には賛同しかねるが、制限されるべきようなポイントはなかったように感じる。また、自撮り棒の使用に関する嫌悪感についてだが、マナーが悪い人が居るからといって、その使用全てや自撮り棒の存在自体が否定されるべきものでもない。遊園地などが個別のルールを設けるのは理解できるし、人にぶつかる・他人の往来を著しく妨げるような使い方をするべきではないとは思うが、自撮り棒を使っている=不快というのも差別的だと自分は感じる。
またネット上に広がっている、この件がフェイクニュースだという主張にも懸念を感じる。フェイクニュースといわれる真実ではないニュースは確実に存在する。その影響が深刻であることも間違いない。しかしフェイクニュースという言葉を自分に都合よく解釈している人が多くいるようである。BuzzFeed Newsのコメント欄にもこの件をやらせとするコメントが複数投稿されているが、彼らにはまず”韓国人に対する嫌悪感”がありそれを正当化するためにやらせ・フェイクニュースだと言っているように見える。フェイクニュースとは真実ではないニュースのことであり、自分が信じたくないニュースのことではない。自分の心情によってある程度の偏りが生まれることは仕方がないのかもしれないが、時には自分の考えを疑ってみることも必要ではないだろうか。過信は多くの場合不幸な結果を生んでしまうものだ。