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していきますの多用


 モータースポーツを中心にスポーツ中継をテレビでよく見る。スポーツ中継には欠かせない存在と言えば実況アナウンサーと解説者だ。実況に求められるのは、画面を見ていなくても出来るだけ状況を理解できるような表現、すなわち正確性だと思う。また解説者と共に見ている人の気分を盛り上げるような演出をする能力も求められると思う。正確性と演出という一見対極にあるとも考えられそうなもののバランスを保つことが最も重要なのかもしれない。また言葉選びも重要なポイントだろう。彼らもそれぞれ一人一人の人間なので、各々よく使う言い回しや口癖のようなものがある。例えば言葉に詰まったり、間を取ったりするのに「さぁ!」を多用する人、「---されます」のように受身表現を使いがちな人、解説者のほうが多いかもしれないが「まぁ、」を毎回ように喋り始めに使う人などだ。


 中でも自分が気になるのは「---していきます」が口癖になってしまっているアナウンサーだ。”なってしまっている”とネガティブに表現したのは、「---していきます」と言っておけば躍動感が出ていると感じるのか、「---していく」という表現がそぐわない場面でも使用していると感じることがあるからだ。一切使うなとは言わないが、「---します」という表現の方が状況により適している場合でも「---していきます」としていると、”とりあえず「---していきます」と言っておけば喋りが上手いように聞こえるだろう”的な、悪く言えば所謂馬鹿の一つ覚えのように聞こえてしまう。人によってはそんなことは感じないと言う人も当然いるだろうが、自分には前述の盛り上げる為の演出を無理にしようとしてた結果、失敗しているように思える。

 この記事でも書いたが英語表現をそのまま使いすぎるのも気になる。あるバイクレースの中継で、予選の前に3回行われた”フリー走行の全ての記録の中での最速タイム”というのを表現するのに、英語のCombinedという表現をそのまま使って”フリー走行コンバインドのベストタイム”と言っていた。コンバインドなんて分かり難いカタカナ表現を使わなくても”フリー走行通算の最速記録”とすればよいと思う。それで正確に表現できていない点はないだろう。ベストタイムとか、フリー走行とかはまだ分かるが、通算を”コンバインド”と英語そのままで表現するなんて通算という単語を思いつけない、要は語彙力が低いと思えてしまう。アナウンサーならそのくらいの語彙力は持っていて欲しい。

 因みにすでに日本語表現として定着しているフリー走行も、英語ではFree Practiceで、直訳すると自由練習だ。フリー走行という表現が既に広く定着しているので、カタカナ表現をやめたほうがよいという話ではないが、前述のCombined/通算の件を考えていたところから、Qualifyingを予選、Raceを決勝(レース)としているのだから、練習走行なんて日本語でもいいんじゃないかと思った。Free Practiceを直訳した自由練習だと、Freeとは言うものの、ほぼ全ての選手が参加することを的確に表現していないように感じられる。Freeは自由参加という意味ではなく、区切られた時間の中で走行するタイミングが自由とだからなのかもしれないが、モータースポーツの予選は大体Free Practiceと同じ形式で1周のタイムを競う。だがFree Qualifyingとは言わない。だったら練習走行辺りが妥当だろう。決勝レース前にFree Practiceと同じ形式で行われる練習をWarm Upと表現する。これについて同じ形式で行われるFree PracticeとWarm Upを日本語で区別する必要があるのかは見解が分かれるだろうが、ウォームアップは日本語化していると考えればそのまま、漢字表記にしたいならFree Practiceと同じ練習走行でいいんじゃないだろうか。

 日本語は特に戦後、外国語の表現を柔軟に取り入れてきたという側面がある。だが日本語に元からある表現まで外来語を使用する必要があるのか。文芸作品などの演出としてわざと使用するのは別として、アナウンサーが実況でわざわざそれをすることが必要とは思えない。絶対ないとは言えないが直感的な分かりやすさの方が重要だ。日常的に使われなくなった単語も積極的に漢字表現を使えとは言わないが、通算・練習なんてごく一般的な単語は積極的に使うべきなんじゃないかと思う。日本語実況を聞いている人の大多数は日本人だ。

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