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都合の良い解釈


 今日、5/9は韓国の大統領選の投票日だ。米朝間の緊張感が高まり、周辺国へも大きな影響があるが、とりわけ韓国は北朝鮮とは元々一つの国だったこともあり、周辺国・日中韓露のなかでも最もその影響を受けている中での大統領選だ。また、EUの中心的存在のフランスがイギリスに続いてEUから離脱し、EUが崩壊するかどうかがかかっていたという見解もあったフランスの大統領選も、同じかそれ以上に注目されていたが、昨日、日本時間の5/8に明らかになった結果は、極右政党・国民戦線のルペン候補に大差をつけたマクロン候補の圧勝だった。このフランス大統領選の結果をMXテレビ・モーニングCROSSでも扱っていたのだが、それに対する視聴者のツイートの中に「仏国大統領選。どうして国民戦線を「極右」と言うのかが、結局自分には分からなかった。自国のことを自国民が決めることを主張するのは普通の範疇だと思うけどな。」というものがあり、画面に表示されていた。


 このツイートを見て、まず”この人は自分の見たい情報だけしか視野にないのだな”と感じた。まず、右翼や左翼の定義と言うものが必要かもしれないが、国によって右翼や左翼の定義は微妙に違う。だが右翼は保守、左翼は革新というのが大雑把なその意味だ。それに”極”が付くと過激さが加わる。日本で極右と言えば、国粋主義・国家主義・差別主義などのイメージがあり、目標を実現する為なら強硬な手段、他民族・他国民への差別も厭わないという勢力のことを指すと自分は思っている。それを前提に国民戦線が今までどのような経緯を辿ってきたのかを知ってもらいたい。国民戦線は今のマリーヌ・ルペン体制になる以前、彼女の父親ジャンマリ・ルペン体制だった頃は公然と反ユダヤ主義を標榜し、ナチスのユダヤ人差別があったかは疑わしいというようなことまで発言するような団体だった。マリーヌ・ルペン体制になってからは反ユダヤのイメージの払拭に励み、反EU・反移民に舵を切り支持を伸ばしてはいるが、ごく最近も党の中心的な人物がナチスによるユダヤ人差別があったかについて疑問を呈するような発言をしている。組織の中から差別的な思想が一掃されたかどうかはかなり疑わしい。

 それだけでも充分”極右”と言えるだろうが、ルペン氏の、反移民についての差別を煽っているとも思える過激な発言も国民戦線が極右と言われる理由の一つだと思う。移民に制限を掛けることや不法移民を取り締まることは当然、治安や社会を守る為には当然行われるべき施策だ。しかしそれを理由に過剰に移民やその子孫、イスラム系住民に弾圧を加えることがあってはならない。フランスではパリでのテロ以来今でも非常事態宣言が継続中であり、令状なしに当局による捜査が行われている。テロを行ったのがイスラム過激派に影響を受けた移民の子孫だったことを理由として、イスラム教の宗教施設などの差し押さえなどが強硬されている。そんな状況が既にあるにも関わらず、さらに差別を煽るような発言をする指導者候補やその政治団体を、極右と表現することが明確に不当であると言えるだろうか。

 また、EUの主要国には移民を積極的に受け入れるべき過去の歴史があると思う。積極的にという表現が気に入らなかったとしても、移民を完全に排除するべきではない理由があると言えるだろう。それは近世・近代以降、第二次世界大戦が終わるまでの長い間、それらの国々は、多くの移民のルーツである北アフリカやアジア・中東地域で多くの侵略行為を行い植民地として差別的な支配をしてきた。その影響は今日でもそれらの地域に深刻な影響を与えている。勿論既にそのような負の歴史から立ち直っている国もあるが、文化を破壊された影響が深刻で立ち直れていない国があることも事実だ。要するにそれらの地域の国々に現在ある貧困・紛争・混乱にはEUの主要国にも責任の一端は確実にあると考える。

 日本も移民を積極的には受け入れておらず、また日本が戦前に侵略を行った国の一部である中国・韓国に対して、当然それらの国の中にも不適当な主張がないとは言えないが、歴史上、我々が加害者だったことを棚に上げ、不適当な主張に対する不満だけに注目し差別的な発言をする輩がおり、EU諸国ばかりを批判するのもおかしいかもしれないが、前述のような歴史的事実がなくても移民を完全に排除するのは人道に反すると言えると思う。
 例えば、日本では好きな場所に住む自由が国民の権利として認められている。もし地球が一つの国だったなら、理想的にはどこの国に住むかを決める自由は地球人の権利として認めるのが妥当だと言えそうだ。勿論現在地球は一つの国ではないし、まだまだそれぞれの国・民族間にわだかまりがあり、そのような理想の実現には至らないかもしれないが、そこへ向けた努力が必要なこと、特に先進国と言われる国々にその義務があることは、先進国の多くで国内での転居の自由が認められていることから考えれば明らかだ。経済的な理由で貧しい国から移民してくるなと言うのを日本国内に置き換えれば、平均所得の低い県から東京や大阪等の大都市圏に、経済性目当てで移住してくるなと言っているようなことではないだろうか。平均所得の低い県と大都市圏の差が広がらないように政府がバランスを取るように、地球規模で見れば相対的に経済的に豊かな地域が、新興国などに援助を行うべきだし、それらの国が経済的に潤えば、先進国へ移民したがる理由も減るだろう。そう考えると過激な反移民、移民排斥の姿勢を示すルペン氏が、差別主義者に見えるだろう。要するに差別的な主張とも相まって”極右”と言ってなんら不思議がる点はない。

 話の元になったツイートの「自国のことを自国民が決めることを主張するのは普通」という主張はとても当然なことで、なんら間違っているとは思わない。しかし決める内容が不適当なことならばそれは普通とは言えない。自国や自国民の安全の為という理由、自国の経済を守る為という大義名分を隠れ蓑に、誰かを差別したり弾圧したりすることがあってはならない。実際フランスでは移民・難民だけでなく、元移民の国民やその子孫など、フランス以外にルーツを持つ人々への弾圧・迫害が既に行われている。しかしよくよく考えて欲しい。移民はともかく元移民もその子孫もフランス国籍を持つ紛れもないフランス国民だ。ルペン氏は明確に発言をしていないという見解もあるかもしれないが、要するにルペン氏は自国民に差別が行われることを煽っているとも言える。それはフランス第一主義でもなんでもなく、ナチスのユダヤ人政策や、南アフリカで行われていたアパルトヘイトなどと同じ民族差別だ。よく”移民がフランスに溶け込もうとしない”なんて主張も耳にするが、溶け込むことを認めないフランス人たちが居るから現在のような状況が生まれているとも言えるだろう。

 ルペン氏らの反移民・反イスラムを叫び支持を得るようなスタイルは、自分には没落した中産階級という社会的・経済的に強い立場とは言えない人々の不満を、更に社会的・経済的に弱い立場である移民やその子孫へ向けるということを行っているように思えてならない。要するに「弱い者が更に弱い者を攻撃する」というかなり醜い社会の構図を煽っているように見える。没落した中産階級の不満の矛先は本来、彼らが没落した理由の一端であるグローバル化によって、不適当な規模で利益を独占している企業や権力者などの既得権益者に向けられるべきなのに、ルペン氏の姿勢は既得権益者へ彼らの怒りが向かないようにして既得権益者の利益を守り、更に国民戦線の目標である国粋主義的な社会の実現の為に、彼らの怒りを悪く言えば騙して利用しているように感じる。

 「仏国大統領選。どうして国民戦線を「極右」と言うのかが、結局自分には分からなかった。自国のことを自国民が決めることを主張するのは普通の範疇だと思うけどな。」なんて主張が出来てしまう人は、フェイクニュースや耳障りの良いことばかり主張する指導者に最も騙されやすいタイプの人だと思う。このような人たちは歴史を顧みることも、複数の事実を複数の視点で考えることもせず、自分のためだけに自分が見たいものだけ見ているとしか思えないからだ。

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