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不思議な啓蒙


 「体育館、水拭きはしないで はがれた床材が刺さる事故も」 朝日新聞が5/29に掲載した記事の見出しだ。記事によると、床が水分の吸収と乾燥を繰り返しすことで床材がはがれる恐れがあり、そのはがれてささくれのように尖った部分が刺さる事故が起きているので、床の水拭きをしないようにと、調査を行った消費者庁の消費者安全調査委員会が注意喚起を行っているということだ。懸念を示すことは理解できるが、ではどうやって体育館を掃除すれば良いのか、という疑問も沸いてくる。

 自分は小中高とバスケットボール部に所属していた。自分が中高生だった80年代には、まだまだおかしな年功序列感覚が部活動を支配しており、中学校では上級生から「新入部員はバスケットボール用のシューズを履くな、学校指定の体育館履きを使え」というようなことを暗に示唆する雰囲気があった。しかし高校では怪我をしないようにバスケットボール用のシューズを持っている者は必ず履け、持っていない者も出来るだけ早く用意するようにという方針を顧問が示していた。バスケットボールシューズは当然専用に作られている。踵が高くなっているのはジャンプ後の着地や、不意に人の足の上に載ってしまった際に足首の捻挫を減らす工夫だし、急な動きに対応できるように靴底のグリップ力が学校指定の体育館履きと比べて、格段に良くなるような素材や形状が採用されている。要するにバスケットボールシューズの着用をする理由の一つには、体育館で滑って怪我をしないようにということもある。しかしそんな専用のシューズを履いても体育館の床が埃だらけでは性能を活かすことが出来なくなる。その為部活の前後にモップや雑巾がけを行うことは、良いプレーの為だけでなくスリップによる怪我を防ぐと言う意味でもとても重要なことだった。


 記事によれば剥がれた床材が刺さる事故、中には重大な怪我に至ったようなケースもあるようだが、その件数は2006年から2015年の間で7件(程度は不明だが大怪我に該当するケース)だそうだ。スリップによる怪我がどの程度起きているかという数字を探せていないので、水拭きした結果床材が剥がれて刺さる怪我が起こる確率と、水拭きせずスリップしたことにより起こる怪我の確立を単純に比較することは出来ないが、床材が劣化する恐れがあるからと言って「清掃の際には原則として水拭きをするべきではない。水拭きをする場合は、固く絞って」と呼びかけるのは安易過ぎるのではないかと感じる。恐らく調査を行った人の中に体育館で行うスポーツを経験した人がいなかったのだろう。居るのにこのような呼びかけをしているのなら、恐らく少し過激な表現で注目を惹きたいということなのかもしれないが、それは現実に即していないとしか言えない。

 水拭きはするなと言っているが、掃除をするなとは言っていないのでは、と感じる人もいるかも知れない。記事に寄れば、

事故調(調査委員会)によると、事故があった体育館は床が湿気や雨漏りでぬれたり、水拭きやワックス掛けがされたりしていた。古いワックスを洗い落とす作業では水を使う。床板は水分の吸収や乾燥を繰り返すことで、損傷や板割れが生じてはがれる可能性がある。

らしい。要するに水拭きだけでなく、ワックスがけにも同様の懸念があるとしており、この主張を前提に掃除を行うには、もはや掃き掃除か乾拭きしかないように思える。しかしそれでは確実に体育館の床が滑らない状態にはならない。要するに床材が刺さる怪我を懸念しすぎれば、今度はスリップによる怪我が増えることが予想できる。それでは結局根本的に怪我を減らすという目的は達成できないのではないだろうか。記事内では水拭き清掃はするなと言っているが、その代替案は全く示されていない。それとも自分が現状の体育館利用状況を知らないだけで、新しい清掃方法が既に一般化しつつあるのだろうか。それなら批判を改めるべきだろうが、そのような話を聞いたことがない。

 調査を行った委員会は「原則水拭きをするな」なんて極端なこと強調するのではなく、「水拭きには床材を傷めるリスクがあるので、雑巾は固く絞ろう。そして傷んだ床は早めに補修しよう」と呼びかけるほうが適切だと思う。学校の体育館で冷暖房設備があるところなどはごく少数で熱中症対策などの為、バドミントン部だけは別だが夏場は窓や扉を開放することが常だ。そうすれば風と一緒にグランドなどからの砂埃が入ってきてしまうのはある程度仕方ない。それを掃除するのに水拭きをしないだとかワックスをかけないだとかはあまりに非現実的だ。もう少し現場の状況を考慮した調査と啓蒙を行って欲しい。注意喚起自体は必要で間違いではないが、怪我を減らす為に「水拭きするな」という対策を強調したことは適切だとは思えない。

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