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上皇誘致競争


 京都府や京都市、奈良県などが、退位後の現天皇陛下にそれぞれの地域に住んでもらいたいと表明しているらしい。適切な表現かどうかは分からないが、率直に言って上皇誘致競争をしているように見える。昨年夏、天皇陛下が高齢などを理由に公務を万全な状態で続ける為の体力が無くなりつつあるなどの懸念を表明してから、明確な規定が無かった生前の退位について、馬鹿馬鹿しいとも思える程の、そこまで厳密な必要が果たしてあるのかとさえ思えるような議論が行われてきた。賛否両論はあるがやっと特例法という形式で退位を実現することが可能になったというのが現状況だ。天皇陛下のこれまでの公務に対する真摯な姿勢や、その公務に全身全霊を注ぐことが出来なくなった、若しくは今後出来なくなりそうだと陛下自身が感じられた状況を考えれば、一刻も早く退位をさせてあげたいと多くの国民が考える中で、何故約1年もの時間をかけて退位を特例法で実現するのか、皇室典範自体を改正するのかや、退位後の称号をどうするのかなどの検討をしていたのかと言えば、例えば強制的な退位をさせるなどの、将来起こるかもしれない天皇の地位の政治利用への懸念を出来る限り排除する為だと言える。


 天皇陛下が昨年夏に所謂お気持ちを表明された時にも、それがきっかけで特例法制定だとか皇室典範の改正が行われることは、憲法で認められていない天皇の政治分野への介入になるのではないか、という見解もあった。現在の憲法下で天皇や皇族に、一般の市民と同じように様々な権利が認められているのか否かという話もあるが、個人的には天皇陛下も一人の人間であり、高齢を理由とした退位は定年退職のようなものだし、死ぬまで公務を続けろというのもおかしな話だと思う。また、天皇陛下が積極的に政治に介入することについては様々な懸念もあるだろうが、それを懸念するあまり陛下が意思を主張することを過度に制限するのも人道的な対処とは思えない。だから出来る限り速やかに退位を実現することは重要で、天皇の地位の政治利用の恐れを出来るだけ排除することも、その為には同じく重要なことだ。

 各自治体が上皇誘致に乗り出している理由については、様々なことをそれぞれが主張しているが、誘致を表明している自治体が所謂日本の古都だということも勘案すれば、要するに観光などを重視した地域振興がその主たる理由だと感じる。こういった誘致運動が起こった時点ではそれぞれの府民や市民の陛下への思いが中心で、政治的な背景があったと言えるかどうかは分からないが、その思いを自治体が汲んだとしても、自治体を中心に地域振興などを目的として誘致運動を行うようになった時点で、それは政治的な意味合いを確実に含むようになっていると感じる。天皇の退位についてその地位の政治的な利用が起こらないようにという考えの下で今まで議論を進めてきたのに、この一件は退位が実際に実現する前から政治利用をしようという動きが一部で起こったのだと自分は感じる。場合によっては陛下がお気持ちを表明したからこのような事態が起こったなどと受け止める人もいるだろう。誘致を表明した自治体や市民に明確な意図が無かったとしても、結果として生前の退位に関して新たな政治利用の恐れをわざわざ表面化させてしまったのなら、ある意味で陛下の思いに対して配慮が足りないと言わざるを得ない。

 このように自分はこの各自治体による上皇誘致競争について全くいい印象を持てない。しかしそれについて各自治体を批判することも、広義で考えれば生前の退位に関する政治的な主張の表明とも言えるかもしれないのではないかという懸念を感じる。陛下が高齢を理由に退位したいという気持ちを表明したということを噛み砕いて表現すれば、この先はゆっくり余生を送りたいということでもあるだろう。要するにこのような退位や退位後の身の振り方についての是非の議論が起こることすら、陛下からしてみれば本望ではないと個人的に感じる。ならば出来る限り余計なことはせず、出来るだけ退位・上位を除いて今まで通り天皇陛下が暮らせるように、波風を立てぬようにするべきではないだろうか。

 解釈の範囲を広げれば、陛下自身がお気持ちを表明したことも政治分野への介入というように受け取れなくもないし、天皇陛下の立場を考えれば究極的には天皇や皇族に関する全てのことは政治的な要素を何かしら含んでいるとも言えるかもしれない。この件に関して天皇の地位の政治的利用かどうかは別としても、陛下自身が退位後は東京ではない場所で静かに過ごしたいという陛下自身の意向が少しでもあるなら、各地が誘致を考えることも理解できなくは無いが、そのような話は聞いたことが無い。ならば陛下がご高齢であることを考慮すれば、出来るだけ親族の近くで余生を送る方が色々な意味で好ましいのではないだろうか。そういうことまで考えて京都府・京都市、奈良県が上皇誘致を表明しているとは自分には到底思えない。 

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