音楽などのイベントチケットの転売による弊害が社会問題化して久しい。個人的には、根本的にはチケット転売自体を否定することも出来ないが、あまりに第三者が利益目的で取引を行い過ぎることは、音楽という文化にとって悪い影響を与える恐れが強いとも思う。チケット転売に対するイメージ、賛否には多くの見解があるだろう。ここではそれについてではなく、音楽業界4団体が、利益目的ではなく不意の理由によってイベントに参加できなくなったチケット購入者などと、正規にチケットを購入できなかった参加希望者を繋ぐことを目的に開設した個人間チケット取引サイト・チケトレの広告に使われたコピー(リンク先はこれについて取り上げたBuzzFeed Newsの記事)について考えてみたい。
そこには「チケットは、お金儲けの道具ではありません。アーティストとファンを結ぶ架け橋です」というコピーがある。コピーとは広告へ読者の目を惹きつける為や、話題を盛り上げる為にもあるとは思うが、音楽を生業としている団体が「チケットはお金儲けの道具ではない」と言うのはどうにも納得できない。まるで音楽業界やイベントを行うアーティストらは他に主たる生業を持っていて、音楽活動は利益度外視のボランティア的な活動、若しくは趣味的な活動で行っている、と言っているような印象を受ける。要するに綺麗言を言い過ぎているように思う。音楽業界・アーティストらは確実に音楽でお金儲けをして生活しているはずだ。法外な価格設定などバランスを欠いたお金儲けは嫌悪の対象になる恐れがあるが、お金儲け自体は悪いことではない。チケット転売問題で問題視されているのもチケットによるお金儲け自体ではなく、本来アーティストらの収入や、イベント参加者の利益(金銭的とは限らない。例えば会場の快適さやイベントの完成度など)の為に使われるべきであろうチケット販売による利益を、関係性の薄い第3者がバランスを欠くようなレベルで上げていることや、転売目的の第3者がチケットを購入し高額で転売する事によって、純粋にイベントに参加したい者の参加を妨げる大きな要因になっていることだと思う。
チケトレについては他のオークションサイトなどに比べて手数料が高いなど、本当に問題解決に繋がるのかという懸念を持つ人もいるようだ。だから運営側としてはなんとしても軌道に乗せたいという思いがあるのだろう。しかし注目を集めることが目的とはいえ、美辞麗句を並べるようなコピーを使うことは、結局本来受ける必要のない批判を結果的には生むことになりかねない。もしそうなれば結局チケトレを軌道に乗せるという目的達成は遠退いてしまう。この件に限らず昨今は、キャッチーな見出しで注目を集めようという傾向が過ぎる記事・広告などが増えているような気がする。ネットなどの記事で広告料の為にビューさえ集められれば、後は野となれ山となれでもいいのかもしれないが、社会問題の問題提起や啓蒙などでは、問題は盛り上げられても、不備を指摘されることによって支持に繋がらないという場合もあるだろう。もしそうなってしまったら本末転倒ではないか。