BuzzFeed Japanが7/14、「有給休暇を取った河合塾講師の年収が激減した話」という記事を掲載した。記事では、当該の講師が有給休暇をとったことを理由に評価が下げられたのではないかという強い懸念を持っていることを伝えている。一方で河合塾側は、「授業のアンケート結果」と「塾内で許可なく文書を配ったことの懲戒処分」が評価が下がった理由だとしているようだ。確かにこういった問題は、部外者からはどちらの言い分がより適当なのかが分かり難い。一番適切な判断が出来そうなのは、一緒に働いている同僚だろうが、彼らも企業側と関りが深い為ニュートラルな立場での判断が確実に出来るとは言えない場合も多い。
記事は、「有給休暇は、体調不良や冠婚葬祭以外に、事実上取得できない状況」という講師の見解も伝えている。さらに講師が同僚から聞いた話として「妻の出産に立ち会いたいと要望しようとしたところ、校舎長から「評価が下がる」「言わない方が良い」と言われて断念した」というエピソードも紹介している。当然企業側はこのような話をつきつけても、「そんなことはない。勝手に勘違いしているだけ」というような態度を示すだろうし、一部の積極的・計画的に有休を消化させている企業に勤めている人にとっては信じられない話かもしれない(そんな企業に勤めていても年配者ならそう感じないかもしれないが)。しかし所謂大企業に勤めた経験のない自分にとっては、「有給休暇は、体調不良や冠婚葬祭以外に、事実上取得できない状況」なんてのは、複数の企業で当たり前のように体験したことだし、実際に同僚が「妻の出産に立ち会いたい」と上司に許可を貰おうとした、というか、ごく当然のこととして報告したという方が適当だろうが、あからさまな不快感を示され断念した現場に遭遇したこともある。
この記事が取り上げている件で、当該の講師が有給休暇を使ったことが評価が下げられた主たる理由かどうかは分からないが、個人的には講師が主張するように、適切ではない労働環境を強いられていたことは事実だろうと思う。逆に言えば、もし講師が主張しているような適切ではない労働環境の話が、企業内の状況と大きく異なり、適切な労働環境があるのなら、彼は有給休暇をとったことを理由に評価が下げられたのではないかなどという主張をしないだろうと思う。何故なら、もし適切な労働環境があったのなら同僚達が、彼は嘘をついていると声を上げることが予想できるからだ。その企業内で働く被雇用者は、経営陣の目を気にするだろうし、これからも働く企業のイメージを損なうことになるなどと懸念するだろうから、企業内の労働環境が適切ではないという声を上げることのハードルはかなり高い。しかし適切であるという主張を行うことにはあまりデメリットが無い。当該の講師がそこまで考えが及ばない人間である恐れもなくはないが、そのように考えることはかなり不自然だ。
勿論有給休暇取得を理由に査定が下がるようなことがあるなら、それはそれで問題だが、個人的には、未だに日本の多くの企業で、有給休暇は体調不良や冠婚葬祭以外に使うなとか、残業代を請求したら経営が成り立たなくなるんだから余計な主張をするなとかいうような思考が、経営者だけでなく労働者側にも蔓延している状況のほうが大問題だと思う。
日本人のイレギュラーなことを極力避けようとする規律正しさ、他人に負担をなるべくかけないように努める姿勢などは、勤勉さなどと言われるような、他国・他民族に比べて優れている長所だと思っていた。しかしこの記事を読むとそれは長所であると同時に、視点を変えて見れば、融通が利かないという対応能力の低さ、必要以上に規律を求めようとする同調圧力など、他と比べて劣っている短所でもあると言えるのではないだろうかと感じる。昨今、日本は生産性が低いとよく指摘されるが、その理由の一つに日本人の規律正しさ、ルール大好きな事があると思う。自由に何かをするという事よりも、ルールや制限の中で利益や結果を最大化することが日本人の特徴などと言われることもあるが、ルールや規律が何のためにあるのかを良く考えず、ルール・規律厳守だけが目的になってしまうようでは本末転倒だ。しかもこの記事のような、有給休暇は体調不良や冠婚葬祭以外に使うななんて考え方は、社会的な規範に沿っているとも言い難く、ルールや規律さえ守られていないのではないだろうか。今日本人に求められているのは規律正しさではなく、自分と異なる価値観も尊重するというような寛容さではないのかと自分は思う。