「意味不明」、最近皮肉を強く込めた批判をする際に良く使われる言葉で、”意味が分からない・理解できない”ことを示す表現だ。”意味”とは狭義では主に言葉などの表現が指し示す事象、解釈を広げれば言葉や文言などの表現だけでなく、行為の目的などについても意味と表現することも出来るだろうが、個人的にはそのような場合は意味という単語よりも意図という単語の方がしっくりくる。最初に述べたように「意味不明」という言葉、若しくは同義で用いられる「意味が分からない」という表現に、殆どのケースで必要以上に強い皮肉が込められていると感じる理由は、その表現が使われるのは、実際には意味は理解できるが、主張する趣旨に賛同できないという場面、即ち言葉の意味は分かるが主張の意図には賛同しかねるという場面が殆どだからだ。実際には意図に賛同できないだけで言葉・文言の意味は分かっているのに、意味すら理解不能な言葉・文言を発しているとも受け取れるような「意味不明」という表現を用いることには、相手を必要以上に卑下しようとする意図が感じられてしまうからだ。このような場合でも意味不明という表現を明確な暴言とするのは言い過ぎかもしれないが、暴言に近い、準ずるような表現である場合も少なくないとも思う。
口喧嘩やそれに近い口論でもこの「意味不明」という台詞はしばしば用いられる。強い感情を表明する手段としては効果的だが、別の視点で見れば、それは軋轢を深めるだけで建設的に作用することは殆どないとも言えそうだ。その理由は後述する。相手との間に確実な人間関係が築かれていることが前提での衝突でなら、使っても大きな影響はないかもしれないが、落ち着いた姿勢で臨むことが望ましい議論の場などには相応しくない表現であることは確かだろう。
今朝・7/4のMXテレビ・モーニングCROSSの中で、都議選の結果を受けて、安倍政権を批判する民進党・野田幹事長を取り上げていた。野田氏は「(今回の都議選は)国政における自民党政権のおごり、隠蔽、権力の私物化などが大きなテーマになったと感じています。これに対して都民は明確に”安倍政権にノー”という意思を示した」と述べいてた。これを受けた「意味不明だな。安定の民進党」という視聴者のツイートが画面に表示されていた。昨日の投稿にも書いたように、野田氏の見解は完全に誤った発言とまでは言えないかもしれないが、あくまでも国政選挙ではなく地方選・都議選の結果だという事を考慮するのなら、都民がノーを示したのは自民党が支配する都政に対してというように捉えるべきである。厳密に言えば、自民系都知事に関しては既に都知事選でノーが示されていたので、都政全体というよりも自民党が支配する都議会についてのノーだ。野田氏は自民党全体にノーが示されたと誇らしげだが、民進党も23候補中5人しか当選出来なかったわけで、都民は都議については自民党ほどのノーではなかったにしろ、民進党にもノーを突きつけたということでもある。というか、そもそも都民の視野に入っていないというような、イエス/ノーという判断すらしてもらえていない状態なのかもしれない。
そう考えれば「意味不明だな。安定の民進党」という主張の言おうとする事は理解できるが、野田氏の発言は「一人の兵隊がぞろぞろとやってきた」のような日本語として出鱈目な表現などとは違い、言っている意味は分かるが状況を適切に判断した上での発言とは思えないような内容だ、というだけで厳密には”意味不明”ではない。一言で言うなら”見当違い”が適切だろう。
前述の例については、ツイッターの投稿文字数制限があるからそのような表現がされていると考えるべきで、言葉の意図を汲めという人もいるだろう。しかし同じような用途・用法での”意味不明”だとか”意味が分からない”という表現を、文字数制限など全くない国会議員の答弁や、彼らの中でもより重い立場の閣僚の答弁でもしばしば見かける。国会議員は感情一つ表現するななどと言うつもりは毛頭無い。だが、正常な議論をする為には不要な感情の対立が起きてしまうような表現は出来るだけ避けるべきだ。その為には意味不明などと一蹴するのではなく、出来る限り相手の発言のどこにどんな不備があるのかを説明する必要があると思う。勿論相手が矛盾のあるなど適当ではないことが明らかな答弁を何度もロボットのように繰り返す場合など、皮肉を込めた発言が出ても仕方がないと思える場面が全くないわけではない。
自分もネット上の記事に投稿したコメントなどに対して、矛盾だらけなのにそれらしく表現した長ったらしい反論をされると、「うわ一、つ一つ指摘していくのは面倒だ」という気分になり、「意味不明のことを仰らないで下さい」などと皮肉に満ちた返信をしたくなることもある。しかし、相手は矛盾だらけの文を書いているつもりは全然ないだろうから、「意味不明のことを仰らないで下さい」とだけ返信しても「そうだね」と納得するはずもないし、その後は不毛な罵倒合戦になるだけだろう。そんなことをしてもそれこそ”意味が無い”、というかそんなことするのは本意ではないので、自分はそんな場合では面倒がらずに、意味不明などという言葉を使わずに一つ一つ指摘するか、あまりにも下らなすぎたり、見当違いの反論の場合は全く無視するかのどちらかにしている。一つ一つ指摘してもそれらの指摘を無視して持論を述べ続ける人もいるが、そのような場合は恐らくそれ以上指摘しても埒が明かないだろうから、殆どの場合で諦める。
国会議員がそのような表現をするから一般市民が真似をするのか、そのような表現が一般化しているから、そんな表現を用いる人でも国会議員になれるようになったのかはわからないが、どちらにせよ適切な議論をする上では、相手の主張を「意味不明」などと一蹴することは多くの場合で適切ではないと感じる。