堀江貴史氏がNHKの生放送番組で着用していたTシャツが話題になっている。ハフィントンポストによると、堀江氏が着ていたTシャツはヒトラー風の肖像と”NO WAR”という文言がデザインされており、番組放送中にそのデザインについて懸念する視聴者からの問い合わせがあったようで、番組の最後にNHKのアナウンサーがTシャツは堀江氏の私服だと説明し、「戦争反対を示すNo Warという文字や反戦のマークが入っていました。しかし、『ヒトラーを想起させる』というご意見を頂きました。不快な思いを抱かれた方にはお詫び申し上げます」という謝罪のコメントを読み上げたそうだ。これについて堀江氏はツイッターで「どっからどう見ても平和を祈念しているメッセージTシャツにしか見えないだろこれ笑。」とか、「堀江さんがヒトラーを肯定していると思って左翼の人達が必死で騒いでるようです(笑)反戦の風刺Tシャツと理解していないんですよ」という別の人のツイートを引用し「頭悪いな」などと主張している。
ハッキリ言って「どっからどう見ても平和を祈念しているメッセージTシャツにしか見えないだろ」という主張には全く賛同できない。個人的には堀江氏がヒトラーを称賛しているとは思わないし、ナチスやヒトラーに対する社会的な感情を軽んじているとも思わない。彼が言うように平和を祈念する風刺的なデザインだという事も理解できる。しかし堀江氏がどのような人物かをあまり知らない人から見れば、Tシャツはヒトラーが平和主義者だったとか、ヒトラーは実際は戦争を望んでいなかったというメッセージを主張しているデザインに見える恐れもある。
また、彼のTシャツのデザインに対する批判に対する「頭悪いな」という発言などから感じられる他人を馬鹿にするような態度も適切だとは思えない。元々彼は特にネット上などでこのような態度をとる人物であることは周知の事実なので、今回の対応に何ら驚くべき点は無いが、彼がそのような他人に対する敬意を欠いた態度をしばしばとる人物であることも、この件のような批判を生む原因の一つだろう。
しかし一方で、NHKが番組の最後で示した「『ヒトラーを想起させる』というご意見を頂きました。不快な思いを抱かれた方にはお詫び申し上げます」という謝罪コメントも適切ではない。ヒトラーを明らかに称賛・肯定しているのなら謝罪の必要があるかもしれないが、ヒトラーを想起させることには必ずしも謝罪の必要があるとは思えない。ヒトラーを想起させるだけで不適切なら、第二次世界大戦やナチスを扱ったドキュメンタリー系の番組もヒトラーを想起させるものだし、もっと広義に考えれば、例えば機動戦士ガンダムにもどことなくナチスを連想させるデザインが複数散りばめられている。ヒトラー=ナチスの象徴的な人物なのだから、ヒトラーを想起させるだけで不適切なら、それらの全てがテレビで放送するべきではない番組になってしまうだろうが、自分はどちらもNHKで、ガンダムは作品全部ではないが、放送されているのを見ている。それとも今までは気にしていなかったが、今回の件を踏まえてこれ以降は一切”ヒトラーを想起させる”映像は排除するつもりなのだろうか。
恐らく番組にクレーム寄せた視聴者や、番組内での謝罪コメントの表明を決めた人の頭の中には、半年くらい前に何坂だったか忘れたが、アイドルグループが着用したコスチュームがナチス的なデザインで批判を浴びたことがあったのだろうと想像する。短絡的に考えれば何とか坂の件も堀江氏の件も同じように見えるのかもしれないが、何とか坂は社会的なナチスに対する嫌悪感を無視し、デザインだけを商業的に利用しようとしたのに対し、堀江氏のTシャツは誤解を生む恐れのあるデザインではあるが、平和を祈念したデザインであるという主張が明らかに不自然とも言えず、そのような主張を示す風刺と認められるという点で、両者には明らかに差がある。
NHKがこの件について番組内で視聴者の問い合わせに対するコメントを表明したことについては理解が出来るが、ヒトラーを想起させたことが不適切だったと思わせるコメントの内容は不適切だったと思う。自分はそのようなその場しのぎとしか思えないコメントの表明は、クレームが増えると面倒だからとりあえず謝っておけというような態度を感じてしまう。そのような態度は結局、社会にヒトラーを想起させることが不適切というような誤った認識を広げかねない。NHKはコメントを表明するなら、例えば、「出演者が着用していた衣装のデザインが、ヒトラーが平和主義者だったとか、ヒトラーは実際は戦争を望んでいなかったという事実とは異なるメッセージを主張しているデザインに見える恐れがあり、不快な思いを抱かれた方にはお詫び申し上げます」などと何が問題だったのかを明確に表明する必要があっただろう。そうすれば、流石に堀江氏もこのようなコメント・コメントを評価する人に対して短絡的に「頭悪いな」とは言わなかったかもしれない。
昨今ネットの普及で、様々なクレームが表面化しやすく、そして企業などクレームを受ける側も企業全体のイメージ・ブランドイメージなどを気にするあまり、過剰すぎる対応をしているように思う。しかし過剰すぎる対応は結局一部の過激なクレーマーをつけあがらせるだけで、社会に対しては悪影響はあっても、良い影響は少ないと思う。特に社会に強い影響力を持つ企業・メディアなどは、その場しのぎではない適切な対応をするように心掛けて欲しい。