「ピアスの穴を開けるなんて親に貰った大切な体に傷を付けるようなことをするべきでない」30年前に比べれば格段にそのような考え方をする人は減っているだろうが、あからさまに表明しなくともそう思っている人は、それでもまだまだ多いのではないだろうか。刺青に関しても30年前に比べれば...だが、いまだに公衆浴場やプールなど刺青お断りを掲げているケースが多く、元々は暴力団関係者を排除するために作られたルールだったのだろうが、いつの間にかルールだけが一人歩きしているような状況がある。海外からの観光客が増える中で、そのような明確な根拠を説明できないようなそのルールが差別と捉えられるという問題も起きている。確かに一部の格式を重んじる飲食店などが、店の雰囲気にそぐわない客を入店させない為にドレスコードを設けることが問題ないのなら、浴場やプールなどが施設の雰囲気にそぐわないという理由で刺青お断りを掲げても問題ないと言えるかもしれない。ハッキリ言って判断基準は個人の感覚によるだろうから明確に、そして画一的に線を引くのは難しい。
日本では、というか世界的にも一部の地域を除いては積極的な美容整形もピアスや刺青同様、親から貰った...などの理由である意味嫌悪される行為だ。だから有名人などの整形疑惑という興味本位の噂が成立するし、噂を立てられた側は必死にそれを否定しようとする。
昨日寝る前にふと思った。ピアスや刺青・美容整形は程度の差はあれど、どれも嫌悪の対象に成り得るのに、なぜ歯並びを直す歯列矯正は嫌悪の対象にならないのだろう。歯列矯正だって親から貰った在りのままの自分を人為的に変える行為だろう。もちろん場合によっては主に健康的な理由で歯列矯正を行う場合もあるだろう。しかし自分の知る限り、健康に問題がなくても見た目の美しさの為に行われる場合の方が多いように感じる。勿論見た目の美しさを追求することは精神的なストレスの軽減に繋がるという見解もあるだろうが、美容整形だって不意の事故で負ってしまった火傷の後や生まれつきあった痣の除去など、精神的なストレス軽減を目的に行われることがあるし、生まれつきの容姿を変えることだって精神的なストレス軽減の為とも言えるだろう。刺青を入れる事やピアスをすることにも同じような効果・理由があるかもしれない。
前述のように日本では、少なくとも自分の周りでは美容整形をどこか馬鹿にしたり、刺青を入れることを嫌悪するような風潮がある。しかし同じような感覚で歯列矯正を笑うような風潮はない。誤解がないように言っておくと、小中学生の頃は見た目の珍しさから歯列矯正をしている同級生を、それを理由にからかうケースはあったが、流石に大人になってからはそんなタイプの人に会った事がない。ただ、数年前に見た歯科助手の合コンを取り上げた番組では、相手の歯並びの悪さや、逆に違和感が強いほどのホワイトニング、以前会った時に比べて歯並びが急に変わった人などに対して、所謂一般的な人が極端な美容整形に感じるような印象を、その職業柄彼女らは受けるということを紹介していた。
何が言いたいのかと言えば、結局私達は究極的には自分の持っている価値観を基準にしか物事を判断することが出来ないという事だ。ただ、自分の価値観に捉われすぎて他人の価値観を否定しすぎることをしてはならない。それをするという事は、自分の価値観も他の誰かに否定されることを意味する。自分の価値観と他者、それが家族であっても価値観が全く同じということはかなり稀だ。だからどうしても程度の差はあれ自分と他者の間には価値観の違いによる軋轢が必ず生まれる。そんな時に物理的、若しくは精神的に暴力的になるのでなく、出来る限りお互いに相手の価値観を尊重する必要があるように思う。特に自分とは違う人種や民族、国籍の異なる人とは価値観も大きく異なることも多い。そのような場合は立場が似ている人同士よりも更に互いに思いやりをもって接することが重要だと思う。