スキップしてメイン コンテンツに移動
 

強引な職務質問


 痴漢の疑いをかけられた男性が、線路内に侵入し逃亡するという事件が多発したのは今年の春。遂には逃亡した男性が死亡する事態も発生した。逃げた人たちが本当に痴漢をしたのか、それともあらぬ疑いを掛けられて、面倒を避けようと強硬手段に出たのかは分からない。もちろん複数事案があるのだから、どちらのケースもあったのだろう。確かに昨今やっと痴漢被害者に対するケアが充実し、被害者が声を上げやすくなったことは喜ぶべきことだ。だがその副作用として、逆恨みや示談金目当てのでっち上げや、神経質な人による過剰反応や勘違いが痴漢冤罪も同時に増やしており、特に誠実な男性にとってはいつ自分の身に降りかかるか分からない脅威にもなってしまっている。そんな状況を受けてか、8/20のテレビ朝日・しくじり先生では、テレビ番組にも多く出演している北村晴男弁護士が”痴漢冤罪で有罪になるのを回避する”ために必要な心得を紹介していた。

 
 番組では冒頭で触れたような電車内の痴漢ではなく、もっと理不尽なケース、”ただ夜道を歩いていただけ”で痴漢の疑いを掛けられ、嫌疑が晴れるまで53日もの時間が掛かってしまった実際の事案を材料に説明をしていた。紹介されていたケースのさわりだけを紹介すると、

友人らと食事をしたあとに数駅分の自宅までの距離を歩いて帰宅していた男性が、その帰路の周辺で起きた痴漢事件に対応していた警察官に職務質問される。男性は職務質問に積極的に応じたにもかかわらずなかなか解放されない。警察官の数も徐々に増え、野次馬からみれば「あいつ何したんだろう」としか見えないような状況に不快感を感じていると、さらに覆面パトカーらしき車まで集まってくる始末。そこから降りてきた刑事が言うには、被害者が「あなたが犯人に似ている」と言っているらしい。どうやら覆面パトカーの中から所謂面通しが行われていたようだ。その後は警察署への任意同行を求められ、男性は疑いを晴らさなくてはと渋々応じたが、結局警察署で行われたのは男性が友人との食事で酒を飲んでいた為、「酔っ払って痴漢しちゃったんでしょ?」と言わんばかりの、男性を殆ど犯人と決め付けたような取調べだった。その日は2時間程度の取調べで解放されたものの、そこで嫌疑が晴れたわけではなく、男性は不安な日々を弁護士に相談するなどしながら1ヶ月以上過ごし、結局科学捜査の結果物的な証拠が出ず、やっと疑いが晴れた

という話だ。

 この件の説明の中で北村氏は、男性が職務質問への対応は任意だからなどと、拒否せずに積極的に対応したのは見習うべき対処だとしていた。その理由は、確かに金髪だからとか見た目が怪しいという警察官の主観で対象を判別し、禁止薬物やナイフなどの凶器所持を取り締まることを目的にした職務質問や持ち物検査を強引に、半ば強制的に行う警察官もいる。しかしこの件では周辺で痴漢事件という事態が発生しており、警察の本気度が違う。必要なく疑われない為には協力的な姿勢を示しておくことは重要だ、ということだった。しかし番組で放送された再現VTRでは、警察官は最初に痴漢事件があったと男性に告げていない。痴漢事件に関連した職務質問だったことを男性が知ったのは、刑事が出てきた時点だ。これでは職務質問の背景を知ることは出来ず、北村氏が言うように対応するべき正当性のある職務質問なのかを判断することは出来ない。北村氏も不当に強制される職務質問はあると認めているのに、これでは一般市民は疑われたくなければ、たとえ不当な職務質問であっても対応するべきだという事になってしまう。番組内では出演者の数人が、職務質問について、路上で”靴と靴下を脱げ”などとほぼ強制され、地面に素足で立たされたとか、持ち物検査に応じたら、持ち物について警察官からバカにされるような発言を受けたなどの、自らが体験した不快な経験を紹介していた。
 
 8/22に弁護士ドットコムは「「公防だ!」警官10人に取り囲まれ、執拗な所持品検査...エンジニア男性が国賠請求」という記事を掲載している。任意対応のはずの職務質問を実質的な監禁とも思えるような方法で強制する、違法である恐れも強い警察官らの越権行為の疑いに関する訴えだ。自分も人相が柔らかい方ではなく、職務質問を受けやすいタイプで、記事同様に数人の警察官に囲まれ、職務質問を強制された経験が複数回ある。囲んでいる警察官の間を抜けようとすると彼らは通せんぼし、体が触れようものなら「体当たりしようとした?」なんて言い始めるのも記事の件と似ている。自分はそんな経験をした時、警察官の掴みの質問で「どこにいくんですか?」と聞かれ、友達と飲みに行く等、遊びに行くと言って記事のような面倒なことに巻き込まれたのを教訓に、その後は「これから仕事です」と言うようにしており、その為か強引に足止めされる経験はかなり減った。しかし記事の男性は出勤途中にもかかわらずそんな事態に巻き込まれていることを考えると、最近は以前にも増して強引な警察官が増えているのかとも想像してしまう。
 
 このような事態に巻き込まれた経験がない人の中には、やましい事がないなら積極的に対応するべきでは?と考える人も少なくないだろう。しかし、いざ自分が何もしていないのに疑われたら同じように思えるだろうか。しくじり先生で紹介された件のようにほぼ犯人扱いされても同じく寛大な気持ちでいられるだろうか。恐らく多くの人はあらぬ罪をでっち上げられたらたまらないと強く憤るだろうし、その後は警察に一切協力したくないとさえ思ってしまうかもしれない。少なくとも警察権力への不信感はかなり大きくなる。共謀罪についても如何に危険な権力強化かを実感することになるだろう。
 
 話を戻せば、実際に何かしら事件があったと知っていたとしたら、警察の職務質問に積極的に協力するほうが社会全体を考えればいいのかもしれない。しかし警察による違法な恐れの強い職務質問が行われているのも事実だし、それによって犯人としてでっち上げられそうになる事案があることもまた、しくじり先生で紹介されているように事実だ。警察に、犯罪者を捕まえたいという崇高な目的があっても、その影響で自分の人権が侵害されても仕方ないと思う人は殆どいないだろうし、もしかしたら犯人にされてしまうかもなんて思えば積極的に協力したいと考える人は大きく減ってしまうのではないだろうか。
 警察は事件の早期解決・犯人逮捕などや治安の維持などを念頭に置き、その達成の為に強引な職務質問や捜査に手を染めるのだろう。しかしそれは前述のような市民感情を生み出してしまう恐れもある諸刃の剣でもある。もし警察は強引で違法な捜査を厭わない組織だという認識の方が強くなることになったら、その分市民の協力は得られなくなり、事件の早期解決・犯人逮捕、治安の維持など目標達成は逆に遠のく結果になる。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。