朝日新聞の記事によると、都民ファーストの会が子供の受動喫煙を防ぐ為の条例案を9月の都議会に提出する方針のようだ。その内容は「子供がいる自宅や自動車の中、通学路などでの禁煙について、罰則規定を設けず努力義務を課す」という案とのこと。細かい部分では気になる点はあるものの内容はこれから詰めていくのだろうから、今年の通常国会で議論されていたような公共の場、主に飲食店などの完全禁煙化(完全と言っても実際は小規模店舗は除くという案だった)よりもよっぽど受動喫煙弱者に配慮する対策という観点でまともだと思う。まともな視点で考えている受動喫煙対策の検討案がやっと出てきたと感じた。
これまで議論されていた飲食店などの完全禁煙化案は、働く側が受動喫煙を避けたいと思っていても、雇用関係などの理由で強く意思を表明できない場合が多いとして、言わば受動喫煙を能動的に回避することが難しい”受動喫煙弱者”と位置付け、主に彼らを守るという大義名分を掲げその必要性が論じられていた。勿論利用客が喫煙する客に受動喫煙させられる恐れについても言及されてはいたが、そんなのは完全分煙化で回避できる問題だし、そちらを理由に飲食店の完全禁煙を”欧米では”とか、”先進国では”とか、それらしく聞こえる枕詞を添えて完全禁煙化すべきだなんて話は、”-は迷惑・ーは不快”なんていう実は身勝手な論法を正当化しようとしているに過ぎないと感じる。少し話しは逸れたが兎に角、これまでの飲食店などの完全禁煙化による受動喫煙対策の主たる理由は、所謂受動喫煙弱者の救済にあるということだった。
なぜやっと”まともな”案が出てきたと感じたかと言えば、受動喫煙に関して最も立場が弱く、最も受動喫煙から逃れ難いのは、飲食店などで働く労働者ではなく喫煙者を家族に持つ子供達だからだ。飲食店などの公共の場を完全に禁煙化しても、彼らは受動喫煙から逃れることは出来ない。飲食店で働く労働者は選り好みが難しいとしても、本当に嫌なら自分の意思で職場を選ぶことは可能だが、喫煙者の子供に生まれるか、非喫煙者の子供に生まれるか、喫煙者でも子供の前では喫煙しない親の元に生まれるか、全く気にしない親の元に生まれるかを子供が選ぶことは不可能だ。そんな本当の受動喫煙弱者への対策を論じずに、飲食店で働く人などだけを見て受動喫煙弱者を救済するなんて話を声高に主張する人を見ていると個人的には「なんて偽善的なんだろう、実は受動喫煙弱者救済なんてのは単なる建前で、喫煙者を差別的に弾圧し、自分の正当性をアピールしたいという自己満足感の方が主な目的なのかも」とさえ思えた。少し言い過ぎかもしれないという自覚はあるが、そのように感じていた自分にしてみれば、まだ荒削りではあるが、都民ファーストの会の条例案はよっぽどまともな案であるように思える。
それでも荒削りと評したように、都民ファーストの検討案にもいくつか疑問はある。まず、”罰則規定を設けず、努力義務”という点について「生ぬるい」と感じる人もいると思う。確かにその程度の条例で本当に実効性があるのかどうかには疑問があるが、実際に罰則規定を設けたとして、どうやって個々の違反を取り締まるのかを考えてみて欲しい。それを実現するには弊害も多く、共謀罪についての議論でも懸念されていたより監視を強化した社会が必要になりそうな気もする。更に悪い方向に話が進めば、違反の裏づけが難しければ、近隣住民同士の諍いなどで相手方にこれに対する違反の懸念があるなどと訴えるようなかたちで、条例が悪意を持って利用されるという恐れも全くなくはない。ならば努力義務に留めて、取り締まりよりも啓蒙活動に力を入れ、子供の周辺では喫煙を控えるという社会的な認識を醸成した方が得策だとも思える。
次は通学路の禁煙に関してだ。個人的には屋外で喫煙規制を行うなら、いっそのこと全面煙草違法化に踏み切ったほうが適切だと思う。確かに人ごみの中など、屋外であっても確実に喫煙を控えたほうが良い状況もある。しかし通学路を全面禁煙にしても、通学路に面した家の庭までは規制できず、そこを分煙化することも不可能に近い、ということは通学路を全面的に禁煙化してもその効果は限定的だとも言える。結局そこまで神経質に煙草の煙の害を懸念するなら、全面的に売らない・吸わせないとするしかないのではないか。しかし前述した人ごみの中などと同様に、通学時間帯の通学路では喫煙を控えるべきだとも思う。屋外である通学路を禁煙化するとしても、全面禁煙なんて過剰なことを言わず、通学時間帯に限った交通規制などと同様に、通学時間帯に限るとするべきではないだろうか。
最後は子供がいる自宅の定義だ。確かに子供の周辺で喫煙を避け、彼らを受動喫煙から守るべきという考えには賛同できる。しかし一方で喫煙者が喫煙する権利と出来る限り両立するべきであることも確かだ。子供がいるのに自宅で吸いたいなら庭など屋外で吸えばいいという主張もあるだろうし、分煙が難しい住宅環境ならばそうせざるを得ないだろうということも分かる。しかし住宅の環境はそれぞれ様々で、部屋がいくつもありその内のいくつかを喫煙室として利用し、家庭内で喫煙しても子供に受動喫煙させないようにすることが可能な環境がある場合も決して少なくない。そんなケースを考慮せず子供がいる自宅は全面禁煙なんていうのもまた乱暴な話であるように思う。
要するに自分が言いたいのは、子供に限らず受動喫煙対策は必要だが、それを大義名分にした、喫煙者の権利を過剰に制限するような差別的な行為に及ぶことは許されるべきではないという事だ。それ程過敏に煙草の害を叫ぶのであれば、煙草全面販売禁止・完全違法化を目指すべきだろう。特に屋外の規制に関しては馬鹿げているとさえ思える。なぜなら屋外には気体を遮る壁がないし、喫煙者の権利も考慮するならば、屋内での分煙・禁煙を徹底し、その分屋外ではある程度自由に喫煙を認めるべきだと考えるからだ。他国の事情は知らないが、どうも日本では非喫煙者が喫煙者を見下し優越感を得る為に、受動喫煙規制を大義名分として、実際には受動喫煙弱者の救済ではなく、喫煙者に対する差別を行おうとしているような側面が強くあるような気がしてならない。簡単に言えば、受動喫煙対策に関するバランスの悪い主張が蔓延っているように思える。