9/6、日産は以前より販売している電気自動車・リーフの新型を発表した。日産は現在、従来型リーフの販売で電気自動車の販売台数世界一だそうだが、アメリカの電気自動車専門メーカー・テスラがラインナップを高級セダン、世界的に人気のあるSUV、普及価格帯セダンと拡充し、その存在感をかなりの勢いで増している。そんな状況を考えれば、日産はやや押され気味とも思えるが、この新型リーフでテスラの攻勢を牽制するつもりなのだろう。日本企業ではハイブリッドやPHEVではない純粋な電気自動車を販売しているのは、現在日産(厳密に言えば三菱もi-MIEVなどがあるが、現在は日産の傘下企業になっている)だけで、この分野では日本でも世界的にも、テスラと共に一歩リードしている企業の一つである。
現在、世界中で自動車業界は電気自動車に向かっている。中国では大気汚染の解消を目指して電気自動車に期待が集まり、普及が推進されているし、ヨーロッパのいくつかの国は将来的に内燃機関を動力にする自動車の販売を禁止する意向を示している。アメリカでも既にシボレーブランドで電気自動車が販売されているし、ヨーロッパ、特にドイツのメーカーは確実に電気自動車を重視する体制を整えている。日本ではスバルが現在ヨーロッパを中心に人気のディーゼルエンジン開発を凍結し、電気自動車の開発を重視すると発表した。そんな電気自動車へのシフトの影響はモータースポーツの世界にも及んでおり、ポルシェはルマン24時間レースを含む世界耐久選手権・WECからの撤退を決め、メルセデスベンツは現在、アウディ・BMWと争っている人気ツーリングカーレースシリーズ・DTMからの徹底を発表した。その両社は共に、現在唯一電気自動車で争われている世界選手権・フォーミュラEへ今後参戦するとしている。DTMは純粋なガソリンエンジンで争うレースだったが、ポルシェはWECでハイブリッドの自動車で争うクラスに参戦していたのに、そこに見切りをつけて電気自動車レースを選んだ。そんなことを見ていると電気自動車が如何に重視されているかが良く分かる。
確かに電気自動車は排気ガスを殆ど出さないし、内燃機関を動力にする自動車よりは確実にクリーンな乗り物と言える。しかし、電気自動車が普及しても温暖化ガスが一切排出されなくなるわけではない。現在の電気自動車はコンセントから充電しなければ走ることができない。電気は発電所でつくられる。現在世界的に見てもまだまだ火力発電が主流の発電方法で、石炭・石油・天然ガスなどを燃やして電気を作っている。当然発電する際に温暖化ガスを排出している。勿論現在流通している電気の全てが火力発電ではないのも事実だ。だが現状では”電気自動車自体は温暖化ガスを出さないが、その利用には温暖化ガス排出を伴う”というのは間違いない。言い換えれば電気自動車は温暖化ガスの排出をアウトソーシングしているとも言えるだろう。
これから技術が進歩し、例えば使用する電力の全てを賄えるような太陽光発電機能を備えた電気自動車が開発されれば、前段のような話は全く無意味になるかもしれない。また、風力発電や水力発電などの効率化が進み、火力発電の割合が減れば、電気自動車は温暖化ガスを本質的に出さない乗り物と言えるようになるだろう。しかし現状はまだそのような状況にないわけで、例えば今走っている世界中の自動車が全て電気自動車に置き換われば、自動車のガソリン使用はゼロになるが、その分火力発電にまわされることになるだけかもしれない。もしそうなれば、電気自動車の普及は本質的な環境改善を実現できないなんて恐れもある。
決して電気自動車の普及は意味がないなどと言うつもりはない。現状では電気自動車は環境維持の為に必要なものだと思う。しかしそれだけでは問題解決に繋がらないという懸念が強く、電気自動車の普及と共に温暖化ガスを排出しない発電技術の開発・進歩が同時に進められる必要があるということを忘れてはならない、ということだ。電気自動車についてのニュースを見ていても、このようなことが語られることは非常に少ない。私達は出来る限り正確に状況を理解しておく必要がある。