以前安倍首相は国会の答弁で「妻がパートで25万円」などと庶民感覚からかけ離れた発言をして、その後しどろもどろになったり、麻生副総理も首相時代に「カップ麺1個400円」などと庶民感覚への理解を欠いたような発言をして批判されたことがあった。庶民感覚を理解していない政治家が本当に庶民の生活改善を実現できるのか大きな疑問だし、彼らを筆頭に一部の政治家には庶民感覚を理解していない、若しくは元来持ち合わせていたが忘れてしまった、理解はしているものの重視していないなんて者が他にもいるように思える。これは政治家だけでなく役人、特に中央官庁に勤務している人の中にも多いイメージがある。単なる個人の偏見による錯誤である恐れも考えてはいるが、昨日はそれが間違いではないと思えるような記事を2つ目にした。一つは共同通信が報じた「プレミアム金曜日 月初めに変更も」という記事で、もう一つは自動車ジャーナリストの国沢光宏氏が書いた「経産省、電動アシスト付き大型幼児車は『車道を通行すること』と発表」という記事だ。とても残念なことに両方の記事とも経産省に関連する記事だ。
まずは「プレミアム金曜 月初めに変更も」という記事についてだ。プレミアムフライデーという経済振興と長時間労働改善の効果を狙った施策が、政府と経済界の主導で今年・2016年2月から行われている。説明の必要はないかもしれないが、月末の金曜に午後3時を目処に仕事を切り上げることを推進し、その後の時間をレジャーに充ててもらったり、買い物をしてもらったり、土日と合わせて旅行をしてもらうなど、消費活動の促進に繋がることを目論んで開始された施策だ。しかし、初回は物珍しさのおかげで注目を集めたが、2回目が皮肉にも多くの企業が忙しくなる年度末だったことも大きく影響し、多くの人が感じているようにその後も当然大して話題にもならないし、定着しているとは間違っても言えない状態だ。自分の周りでもプレミアムフライデーを実践している企業に勤めている人なんて聞いたことがない。年度末に限らず月末は忙しくプレミアムフライデーなんて実施できないという話がそもそもあったし、週休2日すら実現できていないのにプレミアムフライデーなんて夢物語だなんて話もあった。また、サービス業や小売業などは人が休んでいる時こそ稼ぎ時で、プレミアムフライデーだろうが働くしかないのに、彼らの為にその代わりになる施策が提案されることもなく、役所や一部の大企業の独りよがりな考え、若しくは取らぬ狸の皮算用で提案された制度だなんて批判もあった。そんな絵に描いた餅状態のプレミアムフライデーに関して、9/11に経団連会長が記者会見で「企業にとって月末は忙しい時期だ。『月初めにしてほしい』という声は強く、見直すとすればそのあたりになる」という見解を示したと伝えているのが共同通信の記事だ。
自分がこの記事を見てまず感じたのは「そんなことに今更気付いたのか?」だった。政府・経産省・経済界の仕切り役という切れ者たちが考えた施策だったはずなのに、庶民感覚で考えれば当たり前のそんなことに誰も気が付かなかったのだとしたら、彼らが如何に行き当たりばったりで施策を策定し、そのようないい加減な施策のプロモーションに予算が割かれたのかと残念に思う。全額ではないかもしれないが、政府や役所が係わっている以上予算には国民が払った税金も当然含まれているだろう。経団連会長の榊原氏は「実施から半年がたったので総括してみたい」とも発言しているようで、半年かけなければそんなことが分からなかったのかと思えば、かなり致命的に資質に欠ける人に思える。こんな人が経済界の重要な役割を担っているのだから、数字上景気は良くなっているとされているのに、一般市民が持つ不景気感が一向に改善されないのは当然なのかもしれない。
次は「経産省、電動アシスト付き大型幼児車は『車道を通行すること』と発表」という記事についてだ。保育士が園児を連れて散歩をしているのは街中でよく見かける風景だが、その際に複数の園児をベビーベッドのような形の大型の籠に乗せて、保育士が押すタイプのベビーカーを見かけることがある。最近そのタイプのベビーカーにモーターアシスト付きが登場したようだ。いくら幼児と言えども人数を多く乗せればそれなりの重量になるし、保育士は女性の割合が多い職業でもあるから、保育士の立場で見ればとても有難い物だろう。しかしこれについて、経産省は法令を基に”軽車両に該当するので車道を通行するべき”という見解を示したようだ。確かに法令を厳密に遵守しようとすれば、そのような見解が示されるのは至極真っ当なのかもしれない。しかし、現実的にそのようなベビーカーが利用される状況を考慮すれば、如何にその判断が現実に即していないことかは誰の目にも明白だ。経産省は保育士が園児を連れて散歩する際に、何人もの園児を連れて車道を歩かせることが適当だと思っているのだろうか。それとも法に抵触する恐れがあるのだから、モーターアシスト付きのベビーカーなんてものに頼らず人力で押すべきだと思っているのだろうか。
街中で主に老人が乗る低速で走る電動自動車を多くの人が目にしたことがあると思う。所謂シニアカーと呼ばれるもので、電動車いすと同じような乗り物だ。これは既に実用化からある程度時間が経っている乗り物で法整備がなされており、シニアカーという名称ではあるが車両ではなく歩行者扱いになるとされいる。勿論出せる最高速度などが決められており、その規制の範囲に収まる性能ならということなのだが、モーターアシスト付きのベビーカーも同じようなものだという感覚が経産省の役人にはないのだろうか。もしそのような感覚があるのなら、”現在の法規制では軽車両に該当する為、車道の通行が求められるが、今後法規制の見直しが必要がある”などの見解を示せたのではないだろうか。確かに法規制の改善は原則的には国会の役割であり、本質的に行政官庁の仕事ではないかもしれない。しかし、例えば共謀罪法案の策定などを見ていても分かるように、中央官庁も法規制の策定・改善には実務的に携わっている。ならばそのような見解を示すことに大きな問題があるとは思えない。このように考えれば、経産省が示した見解は、庶民感覚を無視した、事なかれ主義的で所謂お役所仕事的な冷たい対応にしか思えない。
日本では主権者は国民であり、全ての政策・施策は政治家や一部の資本家の為でなく、多くの国民の利益を目指して行われるべきだ。一般的な庶民感覚を理解しなければどうしてそのような目標の達成が出来るだろうか。庶民感覚を欠いているように見える政治家・役人も、実際は庶民の考えを実現しようとしている者も居るかもしれない。しかしそれが結果として庶民の利益に結びつかなければ、単なる自己満足と批判されてしまうのも仕方ない。取り上げた2つの記事から自分は経産省の、そして政府、その周辺に群がる政治家・財界人の感覚を疑っているが、今後何らかの適切な対処で、その疑いは杞憂であり、決してそんなことはないとを彼らが証明してくれることを願う。