アメリカで最も人気があるプロスポーツ・NFLの選手達の間で、人種差別などに抗議するという理由で試合前の国歌斉唱の際にひざまづいたり、腕を組んで斉唱を拒否するというアピールを行う者が増えているそうで、これについて多くのメディアが報じている。この動きはNBAやMLBなど他のプロスポーツ選手にも広がりを見せているようだ。何故人種差別への抗議を国家斉唱拒否という方法で示すのかと言えば、最も身近な国家権力の象徴とも言える警察官による、安易な有色人種容疑者の射殺事件が一向になくならないことや、8月に起きた白人至上主義者による反対派への無差別殺人行為について、大統領がどちら側にも責任があるというような態度を示し、明確な否定を示さなかったことなどが、その背景にあるのだろう。要するに人種間・民族間の対立を煽っているとさえ思えるトランプ大統領に対する抗議である側面が強い。
当の大統領本人も自分が批判されていることは認識しているようで、ハフポストの記事によれば、9/24にツイッターで「選手たちは我々の偉大なアメリカ国旗を侮辱することは許されないし、国歌斉唱の時は起立すべきだ。そうしないならクビだ。何かほかに仕事を探せ!」などと述べたそうだ。
まず彼が犯している大きな勘違いは、NFLの選手らは一切国家やアメリカ国旗を侮辱などしていないということだ。彼らが批判しているのは人種差別的な殺人を平気で犯す警察官や、人種差別を解消しようとしない大統領のトランプ氏で、国歌斉唱の拒否はその為の手段だ。もしトランプ氏がこれを理解した上で前述のような発言をしているなら、自ら”俺=アメリカ国旗・国家=アメリカそのもの”と言ってしまっているも同然だろう。それではどこぞの国の将軍様と全く違いがない。彼らが互いに煽り合う状況からも同レベルだと思っていたが、別の側面からも似たもの同士だという事を示してしまった格好だ。
さらに「そうしないならクビだ」なんて発言もかなり滑稽だ。アメリカはいつから全ての企業を国営化したのだろう。勿論そんなことはなくトランプ氏は選手らの雇い主ではないのだから、彼らをクビにする権限など一切ない。恐らく彼は、以前彼が出演していたテレビ番組の様式を真似ることで、上手いこと言ったつもりなのだろうが、発想があまりにも子供じみている。
要するに彼は自身に対して行われている批判を直視せずに、それをかわす為に国旗・国歌、さらには国家への侮辱という話にすり替えようとしているに過ぎない。それは中国共産党や北朝鮮労働党とまるで同じやり口だ。
自分はこんなアメリカ大統領は、自分の知る限りこれまでで過去最低だとしか思えないし、国際情勢にも確実に悪影響を及ぼしていると考えている。世界中の国々の指導者達が、彼を全否定はしていないがそれなりの距離感を保ち、場合によっては皮肉めいた態度・発言などを示し抑制や牽制を行おうとしているのに、我が国の首相は彼との親密さばかりをアピールし、一切牽制するようなこともなく、まるで腰巾着のように振舞っているのを見るとかなり残念に感じる。アメリカ大統領があんな人物だからといってもアメリカ人全員が、あんな考え方ではないのは当然だが、それでも国の顔となる人物の振舞いはその国のイメージそのものに大きな影響を与えることは間違いない。ということは、今の日本は、アメリカほどでないにせよ、似たり寄ったりだと世界中に思われているかもしれないと思うと更に残念な気分になってしまう。