横浜市の林市長が推薦を受けた自民党横浜市連との間で
あらゆる教科書において、新しい教育基本法の精神に基づいた教科書が採択されるように、引き続き取り組む
という政策協定を結んでいると複数のメディアが取り上げている。この文言だけを見れば特に問題はないように見えるかもしれないが、「新しい教育基本法の精神」には郷土愛や愛国心を育むということも含まれている為、教育への政治の介入を懸念する声が上がっている。この協定は林氏が市長選に立候補した時点で結ばれたものだが、そのような状況を伝える為にこのタイミングで改めて報じられたのだろう。
一部のメディアはこの件に関して”保守色の強い教科書の採択に向けた協定”というような見出しで伝えている。保守色が強いかどうかは個人的な判断による部分も大きいだろうが、今年の春にも今後教科化される道徳用の教科書の検定で、郷土愛や愛国心を育むという要素が足りないと指摘された教科書が、パン屋という例文の設定を和菓子屋に変更したら検定がおりたという事が報じられた。これも判断基準がおかしいのではないかと話題になった。そんな観点から自分も、現在の自民党政権が教科書の検定や採択に必要以上に介入しようとしていると思える状況は確実に好ましくないと感じている。
しかしそれよりも、そもそもなぜ今でも教育委員会が、数ある教科書の中から採用する1つを選ばなくてはならないのかに疑問を感じている。確かにこれまでは教育に用いられる資料は本という形式・即ち教科書が最も適していたことは明白だ。しかしネットが社会に浸透し、パソコンやタブレットなどの機器がこんなにも普及しているにもかかわらず、なぜ今だにそれを活かさないのかに大きな疑問を感じる。
義務教育・特に公立学校で用いられる教科書は一切利用者の負担はない。我々の税金の中から、各学校や教育委員会で採択された教科書を作った出版社に対して、その代金が支払われている。だからしばしば癒着が指摘され、教科書採択について不正が行われたなんて事が報道されたりする。確かに本という形で提供する為にはこのようなことが起こるのは、絶対に認められないが、ある程度想定は出来てしまう。しかし、ネットと情報端末を活用すればこのような状況にも歯止めを掛けられるのではないかと思う。文科省の検定を受けている教科書は1種類ではなく、各科目とも複数の教科書が存在する。それぞれの教科書の傾向が微妙に、時には大きく異なるから”市長が保守的な教科書の採択で協定を結ぶ”なんてことも実際に起こるし、それについて懸念が示されたりもする。ならば紙の教科書を止めて各社の教科書を公共のサーバーで公開し、誰でも自由にダウンロードして使用できるようにし、先生・学校・生徒が自由に臨機応変に使う教科書を選べるようにすればいいのではないだろうか。元々教科書は税金によって賄われているのだから、各公共団体が現在教科書購入に充てている予算を国が一括して集め、教科書を作成し検定を受けて提供している出版社に分配すればいいんじゃないかと思う。そもそも検定が必要なのかという話もあるが、数年単位で見直しを行い、使用回数が基準に満たない出版社の教科書に対しては配分を減らしたり、配分を取り止めたりするなどの対応を行えば、検定と利用者の支持である程度は検定に頼らない質の維持もできるのではないかと考える。
これは自分の単なる思い付きなので、この方式でも別の癒着が起こるなど、新たな問題は確実に出てくると思う。しかし先生や生徒など利用者が、複数の教科書から自由に使用するものを選べるメリットは大きいだろう。例えばネットが普及する以前は、個人が読む新聞は概ねその家庭が契約している新聞だけだった。会社や学校など複数の新聞を契約しているという状況が身近になければ、各社の論調を比較するなんてことは殆ど出来なかった。しかし、ネットが普及し各社がある程度記事を(しかも無料で)ネットで読めるようにしている今では、誰もがある程度各社の論調を気軽に比較することが出来る。教科書に関しても電子化すれば同じようなメリットがあるだろう。例えば、何かについて調べる時に、教科書会社による見解・表現の差を比較して考えるというようなことが容易に出来るようになることが予想できる。
このように考えているので自分は、なぜ未だに本の教科書を使っているのか、なぜ複数ある検定を受けた教科書から教育委員会が一方的に1つを指定しなくてはならないのかに大きな疑問を感じるわけだ。一応過去もこれまでも、建前上教科書の検定も採択も含めて教育への政治の介入がある懸念はない、若しくは薄いとされてきたが、過去だけでなく今でもその懸念は全然なくなっていないし、近年の自民政権下では寧ろ懸念が強くなっているとさえ思える。もし現政権が「そんなことはない」というのなら、積極的に教科書を自由に利用者が選べる仕組みに切り替えようと議論することが必要なのではないだろうか。