北朝鮮が9/3核実験を行って以来、これまでよりも更に周辺国・関係各国の緊張感は高まっている。新聞・テレビ共にこの話題に触れない日はないし、触れないどころかワイドショーなどはこの話題に半分以上の時間を割いている。政府や首相は”目に見える圧力”を加えることで米と合意したという旨の発言を行っており、自分には決して落ち着いた対応をしているようには思えない。勿論人によって見解は異なるだろうが、自分には”目に見える圧力”という表現は武力による威嚇を強く示唆しているように見えてしまい、我が国が憲法で掲げている方針にもそぐわないと感じるし、それを度外視したとしても、経済的・武力的な圧力がある程度は必要であるとは感じるものの、外交交渉を伴わない圧力だけでは決して状況は好転しないと考えている為、北朝鮮ほどではないにせよ、日米韓の指導者も冷静さを欠いているように感じる。
以前もどこかで書いたかもしれないが、トランプ大統領は、恐らく有効な交渉術などと捉えているのだろうが、北朝鮮当局と殆ど差のないレベルの過激な発言をしてみたり、揺さぶっているつもりなのだろうが、それを緩和する発言をしてみたり、見る人によっては主張がブレブレだとしか思えないような主張を繰り返している。個人的には現在のアメリカ政府の要職に就いている人々は、少なからずトランプ大統領に賛同し、またトランプ大統領によって選ばれている人々でもあるから、全く好印象はなく、というかどちらかと言えば悪い印象の方が強い。しかしそれでも大統領があまりにも過激な発言を行えば、一応バランスを取るかのように誰かが外交交渉を完全に諦めたわけではないというニュアンスの発言をする。
しかし一方で日本の政府はどうだろう。安倍首相はトランプ氏程あからさまに傍若無人で強硬な発言はしないが、「対話の為の対話では意味が無い」という主張をこれまでも繰り返しているし、今回の核実験後は前段でも書いたように「目に見える圧力」などという表現も使っている。確かに「対話の為の対話では意味が無い」という発言は明確に”対話は意味が無い”とは言っていないし、「目に見える圧力」という表現にしても明確に”武力による威嚇”とは言っていない。しかし彼の頭の中にそのようなニュアンスがある可能性はかなり高いように見える。そして周りの閣僚らもそれを全く否定しないし、寧ろ同調するような姿勢を示すことが多く、ホワイトハウスのようにバランスをとるような発言が行われることもない。視点によってはアメリカよりも日本の政府の方がより強硬な姿勢であるとも思えるのではないだろうか。しかも日本は憲法上武力による威嚇や、武力行使は行わない・行えない。本質的には外交交渉しか解決手段を持たない日本が、無責任にアメリカが武力行使を行うように煽っているようでもあり、ある意味とても危険な状態とも思える。
そんな自分の懸念はもしかしたら考えすぎかもしれないが、政府がこのような圧力重視路線を掲げているのは紛れもない事実だ。しかも首相のコメントを見ていると、それで北朝鮮の武力重視の強硬な傾向を改めさせられると信じているようであることも確かだ。しかし多くの国民が同様に感じているかと言えば、決してそうではないと感じる。最近は新聞もテレビも、各社の論調がかなりハッキリと分かれており、政府の方針に同調し圧力を重視すべきで対話を重視する必要性は薄い、もっと過激に、対話には意味がないのでする必要はないというような方針のメディアと、逆に圧力一辺倒では決して問題は解決しないという方針のメディアに分かれている。ネット上での個人による主張も同じような状況だ。自分は現在の東アジア情勢は圧力だけでも対話だけでも解決する問題ではなく、様々な方針を上手く使い分ける必要性があると思う。今の政府が全く外交交渉を考えていないとは言えないかもしれないし、今は外交交渉の必要性を訴える時期ではなく、経済的な追い込みを確実に掛けていく時期であるという考え方が間違っているとも思わない。しかし、政府に圧力重視を強調しすぎている側面が感じられるのは決して適切だとは思わない。そのような意味でもう少し冷静さを持って対応して欲しいと考える。
ネット上では中国・ロシアが経済制裁よりも外交・対話を重視する姿勢を示していることなどを理由に、「対話を重視しろという人は中国びいき」なんて見解を示す人がいる。個人的にはそのような主張をする人は冷静な判断力を失っているとしか思えない。確かに中・ロは北朝鮮とは経済的な交流があり、制裁の抜け道になっている懸念が強いのは事実だし、そのような状況から、自国の利益を重視し、制裁より対話だと主張しているということは疑いようがない。そのようなことを考慮して、例えば「中国やロシアの主張する対話路線は正しいとは思えない」と言うのなら話は分かるが、「中国やロシアが主張しているから、対話重視というのは正しくない」というのは確実に偏見だ。「対話を重視しろというのは中国びいき」なんて発想は、後者のような思考がなければ出来ない発想に思え、それも同様に偏見に満ちた主張だと考える。
政府の圧力を重視(しているようにアピール)する姿勢が妥当だと考えている人々は、これまで北朝鮮に対する経済制裁、米韓が行ってきた武力による威嚇が適切に機能してきたと考えているのだろうか。対話には意味が無いとする人々は、これまでの交渉で北朝鮮にはことごとく裏切られてきたということを理由にそのような主張をすることが多いが、自分には、これまでも圧力をかけてきたにもかかわらず状況が好転していないのだから、圧力だって決して有効な方法だったとは言えないということだと思える。結局どちらにせよ絶対的に”対話には意味が無い””圧力には意味が無い”のではなく、”これまでの対話・圧力”は意味が無かった、もっと適切に言えば、効果が薄かったというのが正確な表現だと考える。
どうも危機が煽られれば煽られるほど、強硬な考えに捉われてしまう人が増えるように思えるが、そんな時程冷静にこれまでの経過を考え、これからの対処を考えるべきではないだろうか。それは国民にも政府にも同じことが言えると自分は考える。