9/19、国連総会でトランプ米大統領が演説を行った。相変わらず、というか「アメリカと同盟国を守らざるをえない場合、北朝鮮を完全に壊滅するほか選択肢はなくなる」などこれまで以上に強い表現を使ったり、金正恩委員長を「ロケットマン」と呼んだり、北朝鮮に対する抑止を目的とした演説と言うより、最早北朝鮮当局と大差ない挑発としか言えないような主張・演説だったと自分には思えた。彼は演説の中で北朝鮮当局の非人道性を強調する為に、日本人拉致被害者の横田めぐみさんについても触れた。これを受けて横田めぐみさんの母は、やっと世界中にこの話を知ってもらえる、というような好意的な受け止めを表明していたが、本当に単純に喜んでよいのだろうか。自分は到底そのように受け止めることが出来ない。
確かに小泉総理の訪朝後、拉致問題に関しては大した進展もなく、拉致被害者の家族はどんなに些細なことだろうと話が進展するを望んでいるだろうから、アメリカ大統領がこの話題に触れたことを好意的に受け止める、受け止めたいと思うことはかなり理解出来る。自分もこのことに触れたアメリカ大統領がトランプ氏でなかったら、強くそう感じていただろう。しかしこれまでのトランプ大統領の振舞いを考えれば、彼の言動について自分はまず懐疑的に見てしまうし、同じ演説の中で北朝鮮当局を必要以上に挑発するような発言をしていることを考えれば、彼が自国の経済的な理由、軍需産業にとって好ましい状況とも言える軍事的な衝突を望んでいるようにも思え、彼は拉致問題には触れたものの、拉致被害者の救出とか拉致問題の解決にはあまり興味がないのに、”拉致問題を都合よく利用した”とも思える。そう思えてしまう理由には、トランプ氏が一貫してアメリカファーストと言い続けていること、彼自身も周辺も、彼が利益やディール(取引)を最も重視するビジネスマンであることを認めていることなどもある。そんな観点から、武器を輸出して自国企業の利益を作りたいと考えているのかもと想像するし、米国人でない拉致被害者のことを本当に深刻に考えているのかに疑問を感じたりもする。
安倍首相も翌9/20に国連総会で演説を行った。彼はこれまで約20年間の北朝鮮と周辺国の外交関係に触れ、対話は無意味で圧力こそ重要だということを力説したようだ。確かに彼が言うようにこれまでの北朝鮮に関連した外交交渉では、周辺国は北朝鮮当局にことごとく裏切られてきた。それを考えれば、これまで行ってきた外交交渉は我が国や我が国側の国にしてみれば、確実に失敗だったことは明らかだろう。しかし同様にここ数年、我が国や我が国と同じ側の国は経済制裁・武力による威嚇などの圧力を強めているが、事態は好転するどころか寧ろ悪化している。ならばこれまでの対話と同様にこれまでの圧力も外交としては失敗と言えるだろう。そう考えれば対話には意味がないと言いたげな安倍首相の考え方は偏ったもののように思える。
そして対話を否定してしまって、どうやって拉致問題を解決しようと考えているのかも大きな疑問だ。もしかしたら北朝鮮の核・ミサイル問題について対話は必要ないが、拉致問題に関しては対話が必要だなどというような、説得力の薄い説明を彼はするのかもしれないが、これらの問題は決して完全に分けて考えられるような問題ではない。たとえ日本側が別問題だと言ったところで、北朝鮮側はそのような立場を受け入れるとは到底思えない。ということは安倍首相は拉致問題解決を考えていない、考えていないは言い過ぎだとしても、重要視していないということにはなりそうだ。
トランプ大統領が触れたことで、拉致問題から安倍首相の国連総会演説を考えるという視点が自分に生まれ、その意味ではトランプ氏が拉致問題に触れたことにはある程度の意義があったとも思える。しかし結局どちらの演説についても好意的に受け止めることは到底出来ない。特にトランプ氏が戦争を煽っているようにも見えてしまう為、それについて牽制するどころか、寧ろ彼より強硬な姿勢を示しているようにさえ見える安倍首相もまた、戦争を望んでいる、望んでいなくとも避けようとしていないようには思える。自衛隊の明確な合憲化は何らかの方法で実現するべきだとは考えているが、憲法9条を変えたいと訴えている人が、このような姿勢を示していることには強い違和感、或いは恐怖感ともいえる印象を覚える。