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文庫本貸し出し規制の是非


 先週・10/13の全国図書館大会で文芸春秋社の社長が文庫本の図書館での貸し出し中止を要請し、それについての賛否が論じられている。背景には出版業界の売り上げ減少が止まらないことがあり、2015年にも新潮社の社長が一部の図書館がベストセラー作品を複数購入して大量に貸し出している状況を批判している。両出版社の社長の言い分も分からなくもないが、2000年代に音楽業界がコピーコントロールCDを導入したものの、結局CDの売り上げ減少には歯止めが掛からなかったことを考えれば、図書館に対する規制を強めることは、基本的には結局文庫本や出版物の売り上げを回復させることには繋がらないだろうと想像する。

 
 文庫本だけ貸し出しが出来ないように規制するというのは、売り上げ減への対応以外には大義名分がないと思う。大義名分がないどころか、図書館が何故存在するのかを考えれば、弊害の方が大きいと自分は思う。文庫本になる作品の多くは、ハードカバーで出版されそれなりに人気を博した作品で、最初の出版からある程度時間が経ち、廉価版として販売されるのが文庫本である。文庫本の全てがそうではないかもしれないが概ねそのような性格の本だろう。例えば文庫本ではなく、出版されたばかりのハードカバーの貸し出しを規制しろというのなら、何となくそれも有りかとも思えるが、普及版である文庫の貸し出しを規制しろと言うのにはどこか違和感を感じる。文庫本が普及版であり、読者の裾野を広げる為に廉価で提供されているものであるならば、同じような役割を持つ図書館で貸し出されてしかるべきものなのではないだろうか。
 
 しかしその一方で、出版業界が売り上げ減少によって疲弊していることについても何らかの対処が必要とも思う。一部で批判されているように、電子書籍の普及に対する努力不足など出版社側の問題もあるのだろうが、新潮社の社長が懸念を示した、図書館が売れ筋であるベストセラーを複数揃えて貸し出す行為は、図書館の本来の目的とはやや合致しないと考える為、それについては何かしらの規制があってもいいのかもしれない。図書館は読者の裾野を広げる、気軽に読書を楽しむことを目的にもしているのだろうが、それよりも何よりも出来るだけ多くの種類の本を揃えるという、知識の蓄積的な側面の方が重要なのではないかと考える。多くの図書館は公立で運営されている。それは売り上げや人気を目的に運営されるべきような施設ではないからだろう。確かに利用者のニーズにはある程度答え、利用者を増やすという努力は必要かもしれない。しかしそればかりに気をとられるのも好ましいとは思えない。新刊ハードカバーを複数購入などせず、その予算は種類の充実にまわした方がいいのではないだろうか。ベストセラーでも1冊ないし、図書館の規模によっては数冊程度の用意に規制すれば、早く読みたい人は貸し出し中であれば購入に意欲が向くかもしれないだろうから、出版業界にもそれなりのメリットがあるし、金銭的余裕がないなどで購入に踏み切れない人も待てばいずれ読むことができるだろうから、良い落としどころだろうと思う。
 
 今回は図書館についてのみ考えてみたが、古本屋の存在やメルカリなどで本が再販されていることを考えると、それらも似たような事案であるとも思える。出版業界の今後の為にも何かしらの対応が必要なのかもしれないが、図書館での文庫本貸し出し全面規制なんてのは、あまりにも乱暴すぎる話にしか思えず、業界以外の人からは中々賛同を得難い話なのではないかと感じる。

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