DVDレコーダーがVHSビデオデッキに変わって普及し始めた頃、当初国内メーカーの商品は10万円前後だっただろうか、そんな状況の中で中国だか台湾だかの聞いたこともないメーカーのレコーダーが1万9800円と破格だったので「激安だ!」と飛びついた。しかし、持ち帰って配線を済ませて試験的にタイマー録画をしてみても全く録画されない。何度か試してもだめだったので買った店に直ぐに持ち込んだ。聞いたことのないメーカー製だったので少し不安だったが、店側の対応が良かったので返金ではなく交換で再度同じ商品を持ち帰った。
しかし交換したレコーダーでも最初のレコーダーと同じ不具合が起きた。使ったDVD-Rが悪いのかもと思い、別の銘柄のメディアを用意して試してみても症状は変わらない。結局その固体もまた交換してもらうことになった。だがその後交換したレコーダーもまた同じ症状。結局4台目でやっと正常なレコーダーとめぐり合えた。3度も交換するはめになったが「激安レコーダーだし、まあ仕方ない」と思えたので、自分は面倒とは思ったものの、最終的には当時の相場よりかなり安くレコーダーを手に入れられてそれなりには満足だった。
自分はパソコンにしてもデジタル家電にしても、趣味的に興味があり、ある意味トラブルを楽しむということもできる性質なので、そんな風に受け止めることが出来たのだろうが、品質が高くトラブルの少ない日本メーカーによる品質管理がされている製品に慣れている多くの日本人は、恐らくそこまで寛大に受け止めず、中には怒り出す人もいるだろう。自分もそこまでではないにしても、今後その聞いたこともないメーカーの商品は買わないとは思った。
その後どんどん日本の電気機器メーカーは衰退し、今ではパソコンやスマートフォンなどは日本メーカーの方が少数派になってしまっている。日本のメーカーにはまだ及ばないかもしれないが、韓国・台湾・中国系のメーカーは10年前とは比べ物にならない商品を作っているようにも思え、そして明らかに価格が安いこともあり、今の状況は起こるべくして起こったのだろう。
日本のメーカーに及ばないと注釈したのは、韓国・台湾・中国系のメーカーの商品は、今でもやっぱり価格が極端に安いものの中には、前述のDVDレコーダー程度の品質しかない商品やそれ以下の商品もまだまだあるし、現在それなりに名の売れたブランドの商品でも1年の保証期間を待たずに不具合が発生するような商品がないわけではない。品質が高いとされ市場を席巻していた当時の、日本のメーカーの商品でも運悪く不良品に遭遇することは勿論あったが、それに比べても不良品の割合・商品の脆さなどはまだまだという印象がある。所謂”思い出補正”(過去の記憶は美化されがちということを表す表現)ということもあるだろうが、事実とは確実に異なる感覚であるとも思えない。
自分が生まれる前の話なので詳しくは知らないが、1950-60年代ぐらいは、日本製品と言えば”安かろう悪かろう”の、現在日本人が中国製品に感じるような印象だったそうだ。その後高度成長期を経て、改善をスローガンに日本製品は品質管理を徹底し、主に自動車や電気機器などで世界的に信頼を獲得することになったようだ。1980年頃にはJapan as No.1なんて表現も使われたようで、恐らくその頃以降日本製品の品質の良さ、信頼度の高さが確立したのだろう。当時は海外ブランドの電気製品なんて見たこともなかったし、ハリウッド映画の小道具で使われる電化製品は殆ど日本メーカーの商品だった。しかし2000年代に入ると韓国メーカーが徐々に台頭し始め、今では台湾・中国のメーカーがかつての韓国メーカーの立場になっている。
恐らく世界中で、高品質だけど割高な日本品質より、ある程度の品質でも安い製品の方が望まれているのだろう。日本の製品、特に携帯電話などが”ガラパゴス”なんて揶揄され、あっという間に日本の市場からすら淘汰されてしまったことなどを考えると、日本の企業は高機能・高品質に拘りすぎていたのかもしれない。
しかしここ数年、そんな製造業に関する日本企業の不祥事が続いていることを考えると、高機能・高品質に拘りすぎていたのではなく、そのふりをしていただけなのかもしれないとも思えてくる。エアバックで重大な欠陥を指摘されたタカタ、免震ゴムで不正を行った東洋ゴム、燃費不正の三菱自動車、製品データ改ざんの神戸製鋼、不適切な検査を行った日産など。
確かに世界的に中国などの新興メーカーが台頭する中での不利な競争にさらされているとか、1990年代後半からの不景気や2008年のリーマンショックなどの頃は安定した経営が難しい時期だったなんて要素もあるだろうが、神戸製鋼などは40年前からデータ改ざんしていたなんて証言もあるようだし、日産は問題発覚後も不正を続けていたと報道されている。ならば決してそんな外的要因だけが理由でなく、元々不正が行われるような企業風土があったのではないかと指摘されても仕方がない。
確かに現在の状況を考えると、価格的な優位性が高かった1970-80年代とは異なり、企業の運営は厳しいのだろうと思える。しかし逆に言えば、日本の多くの企業に残された強みはこれまでに培ってきた信頼性の高さしかないとも言えるかもしれない。にもかかわらず、そんな最後の切り札的な信頼性を捨てるような行為を大企業が連発すれば、その影響はその企業だけでなく、日本全体に及び、まともに運営されているほかの企業の印象も下げることに繋がる恐れがある。
品質に関する不正だけでなく、東芝など会計などでの不正も複数の企業で発覚しているし、今後更に同様の不祥事がなくならないようであれば、企業だけでなく、日本人=見栄っ張りで嘘つき、なんて言われる未来が訪れる恐れだってあるだろう。