スキップしてメイン コンテンツに移動
 

アニメ・ゲーム批判の時代錯誤さ加減


 11/5のフジテレビ・新報道2001の中で、自民党の山本一太議員が座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件について、”猟奇的なストーリーのアニメの影響”や”ゲーム感覚”で犯行が行われたのではないかと発言したことが話題になっている。1988年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件や、1997年の神戸連続児童殺傷事件では、容疑者が愛好していたアニメや漫画の影響がメディアで大々的に取り沙汰されたし、米国でも1999年のコロンバイン高校銃乱射事件で、容疑者が聞いていた退廃的な歌詞が特徴のメタルバンドや、FPS(ファーストパーソンビューシューティング)と呼ばれるジャンルの銃撃戦ゲームの影響などが指摘されている。犯行と関連付けられるかについてはかなり疑問だが、それらの件では一応容疑者が槍玉に挙げられた作品に興味を持っていたことは事実のようだ。しかし座間の事件では容疑者が猟奇的なアニメやゲームを愛好していたという類の報道を、少なくとも自分は一切見ていない。興味を抱いていたという情報すら一切ないのに、推測をすることまでは否定できないかもしれないが、そのような一方的で勝手な推測のみを根拠にしてネガティブな印象を強調するような発言は誰であろうと避けるべきだし、国会議員という立場なら尚更だと多くの人が感じるのではないだろうか。

 
 確かに座間の事件の報道を見れば、誰もがその異様さを感じるだろう。容疑者が殺人を犯したかどうかはまだこれから明らかになることだが、少なくとも9人の遺体がある部屋で過ごしていたのは間違いないだろうし、そこから”理解し難い思考やそのような感覚の持ち主”に不安を感じるだろう。そしてその不安が自分の周辺で現実にならないよう注意を払う為に、不安の元凶が一体なんなのかを知りたいと感じるだろう。要するに”何故こんな不可解な事件が起きたか”を明確にしたい、して欲しいという気持ちを、多くの人が抱くことはとても自然なことだと思う。
 山本議員の思考はそんな不安を解消する為に、得体の知れない事件が起こった原因の一端を、彼にとって得体の知れないものの一つであろうアニメやゲームに求めたのだろう。否定的に表現すれば、彼はアニメやゲームの所為にして事件に対する不安を少しでも減らしたかっただけとしか思えない。アニメやゲーム、またはその制作に携わる者、またはその愛好者にしてみればいい迷惑でしかない。
 
 ”アニメやゲームのには他の表現手法よりも深刻な影響力があるのか”がまず疑問だ。アニメやゲームの影響を危惧する人は、アニメやゲームなど虚構の世界と現実の区別が薄まり犯罪が引き起こされるというような話を持ち出すが、犯罪・道徳的に好ましくない題材などを扱った作品はアニメやゲームに限らず、小説・映画・ドキュメンタリー作品などにも多い。にもかかわらずアニメやゲームだけが槍玉に挙げられるのは一体なぜだろうか。そして犯罪や道徳に好ましくない題材を扱うアニメ・ゲーム・漫画・小説・映画などを見た人の中で一体どれだけの人が、その犯罪的な行為を現実で実行する、若しくはしようとするのだろうか。勿論そのような人が全くいないとは確実に言えないが、そのような人が少数であっても影響を懸念するなら、例えば包丁やはさみ・のこぎりの販売にだって懸念が今以上に必要で、何らかの規制が必要と主張するべきではないだろうか。なぜなら包丁は料理を目的に販売されているし、はさみ・のこぎりは工作や園芸用などを主な目的に販売されている。多くの人はそのような目的の為に適切にそれらを用いるが、中には他人を傷つける為に用いる人もいる。しかもそのような犯罪に用いる人は、アニメやゲームに影響を受けて犯罪に至る人よりもはるかに多いのではないだろうか。実際に座間の事件でも遺体の損壊にのこぎりが使用されたと伝えられている。
 自分が言いたいのは、だから包丁やはさみ・のこぎりを規制しろ、なんて馬鹿げたことではない。アニメやゲームをスケープゴート的に槍玉に挙げるのは、包丁やはさみ・のこぎりを規制しろというのと同じくらい馬鹿げた話だということだ。容疑者がそれらに興味を示していたという情報が無いのであれば、その愚かさ加減は更に高いと自分は考える。アニメやゲームの台頭以前は漫画・テレビ・映画などの影響が取り沙汰されていたが、アニメやゲームが槍玉挙げられるようになってからは、それらはあまり大きく取り沙汰されなくなった。音楽についてもロック黎明期は、今では音楽の教科書に乗っているようなビートルズやベンチャーズすら不良の音楽と言われ、青少年の健全な育成に相応しくないとされていたこともある。そんな点からもアニメやゲームへの懸念の大部分は時代錯誤の代物だ。

 アニメやゲームの影響がこのような事件の一因になると危惧するなら、加熱するこの事件についての報道を真っ先に危惧するべきではないのか。2000年の西鉄バスジャック事件では、容疑者の少年は神戸連続児童殺傷事件に影響を受け犯行に至り、酒鬼薔薇聖斗という神戸の事件と同じ署名で犯行予告を行っていたこともある。そして更に西鉄バスジャック事件に影響を受けて、この事件の容疑者の少年が使っていたハンドルネーム・ネオむぎ茶をもじった署名で犯行予告を行う業務妨害事件は数件起こっているし、影響を受けたバスジャック事件も数件起きている。
 大した根拠も示さずアニメやゲームの悪い影響は強調するのに、報道の影響は危惧しないのなら、それは単にそのような主張をする者が”得体の知れない”と感じる物に責任転嫁をしようとしているに過ぎない、と言われても仕方のないことではないのか。そんな短絡的な話をテレビ番組で主張できる人物は国会議員として適当な人物だろうか。自分には国会議員として必要な判断力を欠いているように思える。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「 Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer 」、1896年ドイツの、 資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画 である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである( 八時間労働制 - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。