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阿蘇山噴火と伊方原発の関係について考える


 12/13、四国の伊方原発の運転差し止めの仮処分を認めると広島高裁が決定した。今年・2017年3月の広島地裁の判断を覆した格好になる。四国の原発の話なのに、何故四国の高松高裁ではなく、広島で裁判が行われているのかという点に疑問を感じる人も多いようだが、原発の事故が起これば、影響を受けるのは立地県である愛媛だけ、四国だけとは言えない。そんな観点で広島市民が広島で訴えを起こしたから広島で裁判が行われている。この件については多くのメディアが報じており、その注目度の高さが窺える。今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでも取り上げており、番組の論調は概ね判決を支持するというニュアンスが感じられた。しかし、番組に寄せられていた判決に批判的な視聴者ツイートはかなり酷い内容が多く、画面を見ていて不愉快さすら感じた。

 
 最も酷かったのは、「こんな判決はテロ行為にも等しい」という趣旨のツイートだ。テロの定義を一体どのように考えてこんな主張をしているのだろうか。自分にはあまりにも自己中心的な基準でテロかどうかを判断し、主張しているように思えてならない。もしこの裁判所の判断がテロ行為に当たる恐れがあるのなら、この判断を「テロ判決」などと批判することもテロツイートに該当する恐れがあるのではないか。こんな主張は誹謗中傷としか言いようがない中身のない話だろう。裁判官の名誉を不当に棄損する恐れもあるように感じる。
 
 次に違和感を感じたのは、「原発反対派は電気代が高くなってもいいのか」という趣旨のツイートだ。誰だって電気代は安い方がうれしい。確かに現時点では原発を稼働させた方が電気代は安くなるかもしれない。しかし、どの原発もいつかは廃炉処理をしなければならないのに、廃炉技術が確立しておらず廃炉には現状の試算で約40年かかるとされ、その試算通りに事が運ぶかどうかの確証はなく、場合によってはもっと時間がかかる恐れもある。更に核廃棄物の処理方法も確立していないのが現実で、その処理に一体どの程度の費用が必要かは不透明だ。そのようなことまで考えれば、決して原発が安い発電方法とは言えないのではないだろうか。そのような点を度外視すれば、確かに今ある原発は使おうが使うまいが廃炉にかかる費用は大して変わらないのだから、使った方が電気代を安く済ませられるかもしれない。しかし、稼働を続ければ福島のような自然災害による事故が起きるリスクも比例して大きくなり、もし事故が起きれば、事故が起きなければ必要ないであろう事故処理の費用、被害を受けた人・自治体などへの賠償費用が余計にかかることになる。そのようなことまで考えれば、原発を稼働させて最大限利用した方が絶対に電気代が安くつくとは言えないのではないか。
 「原発反対派は電気代が高くなってもいいのか」という話は、今現在さえよければ、又は自分たちの世代さえ良ければ、もし事故が起きても後はどうなろうと知ったことではないと言っているように自分には聞こえてしまう。核廃棄物処理場の確保さえ出来ていないのに原発再稼働を進めようとしていることも、そのように感じさせる理由の一つだ。
 
 最後は、今回の運転差し止めを認める仮処分の決定が示された根拠として、伊方原発のある愛媛県と海を挟んだ対岸・九州の阿蘇山が噴火した場合の影響の考慮が不十分だという点が指摘されたことに注目し、「阿蘇山が大噴火して対岸の伊方原発にまで影響が及ぶような事態なら、原発どうこうというレベルの被害でなく、九州が壊滅的な被害を受けるような話だから、伊方原発だけのことを考えても仕方ないのではないか」という話についてだ。
 今回の広島高裁の判断では、過去最大の阿蘇山噴火の規模を想定すれば、火砕流が対岸の四国に到達する場合もあるのではないかという指摘がなされ、それを理由に影響の検討が不十分だとしているのだが、そんな何万年に1度あるかどうか程度の事態が伊方原発稼働期限までに起きる確率はかなり低いだろうし、もし万が一起きたとしても、九州、少なくとも阿蘇山の一帯は壊滅的な被害を受けることになるだろうから、伊方原発の被害云々どころではないという話は一見合理的な主張のようにも思える。しかし、確率は低くともゼロではないのだから、そんな自然災害が起きる恐れも想定するべきだろう。福島の原発事故だって、これまでは起きないとされていた規模の津波によって引き起こされたのだから、何万年に1度あるかどうかの事態も想定する必要があると言えそうだ。
 また、被害が甚大で原発一機どうこう言っても仕方がないという話も視野が狭い。どの程度の噴火が起きるのかなんて現時点では予測がつかない。もし伊方原発に火砕流が到達して大事故を起こし、噴火の直接的な被害を直接受けなかった中国地方や四国の東側一帯を放射能汚染し、2次被害が拡大するということもあり得るのではないか。そんなことになれば、伊方原発の稼働によって被害が拡大することになるのだから、伊方原発は動かさない方がよかったという話になるだろう。もし火砕流が到達するような事態になったとしても、海があるのだから到達するまでにはある程度の時間があると予想できるので、運転を停止するなど最低限の処理をする余裕はあるだろうから、そのような事態になってもそこまで被害は拡大しないのではないかという想定も出来るだろうが、噴火と共に大地震・津波が発生するなどしたら福島の事故のように制御不能に陥ることも充分考えられる。そして噴火の影響が、最低限の原発の処理で対処できる程度で済むという保証もどこにもない。今回の判決は要するにそういうことまで想定しているのかに疑問を呈し、見切り発車的に・若しくはなし崩し的に再稼働に踏み切ろうとしている政府や原子力規制委員会・電力会社などに見直しを求めるものだろうと自分は思う。
 
 恐らく、「阿蘇山が大噴火して対岸の伊方原発にまで影響が及ぶような事態なら、原発どうこうというレベルの問題でなく、九州が壊滅的な被害を受けるような話だから、伊方原発だけのことを考えても仕方ないのではないか」と主張をする人は、事故が起きても福島の事故程度の影響で済むという認識なのだろうと想像する。個人的には福島の事故の規模ですら、あってはならないと思えるが、そのような人たちにとっては、阿蘇山の一帯が壊滅的な被害を受けるような事態なら、福島の事故程度は仕方がない・とるに足らないと考えているのだろう。しかし、事故が起きた際に福島の事故と同程度で済むという保証はどこにもない。チェルノブイリのような規模の影響が出るかもしれないし、それ以上かもしれない。
 私たちは福島の原発事故で、対策は十分で原発事故は日本では起きるはずがないという、所謂安全神話が真実ではなかったことを思い知らされたはずだ。しかも起きるはずがないとされていた規模の津波が押し寄せたことや、近年多発する異常気象・自然災害で、自然は人間の想定を超えてくるということも改めて思い知ったはずだ。原発事故の影響の深刻な周辺地域は何十年も人が住めなくなるということも思い知ったはずだ。確かに伊方原発に被害が及ぶような阿蘇山の噴火が起これば、原発に起因する以外の被害もかなり大きくなるだろう。しかし被害が大きいから原発の被害が起きてもトータルでは大差ないということにはならないし、噴火の直接被害に比べて原発事故の被害はとるに足らない規模で済むという保証もどこにもない。
 ということは、「阿蘇山が大噴火して対岸の伊方原発にまで影響が及ぶような事態なら、原発どうこうというレベルの問題でなく、九州が壊滅的な被害を受けるような話だから、伊方原発だけのことを考えても仕方ないのではないか」という話は、だから稼働させても問題ないという主張の根拠にはなり得ないということになると自分は考える。


 ここまでにモーニングCROSSの放送中の画面に表示された、広島高裁の判断に対して批判的な視聴者ツイートを3種類紹介し、個人的な反論をした。2つ目や3つ目は明らかに自分の意見とは異なる内容だが、それでも圧倒的に不適切な内容のツイートとまでは言えず、主張の多様性を重んじるならば、主張自体は容認するべきだと言えるだろう。しかし、最初に挙げた「こんな判決はテロ行為にも等しい」という趣旨のツイートはテレビ画面に表示するべきでない程度の低いツイートではないだろうか。個人的にはツイートすらして欲しくないが、流石にそこまで規制するべきかどうかには自信がないが、確実にテレビ番組が取り上げるべきではない内容だと自分には思える。
 こんなツイートをテレビで取り上げることは、テレビに自分のツイートを表示させたいという動機の過激なツイートを助長する恐れがあるのではないだろうか。テレビ番組が視聴者ツイートを紹介するなら、もう少しその影響をよく考えた方が良いのではないだろうか。

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