アメリカ・トランプ大統領が12/6にエルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館を移転する意向を示したことを受けて、国連は12/21に緊急特別会合(総会)を開き、”エルサレムの地位変更(首都容認)は無効”とする決議案の採決を行い、賛成128票・反対9票・棄権35票で可決された。数日前に、トランプ大統領のこの表明を受けて開かれた安全保障理事会でも同様の決議が行われたが、アメリカただ1国だけが拒否権を行使した為に決議には至らなかった。この件は今朝のMXテレビ・モーニングCROSSもトップニュースとして取り上げており、番組によると、トランプ大統領はこの国連の緊急特別会合で採決が行われることを念頭に置いた上で、12/20に行われたホワイトハウスの閣議で、「アメリカから数億から数十億ドルも受け取りながら反対する国があるのなら好きにさせておけ」と述べたそうだ。また別のメディアではその後に「米国は(経済援助を)大幅に節約できる」と続けたとも報じられている。要するに、採決の際にアメリカに反対の立場をとる国への経済援助の打ち切りや、決議が可決されれば国連分担金の負担削減を行うという考えを強く滲ませたそうだ。
アメリカが先月、北朝鮮を再びテロ支援国家に指定した際に、大統領は北朝鮮を”ならず者国家”と呼んでいたと記憶している。個人的には必要以上に挑発的に見えてしまうので好ましくない表現だと感じられるが、確かに核実験やミサイル発射を国連決議に反して強行しているのだから、”ならず者国家”とアメリカ大統領が呼ぶのもある意味では仕方ないかもしれないし、大きな目で見れば的を射ている側面もあるようにも感じた。
しかし、詳しくは12/6の投稿で説明した通りだが、アメリカがエルサレムをイスラエル首都認定したことも、1980年の国連決議に明確に違反している。それを改めて指摘する安保理決議に拒否権を発動し、国連総会での採決の前に、我々(アメリカ政府)の意向に反して賛成するなら「分担金の負担は止めるし、経済援助も打ち切る」などと金で脅すような態度を示すアメリカも、結構な”ならず者国家”ではないか?と感じるし、そんなことを言ってしまう大統領も”ならず者大統領”だと自分には思える。
80年代頃まで、多くの日本人にとってアメリカは豊かさと自由の象徴というイメージが強く、憧れの対象だった。安保闘争やベトナム戦争への反戦運動、ジャパンバッシングへの反感など、日本に戦後、反米の機運が全くなかったわけではないが、「ニューヨークへ行きたいか!」をスローガンにしていたアメリカ横断ウルトラクイズなる番組が、80年代には毎年放送されていたことが物語っていたように、多くの日本人はアメリカに憧れと尊敬の念を抱き、概ね好意的に受け止めていたように自分は記憶している。それは決して日本だけの話ではなく、程度の差はあれど世界的な傾向だっただろうし、閉塞感が考えられない程強かったであろう社会主義陣営の国の若者らも、アメリカンドリームと言う言葉や、アメリカのミュージシャンの曲や歌詞などからの連想によって、自由の象徴という認識はあっただろうし、当時は意思表示をすることは出来なかっただろうが、そのようなイメージを確実に抱いていただろうと想像する。そうでなければ、1989年のベルリンの壁崩壊は起こらなかっただろう。
しかし、そのベルリンの壁崩壊に端を発し、社会主義陣営最大の国・ソビエト連邦の崩壊によって冷戦構造自体もなくなったことや、湾岸戦争からアメリカ同時多発テロ、アフガニスタン侵攻への流れ、そして極めつけは、大量破壊兵器の保有を理由に開戦したのに、結局大量破壊兵器は一切見つからなかったイラク戦争で、アメリカの権威はどんどん失墜し、憧れの対象としての地位も低下、新興国などの経済状況の改善などにより、豊さの象徴というイメージも薄くなってしまったように思う。
歴史学者でも政治学者でもない自分の視点での見解でしかないが、アメリカは90年代以降の度重なる中東政策の失敗によって、その国際的な地位を低下させ続けてきたのだろう。そして、現在のトランプ大統領は「Make america great again.」というスローガンを掲げているにもかかわらず、アメリカの国際的な権威失墜に拍車を掛けるような振舞いばかりしており、彼こそが、そして彼がトップに君臨する今のホワイトハウスの面々が、アメリカのGreatな部分を、寧ろどんどん捨て去っているように思えてならない。
トランプ氏は「アメリカの経済が最優先だ(それ以外は自分の知ったことではない)」という考え方を様々な場面で強く匂わせている。12/20に「アメリカに楯突くなら、資金援助はしてやらない」という態度を示した彼は、十中八九、戦後これまでアメリカ経済が潤ってきたのは、アメリカだけの努力の成果で、他の国はそれに群がるアリ程度にしか考えていないのだろう。しかし、いくら超大国アメリカと言えども、戦後経済的に優位な状態を長らく維持出来ているのは、良くも悪くも世界中の国と貿易を行い、時には搾取まがいのこともしてきたからこそだろう。要するにアメリカ一国で今のアメリカがあるわけでは決してない。流石にトランプ氏も単なるバカではないだろうから、急速に孤立化を深めるなんてことはないだろうが、アメリカ第一主義を掲げる彼が方向性として孤立化に向かっているのは間違いない。
豊かさの象徴・憧れの対象としての地位や、自由でチャンスフルな国という意味などでの尊敬の対象としてのイメージを失っても、直ちに深刻な影響が出始めるなんてことはないだろうが、長期的に見ればアメリカ経済への悪影響を免れること出来ないだろう。ということは、今後もアメリカ第一主義の強硬な姿勢を続けるようであれば、アメリカ経済が将来的には先細る恐れも多分にある。今トランプ大統領が示している態度は、そのようなことを現実にしてしまう恐れがあるものだと強く感じる。
また、モーニングCROSSの番組内で表示されていた、この件に関する視聴者ツイートの中に、気になる2つのツイートが含まれていた。
まず、
国連が「エルサレムは首都じゃない!」と言っちゃうのもどうかと思うがな。国家主権とはいったい('A`)国連が「エルサレムは首都じゃない!」と言っちゃうのもどうかと思うがな。国家主権とはいったい('A`) #クロス— APHARMD (@MBV09C) 2017年12月21日
にというツイートについてだが、例えば、万が一尖閣諸島を中国側が武力を背景に一方的に占拠し、それをアメリカが容認し、国連が武力による一方的な現状変更は認められないから、中国は即時撤退するべきだし、アメリカの判断も無効だと決議しても「中国には国家主権があるのだから、国連は口を出すな」と彼は思えるのだろうか。
そして何よりも、歴史的にエルサレム・地域としてのパレスチナがどのような経緯を辿ってきたのか、今どのような状況にあるのかを全く理解していないから出来る発言でしかない。「国家主権とは一体」などと言っているが、それはイスラエル、そしてアメリカ側だけに立った視点で、パレスチナ側での視点が完全に抜け落ちている。現在、ヨルダン川西岸地区やエルサレムは一方的にイスラエル側が占領したことによって、多くの地域がイスラエルの一部のような状態になっているが、厳密にはイスラエル側が一方的に、そして武力を背景に現状変更をした結果であって、パレスチナのイスラム教徒側の主権も絶対無視することは出来ない。だからエルサレムをイスラエルが実効支配しているにも関わらず、イスラエルの首都ともパレスチナの首都とも認められないという姿勢を、国連とその加盟国の大半は示し、首都におくべき在イスラエル大使館を、エルサレムでなくテルアビブに置いている。
見識のない者は一切ツイートするなとは言わないが、「-と思うがな。」などと格好をつけたいなら、もう少し事実関係を確認してからにしないと恥をかくことになる。
次は、
ほらほら、日本がイェルサレムについてアメリカ追従しなかったから、マスコミから称賛の嵐が。。。吹かないねぇ。ほらほら、日本がイェルサレムについてアメリカ追従しなかったから、マスコミから称賛の嵐が。。。吹かないねぇ。 #クロス— 兎伯爵 (@rabbit_earl) 2017年12月21日
というツイートについて。恐らく彼は現政権の積極的な支持者なのだろう。現政権が米軍ヘリの墜落・部品落下、米兵の不祥事など沖縄基地問題において、米軍に強く懸念を示さないことや、北朝鮮問題などで、あからさまなまでに米追従姿勢を示していることなどを理由に、ネット上では、安倍首相はアメリカの犬とか、トランプの腰巾着・Yesマンと評価をする者がいる。自分もその一人だし、そこまで明確な文言を使用しているかは別として、そのような論調の記事を掲載するメディアも決して少なくない。海外のメディアなどでは明確に”Yes man”という文言が使用される場合もある。彼はそんなことを念頭に置いて、今回のエルサレムに関する国連の決議に関して、安保理でも総会でも、日本代表が決議に賛成(アメリカによるエルサレムのイスラエル首都認定に反対)したことを理由に、今回日本はアメリカに追従せず、明らかに反対の姿勢を示したのだから、マスコミは「よくやった」と称賛しろ・するべきだ、という事なのだろう。
まるで5歳児が、積み木1つを片付けたから自分を褒めろ、と駄々をこねているように思えてしまう。アメリカがこれまでの国連決議に反してエルサレムをイスラエルの首都だとする姿勢を示したのだから、北朝鮮問題で、北朝鮮に国連決議を遵守し核開発・ミサイル発射を止めろと言っている日本が、アメリカにも同様に国連決議を無視するなという態度を示すのは、当たり前すぎて褒められる要素などどこにもない。たった一つアメリカと異なる態度を示したのだから褒め称えなければおかしいなんて、よくそんなことを恥ずかし気もなく言えたものだ。それとも彼は、現政権の積極的な支持者のふりをして、現政権は自分たちに好意的でないマスコミは、フェイクニュースだと言ってしまうようなトランプ政権と似たり寄ったりの程度だと、貶めようと目論んでいるのだろうか。
ツイッター・個人のツイートとは元来、些細な独り言のような性質のもので、匿名掲示板・2chの書き込みが便所の落書きと言われたのと同じように、何が書かれようが取るに足らないものでしかないはずだったが、テレビ番組で取り上げられるようになれば、タレントや著名人でない個人のツイートでもそれなりに影響力が生まれるだろうから、戯言では済まないという側面も確実に出てくる。このブログではこれまでにも何度も書いているが、番組側もそれを真摯に考慮し、最低限画面に表示するツイートの選別を行うべきではないのか。選別を極力行わないという方針を続けるのであれば、間違った見解に基づいている恐れのあるツイートには、相応の懸念を示す時間を確保することも必要ではないだろうか。今の状態では、ヘイトスピーチ・フェイクニュースを、消極的にではあるが、拡散する役割を担ってしまっているケースが全くないとは言えない状況になってしまっていると自分は感じる。