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沖縄・落下事故・スルースキル


 12/11に発生した小学校校庭への米軍ヘリ窓落下事故。米軍は否定しているが、その直前の12/7にも同様の、保育園への部品落下事故(厳密には米軍側が否定しているので”疑惑”)が起きている。11日の事件については、12/17の投稿でも触れ、これに関連したBuzzFeed Japanの記事に、心無い・又は誤った認識に基づいた検討違いの批判的なコメントが寄せられていることを書いた。心無い中傷・批判が7日の事件に関しても、保育園に対して直接行われていることについて12/13の投稿で触れた。毎日新聞は、11日の事件で校庭に窓が落下した小学校にも、心無い・根拠の無い中傷・批判が直接電話などで寄せられていることを「『文句言うな…』被害小学校に続く中傷」という記事で伝えている。

 
 この件に関して、MXテレビ・モーニングCROSSも毎日新聞の記事が紙面に掲載された昨日・12/25はその日の朝刊の各紙面から番組が注目した記事を紹介する”今朝のイチメン”のコーナーで、そして今日・12/26は前日にネット上で話題に上った案件をランキング形式で紹介する”Webニュースクチコミランキング”のコーナーで、2日間に渡って同じ記事を取り上げており、「これは強く問題視するべきだ」という番組の姿勢が感じられた。
 Webニュースクチコミランキングでは、取り上げたそれぞれの事案に関して、男女・年齢別の注目度をパーセント表示で可視化しているのだが、この件に関しては、以下のような割合だった。


20代未満の注目度が7%と、他の世代に対して突出して低かった事を受けて、今朝のコメンテーターだった尾原和啓さんは

20代が(恐らく20代未満の言い間違い)なんであんまり反応しないのかということも結構大事だと思ってて、って言うのは、インターネットやメディアのおかげで、今の駒崎さんみたいに(直前に同じく今朝のコメンテーターだった駒崎弘樹さんが「こんな中傷は許されない」という旨のコメントをしている)、冷静なファクトとして、ちゃんとバランスをとった判断をしようというものがある一方で、やっぱどうしてもノイジーマイノリティーの存在ってずっとあるんですよね。で、20代の人ってもう(小さい頃から)ネットにさらされているから、言い方悪いんですけどスルー力?、必ずああいうノイジーは来るから、気にしないって力を身につけているから、だから、こういうことをちゃんと品格を唱えつつも、みんなスルー力を持った方が、僕はいいと思う

と自身の考えを述べていた。直後に番組MCの堀潤氏が「でも、学校に、子供に向けてこんな中傷が1件でもあったらやっぱり不安になるでしょう」という旨のフォローを行い、それに対して尾原さんも、その通りだという姿勢は示していたものの、「それでも大人はそういう力(スルー力)を持っていていい」と述べてもいた。また、尾原さんがノイジーマイノリティーという表現を用いたことなどを受けて、駒崎さんは、

(寄せられた中傷電話の件数)30件を、(国の人口が)1億2千万人いる中で、30件を何とかしなきゃ!(と深刻な大問題)みたいに言っているとやっぱり物事進まないので、スルーしつつ、しかし同時に正しい情報を、ファクトとデータを出し続けるということ(が大事じゃないか)と思います

とコメントしていた。恐らくこのコメントも駒崎さんなりのフォローだったのだろう。

 12/9の投稿12/11の投稿12/19の投稿と、スルースキルの有効性の低さを直近、再三書いている自分は、尾原さんの主張には全く同意することが出来なかった。確かに、自分も「30件は1億2千万人に比べたら少ない」と似たような論法で12/2の投稿を書いており、30件という中傷電話の件数は、見方次第では多いとは言えないと思う。番組で堀潤氏が指摘していたように、30人が電話しているのでなく最悪1人の人間が複数に見せかけている恐れだってある。しかし、件数が少ないからスルーした方がよいというのは本当に適切だろうか。例えば、日本中にいじめを受けている子供はまだまだいるだろうが、どのいじめ被害者に対する加害者も、どんなに多くても30人(一クラス分)程度で、日本の全人口と比べたらこの件の中傷電話と同じくらいの割合でしかない。そんな風に見れば、そして尾原さんの主張を勘案すれば、どのケースでも「いじめを行っている者はそんなに多くない、だからいじめは騒がずスルーしてやり過ごした方がいい」ということになってしまわないだろうか。
 ただ、尾原さんも前述の堀潤氏のフォローを受けて、「それでも大人はそういう力(スルー力)を持っていていい」と述べる前に「子供は別」とも言っていたので、前段の話は当てはまらないということなのかもしれない。しかし、いじめは決して子供の世界だけの話ではない。大人の世界でも、会社の中でいじめられたり、少し前には九州のある村で、Uターンしてきた者を村八分にしていたなんて報道もあった。結局そんなケースも全人口に比べたらいじめに加わるものの数は少ないのだから、スルーするべきということになるだろうか。自分はそんなことは決してないと思うし、スルーしても何も問題は解決しないとしか思えない。
 
 さらに、尾原さんの「20代未満の若者のように、大人もスルー力をもつべき」という話は、「いじめを傍観するのはいじめに加担しているのも同じ」というような見解とも大きく矛盾するように感じられ、そんな意味でも強い違和感を感じた。確かに、昨日の投稿でも書いたように、このような中傷に対する憤りが過剰になり過ぎ、単なる感情のぶつけ合い・罵り合いになってしまうようなことは確実に適切ではない。しかし、それを避ける為にはスルー力が有効かつ重要だというのは、絶対そうじゃないと自分は思う。有効性はゼロじゃないが副作用が余りにも大きくて、適切な対応とは言えないとしか思えない。
 日本では朝鮮・韓国に対する差別意識が一部にある。それはネット普及以前からあるもので、その始まりは戦前の韓国併合の頃まで遡る。そのような意味では、在日朝鮮人・韓国人、または日本に帰化した朝鮮半島にルーツを持つ人への差別は以前からあったが、1990年代までと比べて今の方がヘイトデモは確実に増えているし、ネット上のヘイトスピーチも確実に増えている。勿論ネット上に関しては尾原さんの言うように、極少数のノイジーマイノリティーが多数派を装っているとも考えられるが、ネット普及以前の状況と現在の状況を比べてみれば、スルーしていれば不適切な言説はそのうち淘汰されて消えるという話に、合理性がなさそうなことは誰の目にも明らかではないだろうか。スルー力の有効性が本当に高いなら、朝鮮・韓国差別・そしてそれと同様のメカニズム、歴史的背景で起こっていると個人的に考える沖縄差別などの、民族・出自による差別が全くゼロになることは無くても、スルースキルがしばしば話題になるようになってしばらく経つ現在は、スルースキルが論じられていなかった頃に比べて状況が改善しているはずなのに、寧ろ悪化しているようにすら思える。

 スルーすることが多くの場面において重要で合理的なのであれば、スルーしていればいじめは子供世界からも大人の世界からも確実になくなるのだろうし、朝鮮・韓国や沖縄だけでなく、今日のモーニングCROSSで取り上げていた生活保護受給者への偏見・差別なども既になくなっているのではないだろうか。「スルーすることには全く意味がない」などと言うつもりは毛頭無い。確かに場合によってはスルー力に有効性があることもしばしばある。しかし、少なくとも沖縄の基地問題、特に米軍すら認めている部品落下事故への誹謗中傷は、スルーで済ませられるような事案ではない。この件のコメントで「スルー力を高めろ」というのは不適切だと思えてならない。この件に関して「スルー力を高めろ」と言うのは、「沖縄差別は見て見ぬふりをしておけ、対応はそれで十分」と言っているようにさえ聞こえてしまう。

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