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アマゾン二重価格表示について考える


 消費者庁が、アマゾンジャパンに対して二重価格表示の是正を求める措置命令を出した、と複数のメディアで報じられている。アマゾンの商品ページには”参考価格”と表記している所謂”通常価格”のような、実際の販売価格がどれくらい割安かをアピールする為の表示があるが、商品の中には、販売価格がメーカー希望小売価格よりも割高なのにも関わらず、参考価格にその数倍の価格を表示して、参考価格の〇〇%OFFなどとすることで、過剰に割安感を煽っていることがしばしばあったようで、今回の措置命令という処分に至ったようだ。
 確かに日本では不当な価格拘束は禁じられており、メーカー希望小売価格は、文字通りあくまでメーカー側の希望でしかなく、いくらで販売しようとそれは小売店の自由だし、参考価格とか通常価格と表記する場合、どんな価格であろうが相応の販売実績、売れていなくても、一定期間その価格で商品を実際に販売していることが事実であるならば、メーカー希望小売価格よりも高くても問題ない。しかし、明らかに割安感で消費者心理を煽った販売促進を目的として、元の価格を過大に表示して過剰に割安感を煽る二重価格表示は、消費者保護の観点から法律によって規制されている。要するに今回は、過剰に割安感を煽っている懸念がかなり強いので是正せよ、と消費者庁が措置命令を出したということだろう。

 
 これに対してアマゾンジャパン側は、消費者庁の見解と自分たちの見解に相違があるなどとして「内容を慎重に検討して対応を決定する」とコメントしているようだ。単純に考えれば「アマゾンは不備を指摘されているのに、なんで強気なんだろうか」というように見えるだろう。もしかしたら前述のような、メーカー小売希望価格と参考価格、販売価格の関係性を根拠に、厳密には法に触れるようなことをしていないという言い分が成立するかどうかを、改めて検討してから対応を決めるということかもしれない。しかし、それだけではないのかもしれないと自分には思えた。

 この件を考える上で、アマゾンがどのようなECサイト(インターネット通販サイト)なのかを把握しておく必要があるだろう。日本でECサイトの大手と言えば、アマゾン、楽天市場、Yahooショッピングなどがある。また、ヨドバシ.comなどのような通販サイトも、家電などの分野だけで言えば大手ECサイトと言えるかもしれない。

 まず、楽天市場やYahooショッピングについてどのようなサイトか考えたい。これらのサイトは自社で商品の販売を行っているのではなく、出店者に自社サイト上の場所を貸して家賃を取るような形式のサイトだ。
 

実社会に当てはめれば、109やパルコ・ラフォーレなどのファッションビルや飲食店が集まるテナント貸しビルとよく似ている。一部例外はあるが、109やパルコも基本的には自分たちで商品を販売するのではなく、自分たちが109やパルコという看板を掲げてブランド化したビル内の区画を、様々なファッションブランドやセレクトショップに貸すことで収益を上げている。楽天市場やYahooショッピングも同じように、出店者にブランド化した看板を掲げたサイト内のスペースを貸す形で、主に大家として収益を上げている。

 次にヨドバシ.comなどのサイトがどのような形態かだが、これはヨドバシカメラの実店舗同様、ヨドバシ.com内で商品を販売しているのはヨドバシカメラだけだ。実店舗では、飲食店などの外部テナントにスペースを貸していることも一部ではあるが、実店舗でも基本的にはヨドバシカメラの店舗内で商品を販売しているのはヨドバシカメラだけだ。
 

ヨドバシカメラに限らず、イオンやイトーヨーカドーなどの比較的小規模な単体スーパーマーケットも基本的には同様だろう。そしてアマゾンについても、同じ様にアマゾンで商品を売っているのはアマゾンだけ、と考えている人が結構な割合で存在していると自分は感じている。しかし、アマゾンのヘビーユーザーなら知っている人もそれなりにいるだろうが、アマゾンで商品を売っているのはアマゾンだけではない。確かにアマゾンの黎明期は、アマゾンで商品を売っているのはアマゾンだけだったが、現在は確実に状況が変わっている。

 ではアマゾンは現在どのような形態なのか、それは実社会に当てはめれば、イオンモールやイトーヨーカドーなどのスーパー・ホームセンターなどが主体となって運営しているショッピングモールのような状態だ。イオンモールで説明すると、まずイオンのスーパーが、モールの規模にも寄るが、モールの中で大抵最も大きな存在であり、面積も最も大きい場合が殆どだ。そして更に専門店街が併設され、そこからの家賃収入でも収益を上げている。大きなスーパーとそれが扱っていないような商品を扱う専門店が集まることによって、それぞれの集客を向上させることが出来るという仕組みだ。
 アマゾンも似たような状況で、自社サイトで販売している商品の大半はアマゾンが販売しているが、同時にアマゾン以外の店・出品者を募り、アマゾン内で商品を販売させている。


アマゾンの場合、専門店街の併設というような形式をとらず、各商品のページでの管理になっているので、アマゾン以外の出品者の商品でも、購入者にそれをあまり意識させず、あたかもアマゾンが販売しているかのように見えるサイトの構造になっている。だから今でも黎明期のアマゾンと同様に「アマゾンで商品を販売しているのはアマゾンだけ」と感じる人が少なくないのだろう。

 アマゾンが「消費者庁の見解と自分たちの見解が異なる」とした理由は、このようなことに由来する部分もあるのかもしれないと自分は感じる。例えば、楽天市場に出店している店舗が問題のある二重価格表示を行い、消費者庁が是正を促す場合、消費者庁は楽天市場ではなく出店者に直接指導をするだろう。勿論管理責任的に楽天市場にも予防策を要請するかもしれないが、あくまでも指摘を受ける主体は出店者側だろう。
 今回のアマゾンの件では、アマゾンが措置命令を受けたということになっており、アマゾンは「二重価格表示を行っているのは概ねアマゾンではない出品者で、自分たちに措置命令が出されるのはお門違いだ」と考えているのかもしれない。そのような仮説を基にネット上などで話題に上がっている当該商品のページをいくつか見てみたが、確かにアマゾン以外の出品者の商品であるケースも多いようだ。
 しかし、中には「この商品は、Amazon.co.jpが販売、発送します。」と明記された商品も幾つか見受けられ、前述のような言い分は必ずしも成立しないようにも思える。自分はアマゾンの仕組みに詳しいわけではないが、もしかしたら、アマゾンではない出品者の商品で価格設定は出品者が行っているが、商品発送の迅速化の為に商品の在庫がアマゾンに置かれており、販売・発送をアマゾンが代行しているというような場合にも、アマゾンが販売・発送するという説明がなされているのかもしれない。しかし、もしそうであっても、出品者とアマゾンの垣根が分かりにくいサイトの構造上、アマゾンの責任で状況を是正せよと指摘されるのは仕方がないことだと思うし、出品者に対する監督責任は少なからず生じるだろうと自分は考える。
 
 今日の投稿はアマゾンがどのように受け止めているかについて、個人的な想像の部分が大きく、これからアマゾンがどのような態度を示すかによって、ここで示した自分の考えが適当かどうかも大きく変わるだろう。今後どのような話になるのかはまだ分からないが、ECサイトとして国内で1,2を争う規模の大手なのだから、果たすべき責任を適切に認識し、その責任を是非果たして欲しいと感じる。

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