内閣府が人権擁護に関する世論調査の結果を発表したようだ。相変わらず掲載日すら書かれておらず、お役所のサイトは不親切だというのがこのページを開いた際の第一印象だった。それはとりあえず置いておくとして、女性・同和地区・障碍者・震災関連・犯罪被害者など様々なジャンルの人権問題に関する調査なのだが、これについて、時事通信とNHKは共に、外国人差別・ヘイトスピーチに関する調査結果に着目している。多岐にわたる調査結果の中で同じ点に注目しているのに、それぞれの記事の見出しには差があり、とても興味深い。
時事通信は
という見出しでこの件を伝え、NHKは
という見出しを掲げて記事を書いている。記事を書く記者によって、最も重要だと感じる点が異なるということがよくわかる。NHKの記者が注目したのは、
ヘイトスピーチと呼ばれる民族差別的な言動を繰り返す街宣活動やデモを知っているか尋ねたところ、「知っている」が57.4%
という点だと記事の見出しから推測できる。この点には当然時事通信の記者も触れている。しかし時事通信の記者が最も注目したのは、その57.4%の人のうち、
17.0%の人が「表現の自由の範囲内のものだ」
と感じている点だったようだ。NHKの記事にも一応これに関する記述はある。
同じ問(厳密には、時事通信が注目したのはNHKが取り上げた問を前提にした関連する問)に注目しているのに、NHKはヘイトスピーチに対して肯定的か否定的かに関わらない回答に注目し、時事通信は肯定的な回答が2割に迫る勢いだということに注目しているのが、自分には対象的に感じられ、とても興味深かった。
この印象を更に感じさせるのは、両方の記事に書かれている法務省(の担当者)のコメントだ。時事通信は、ヘイトスピーチの存在を認識している人のうち17.0%が「表現の自由の範囲内だと思った」と答えていることに対して、法務省の担当者が
「あってはならないことだという認識を広める努力を続けていかなければならない」と危機感を強めている。
としているのに対して、NHKは、特に何に対してという記述がないので、恐らくこの調査全体の受け止めとしてということだろうが、
「人権擁護に関する課題はいまだ残っているので、教育や積極的な啓発に取り組むとともに、インターネットを活用した広報にも力を入れたい」としています。
と書いている。時事通信とNHKが同じ担当者に同時に取材をしたとは限らないし、もし同時に取材していたとしても、もっと長い質疑の中からそれぞれが注目すべき点を抽出したのかもしれないから、文言が異なることには何も違和感はない。そして共に人権に関する問題を解決しなければならないという立場を法務省が示しているということでは一致している。
しかし、何度読んでみても時事通信の記事のコメントの方が明らかに、ヘイトスピーチに対して否定的なニュアンスを強く示しているように感じられ、NHKの方は人権問題を解決する必要性は確実にあるが、様々な主張を勘案して慎重に対応することが必要だ、という一歩下がったニュアンスのように感じられる。同じ案件について共に法務省に取材をしているのに異なった論調の記事になっていること、そしてその論調と法務省のコメントが同調している点がとても面白い。
自分が言いたいのは”どちらかが事実を歪曲している”ということではない。どちらの見解も事実を表現していると思えるし、法務省のコメントは、どちらも記者の質問に対して実際に法務省側が述べたことなのだろう。要するに、”事実”は限定された唯一のものではなく、見る人によって微妙に見え方が変わるのだろうから、それなりの幅があるものだ、ということではないだろうか。
ただ、確実に事実ではないと言えることもある。11/24に産経新聞が「【河野太郎外相インタビュー】在韓邦人退避、自衛隊への韓国世論が障害」という記事を掲載している。自分はこれについて河野氏本人のツイートで知った。この記事の見出しだと、まるで河野氏が「有事に在韓邦人の退避を行うのに、韓国国内の自衛隊に対する世論が障害になる」と述べたように感じられるが、記事内にはそんな発言がないだけでなく、河野氏の発言した言葉は一切ないし、河野氏の発言と関連した記述も一切ない。
何かの間違いで【河野太郎外相インタビュー】という文言を誤ってコピペしてしまったのか?と最初は考えたが、記事は河野太郎外相インタビューというキャプションと共に21日に河野氏へ取材した際に撮影したとする河野氏の写真も掲載している。このことから考えると、河野氏への取材すらしていないのに【河野太郎外相インタビュー】なんて書いているのか、河野氏への取材はしたが本人の発言とは関係ない記事を書いて【河野太郎外相インタビュー】という見出しを掲げているのか、若しくは”別の何か”なのかは分からないが、この記事はなんらかの事実を歪曲していると言わざるを得ない。
一つの事象について事実というのは一つではなく、見る人の視点によって見え方に差があるだろうから、複数の方法で言い表されることはあるが、例えば、一言も言っていないのに何かを話したとするなど(河野氏の件がそうであると断定しているわけではない)、元の事象と決定的に異なる場合は、確実に事実とは言えない。事実というのはそういう性質のものだと自分は思う。