スキップしてメイン コンテンツに移動
 

山梨県警の注意喚起手法について


 山梨県警が投稿した架空請求ハガキへのツッコミが大きな話題になっている。この手の架空請求は、少なくともネット普及黎明期から存在するもので、当時はそのほとんどが「アダルトサイトを閲覧したからその料金払え」という手法だった。ハガキが届く以外にも、当時流行り始めたばかりのEメールで架空請求が行われるケースも多かった。しかし、公的機関のお知らせや正当な督促はハガキや封書で届くことが当たり前だった(というか、今でも多い)ので、騙すにしてもハガキの方がより説得力があったのではないかと思う。どこで個人情報を入手したのか、自分にもこの手のハガキが届いたことがあるが、当時から自分はネットやPCへの興味が高く「こんなのに騙されて金払う奴いるのか?」と思っていたが、とある飲み会でその件に触れると、同僚の7割程度が「え?そうなの?」と、金額はそれぞれだったが、騙されて支払ったことがあると言い出して、とても驚いた経験がある。


 これまでに何度も、日本各地で様々な団体がこのような詐欺に対する注意喚起・啓蒙活動を行っているのに、20年以上もこの手の詐欺が続いているということは、未だに騙される人がいるということだろう。Eメールを使用した架空請求なら人件費以外にコストは殆どかからないだろうが、郵送ではハガキの印刷代・送料が、送れば送っただけコストとして積み重なる。要するに騙される者が少ない、割に合わない詐欺だったら、こんな手法は既に絶滅しているはずだ。だから、山梨県警が実際に送られてきたと思われるハガキを例に挙げて「偽の請求は、よく見れば不自然な点が満載だから、落ち着けば誰でも気が付けるはず」と注意喚起を行い、今回のように注目を集め話題に上ったことは、とても素晴らしいと感じる。
 実際の山梨県警のツイートは以下のようなもので、


注目が集まっている理由は、「架空請求に対するツッコミがキレッキレと話題に」とか「架空請求ハガキに県警が激しくツッコミ」といった見出しでメディアが伝えているように、ツッコミの入れ方にもあるのだろう。だが個人的には、たとえ注目を集める目的であっても、警察がまるでチンピラかのような口調でツッコミを入れているのには、違和感を感じてしまう。

 例えば、このツイートを行ったのが警察の公式アカウントではなく、芸人とか、Youtuberとか、単なる一般市民だというのなら、このような口調でもそれほど強い違和感を感じることはない。このような口調が有無を言わさず全てダメなのであれば、ヤンキー漫画もヤクザ映画も全てダメなんて極端な話にもなりかねず、そこまで過敏になるのはどうかと自分も思う。しかし、”警察が”ということであればまた話は別だと考える。
 警察は確実に権力組織で、しかも犯罪を取り締まるという強い権力を有していることは間違いない。日本では、警察官には誠実な人間が多いとされ、というか実際にそうなのだろうし、多くの人は「警察が言うんだったら間違いない」という先入観を持っていると感じる。しかし、警察官の不祥事は割合多く報道されるし、中には警察官個人の問題でなく、組織的に不祥事を隠蔽しようとしていたり、不祥事自体が組織的に行われていたなんてこともあり、「警察が言うんだから間違いない」と手放しに考えることには、危険性がそれなりにあると自分は感じている。
 
 「警察が言うんだから間違いない」といった、適切とは言えない認識を持つ人が決して少なくない社会状況と、ネット上には過剰に正義感を振りかざし、疑惑でしかないことを一方的に断定し、他人を過剰に罵倒・中傷してしまう人が一定数いることを考えれば、言っていることは正しくても、山梨県警がツイートしたようなチンピラかのような口調を、警察が用いることは、前述のような不適切な言動をしてしまう人達を更に助長する恐れもあり、決して好ましい行為とは言えないと自分には思える。
 例えば、

>「(わ)309」って、ちょっとだけリアル感あるけど詰めが甘い
「(わ)309」って、ちょっとだけリアル感あるけど詰めが甘い

>「原告側」って、だから一体どこの誰だよ
「原告側」って、一体どこの誰?

>おいおいいきなり差押えはあり得ねぇだろ
いきなり差し押さえはあり得ないでしょ

>「法務省管轄支局」? 法務省にそんな部署はねぇよ
「法務省管轄支局」? 法務省にそんな部署はない!

とチンピラ風の語尾でなくても、これだけ不自然な点が並べられていれば、それなりに”激しいツッコミ”には見えるだろう。話題になり易いように更にチンピラ風の口調にしたということも理解出来なくはないが、やはりそれでも警察という立場なら、ネット上に根拠なく強気になって誹謗中傷する人が多いということをもっと勘案して欲しかったし、間違った正義感を持つ人を助長してしまう恐れも考慮して欲しかった。

 何故そう考えるのかと言えば、勿論自分が困ったときに助けてくれた警察官もこれまでたくさんいたが、よく分からない理由で任意対応であるはずの職務質問を強制したり、急いでいるのに足止めしようとする警察官にも複数遭遇した経験があるからだ。後者のような警察官たちは、ネットで過剰に正義感を振りかざす者と同様に、自分たちは絶対的な正義の存在で、市民が協力するのは当然で、自分たちは決して間違わないという勘違いをしているように自分には見えてしまうからだ。
 この投稿を読んで、「山梨県警の言っていることは間違っていないのだから、細かい指摘で警察の手を煩わせるな」と感じる人も少なからず居るだろう。しかし自分は、警察には、自分たちは一般人以上に社会に強い影響を与える立場であることをもっと強く認識して欲しい

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。