スキップしてメイン コンテンツに移動
 

役所の情報管理能力


 「年金・水道・電気…転居の手続き、インターネットで一括で 政府が検討」。朝日新聞が掲載した、転居の際に必要な行政手続きに関する利便性向上の為、政府が”行政サービスの100%デジタル化”を検討し始めた、という記事だ。現在、転居に限らず他の場面の行政手続きも分かり難く煩雑なことが大半で、しかも同じような手続きが重複して必要な場合も少なくなく、市民サービスの向上という意味でも、人権費削減という観点でなく職員の働き方改革的な目線での事務コスト削減という意味でも、改善は確実に必要だ。しかも現政権は、数年前に携帯電話各社に「料金体系が煩雑で分かり難いので改善しろ」という旨の意向を示し、改善を促している。そんな話が無かったとしても改善に努めるのは当然だが、そんな話”も”あるのだから、自分たちの足元の行政サービスに関しては、更に一層積極的に改善を目指さなければならない状況だと言えるだろう。

 
 そのように感じる一方で、”政府が行政サービスの100%デジタル化を検討”と聞くと不安も同時に感じてしまう。現在手続きが分かり難く煩雑であることは当然ネガティブな側面の方が強い。それについては自分も異論はない。しかし、煩雑であるが故に何人もの役所の職員が関わり、ある意味では何重かのチェック機能を担っているとも言えるだろう。そもそも現在の手続きが煩雑になっている主な理由は、これまでに起きた、又は予想された不正手続きに対応する為でもあるだろうから、全く意味がないこととも言えない筈だ。勿論、最も理想的なのは、簡素で、且つチェック機能が適切に働き不正が起きない仕組みなのだが、果たしてお役所”ごとき”がそんな崇高な仕組みを実現出来るのだろうか。
 
 お役所”ごとき”と書いたが、”ごとき”と思えてしまう理由は複数ある。まず、世界有数と言われるようなIT技術に長けた企業でも、しばしば個人情報の流失案件が起きている。要するに完璧な仕組みというのは、まだまだ夢のまた夢のような状況だと言える。しかも、予算も技術も莫大な世界的な企業でさえそんな状況なのだから、お役所”ごとき”がその上を行くような仕組みを構築できるのかはかなり疑問だ。
 「いやいや、日本の政府や役所を侮り過ぎだ」と言う人もいるだろう。自分は以前、ある地方自治体の電子入札に参加していた。その時の電子入札システムは、2005年前後に運用され始めたシステムだったが、明らかに民間が使っているシステムに比べて古臭く、ユーザビリティ/使い勝手の悪いシステムだった。確か、当時は国レベルの一部の入札でも使用されているシステムだとの説明だったと記憶しているので、その地方自治体独自のシステムではなかったはずだ。恐らくその電子入札システムを構築したのは、どのような方法ではか定かでないが、国レベルの担当者が発注先を決定し委託を受けた民間業者なのだろう。出来の悪いシステムが採用されたということは、業者との癒着があったのか、適切な予算が投入されなかったのか、単に採用を決めた担当者らに見る目がなかったかのどれかだろう。どの理由だったのか定かでないし、もしかしたら自分が想像もしない他の理由があったのかもしれないが、発注を決めた担当者らに見る目がなかったという側面があったことだけは確実だ。
 この話は自分が関わっていた2010年頃までの話だから、もしかしたら現在は改善がなされているのかもしれない。しかし、政府を始め各省庁・地方自治体のWebサイトを見ていると、公式に発表した資料の出来の悪さ、一目でその情報がいつ公表されたのかが分からないなどの不親切さ、場合によっては初めてWebページを制作した者が作ったかのようなデザインだったり、相変わらずであるのを見ていると、状況が改善しているようには全く思えない。そんな点もお役所”ごとき”と感じられてしまう大きな要因だ。
 
 朝日新聞の記事では、マイナンバーの活用についても触れられているが、そのマイナンバーに関しても、あれ程認知活動をしていたにも関わらず、個人的には住民基本台帳カードの二の舞になっているように思えてならない。政府はマイナンバーの利用促進のためにもこの記事のような施策を試みているのだろうが、そもそもお役所の情報管理能力の信頼性がまだまだ低く、しかも悪意のある第三者だけでなく、役所自体が不適切に情報を使うかもしれないという懸念を持つ人が少なくないから、マイナンバーに対する拒否感が存在するのだと思う。結局のところ、「国交省 公用メール、1年で自動廃棄 政策検証が困難に」(リンク先は毎日新聞の記事)なんてことをやっている内は、いくら自分たちの適切さ・能力をアピールしたところで、そんなものに信憑性を手放しで感じる者は増えず、いくら行政サービスの100%デジタル化を検討しても、結局とん挫・挫折するだけのように思えてしまう。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。