昨年・2017年末、沖縄普天間飛行場の周辺の保育園・小学校で起きた米軍ヘリからの部品落下事故。保育園の件に関しては米軍側が否定的な見解を示しているので、厳密には疑惑だが、小学校の件に関しては米軍側も認めており、その後「極力、学校の上空を飛ばない」という旨の対策を行うとしている。しかし、直近だけでも沖縄では米軍機に関する事故が相次いでいることもあり、”極力”とか”出来る限り”のような話では何の解決にもならないという不満を、沖縄県知事・周辺住民などが示していた。
1/19の時事通信の記事・「米軍ヘリ、普天間小上空を飛行=防衛相が抗議、海兵隊は否定-校庭で避難訓練の日」によると、1/18、小学校の上空を3機の米軍ヘリが編隊飛行する様子が、同校が設置したカメラに映っていたそうだ。結局のところ、米軍は「それらしい話を並べて、沖縄や日本政府など軽くあしらっておけばよい」と考えているのではないか?と思えてしまう。
この件を受けて、菅官房長官は「普天間第二小学校の校庭がいまだに使えない状況であり、米側に学校上空を飛行しないように強く求めている中で、このような事案が発生したことは極めて遺憾だ」との所感を記者会見で示したようだ。米軍側が学校上空の飛行を否定したことから、当初は「まずは確認をする」として慎重な姿勢を示していた小野寺防衛大臣も、その後「映像を見てもわかるとおり、ヘリコプターのおなかの部分がはっきりと見えるような形で上空を飛べば、子どもたちや先生方、保護者の皆さんはそれこそ心配すると思う。あってはならないことで、アメリカ側にはこのような飛行をしないようにしっかり求めていきたい」と発言し、学校上空を飛行していないとする米軍の態度に異論を唱えている。
このように政府関係者が、米軍の見解に対して明確な懸念と抗議をする姿勢を示していることについては、一昨年の12月の沖縄でのオスプレイ海上不時着後大破(墜落)事故以降だけで考えても、消極的な抗議しかしてこなかったように見える政府関係者が、多少なりとも変化した、若しくはやっとある程度の対応をしようとしているようにも思えるので、一先ずそれなりに評価したい。
しかし逆に言えば、これまでも一応遺憾の意は示してきたし、抗議も、今回以上に消極的にではあるが、一応はしてきた。しかし、それ以降も墜落/不時着・炎上事故は繰り返されているし、部品の落下事故も起きている。ということは、遺憾の意を示しただけ・便宜上抗議を示しただけで、それは問題解消には至っていないどころか、事態の改善にすら繋がっていないとも言えそうだ。そんな視点で考えれば、「今回もまた抗議しただけで終わる」のかもしれないとも思えてしまう。
このように書くと「だからこそ、普天間飛行場の辺野古移転を出来る限り早く実現するように政府は動いている。にもかかわらず、沖縄県知事や反対派がそれを阻止しようとする。日本政府は問題解決に尽力しているのに、邪魔しているのは沖縄県知事や反対派だ」というような反論が返ってくるだろう。そして普天間飛行場周辺の過去の航空写真などを根拠に「飛行場が出来てからその周辺に住み始めたり学校を作っているのだから、文句を言うこと自体がおかしい」というような事を言う者もいるだろう。
まず後者の話についてだが、沖縄がそもそも無人島で、まず軍事基地が設置されその後その周辺に人が集まってきたなら、そのような批判にもそれなりの整合性があるのだろう。しかし沖縄には、戦後米軍が占領する以前、そして近代以降日本が併合する以前、少なくとも中世の頃には人が住み始め、それ以後沖縄の大部分は誰かの所有地だったはずだ。まず戦前に日本軍が基地を設置する為にその一部の土地を接収し、米軍が沖縄を占領した後は、今度は米軍によって一方的に接収された土地に出来たのが普天間飛行場などの基地だ。米軍による接収は、敗戦国である日本の一部として、市民の主張は殆ど勘案されずに一方的に行われたはずだ。要するに、沖縄県民・普天間飛行場の為に土地を接収された人・近隣の土地を所有していた人からすれば、後から来た米軍が勝手に飛行場を作ったと思うはずだ。そんな視点で考えれば、「文句を言うこと自体がおかしい」なんて決して言えないと自分は考える。
前者については、沖縄県民の中にも「兎に角普天間飛行場の危険性を取り除くためには、辺野古移転で手を打つこともやむを得ない」と考えている者もいるだろうから、絶対的におかしな主張とは言えないものの、辺野古移転反対を掲げた翁長知事が当選していることを考慮すれば、「辺野古移転では、普天間の危険性は除去出来ても、結局危険性を同じく沖縄の辺野古に押し付けることになるので適切ではない」と考えている者の方が多いということではないだろうか。他の理由の可能性もあるが、沖縄県民は概ね「辺野古移転では問題解決にならない」と感じている言えるだろう。
少し話が逸れたが、今回の件に関して、政府関係者がこれまでと比べて、米軍に対する不快感を強く示していることは相応に評価するが、2/4に名護市長選が行われるタイミングであることを勘案すれば、それを意識した単なるパフォーマンスで、遺憾の意を示したよ、抗議はしたよ、というだけで今後は尻すぼみになり、結局状況はこれまでとなにも変わらないのかもしれないとも想像してしまう。これはあくまで想像でしかなく、日本政府が今後本腰を入れて強く抗議する可能性もある。
重要なことは、遺憾の意を示すことでも、抗議することもでない。それによって事態を打開することこそが何より重要だ。今回はこれまでのように、遺憾の意を示しただけ、抗議しただけで何も変わらないなんてことがないように、そして、単なる選挙前のパフォーマンスでないことが明確に分かるような対応が、今後も続けられることを政府に対して強く期待する。