スキップしてメイン コンテンツに移動
 

ハイラックス復活を紹介する記事に思う事


 トヨタ・ハイラックスと言えば、日本を代表するピックアップトラックだ。日本だけでなく世界中で親しまれている車種で、その信頼性の高さから同じトヨタのランドクルーザーと並んで、特に道路舗装率の低い地域では重宝されているようだ。信頼性の高さ・走破性の良さから、ランドクルーザーやハイラックスは紛争を起こすような武装組織などにも好まれ、アフリカ・チャドの内戦は、紛争に使用される車両のトヨタ車率の高さから、TOYOTA戦争なんて呼ばれたし、数年前、最盛期のISISが公開した宣伝ムービーでは、ハイラックスではなくランドクルーザーだったが、トヨタ製ピックアップトラックに乗った兵士たちが前面に押し出されていた。
 そんなハイラックスだが、日本では2004年以降販売されていなかった。昨年・2017年に13年ぶりに日本での販売が再開されることになったが、その間も、タイなどで生産され販売は継続していた。日本で販売が再開された現行型もタイで生産され輸入されている。ある意味では、今ではハイラックスは日本を代表するピックアップトラックではなく、タイ・若しくは東南アジアを代表するピックアップトラックになっている。アジア製モデルというと、日本メーカーであっても新興国向けの、簡素な内装・防音防振仕様の、日本で言えば一昔前のモデルとか、廉価モデルのようなイメージを持つ人もいるだろうし、確かに以前はそんなモデルの方が多かったが、現行ハイラックスのように日本の大衆車と遜色ないレベルの車種も複数存在する。


 d.365が現行型ハイラックスに関する記事を2/17に掲載した。前段で触れたような信頼性の高さで世界中で支持を得ていることも紹介しており、「海中に5時間沈めても大丈夫! あのピックアップトラックが13年ぶりに復活!」という記事の見出しはそれを強調する為につけられたものだろう。この見出しは、イギリス・BBCの超人気自動車バラエティ番組・Top Gearで行われた、ハイラックスの人気を不動のものにした第4世代を用いた、ハイラックスを様々な過酷な状況下で痛めつけた後に、簡易な工具のみで行う基礎的な整備のみで始動可能かを試す企画で、海に沈めようが、爆破解体されるビルの屋上にハイラックス設置してビルを爆破しようが、ことごとくエンジンは始動し、出演者らを驚かせたという話に拠る。
 ただ補足しておくと、Top Gearではその後、第7世代のハイラックスを使用して、北極点を目指す企画も行っており、その際の現地コーディネーターの話として、「以前のモデルなら無改造でも大丈夫だっただろうが、最近のハイラックスは電子部品などが増えた所為で、以前よりもデリケートになっており、トラブルの要因になる要素は寧ろ増えた」という話も紹介されていた。ハイラックスの信頼性が高いのは間違いないだろうが、様々な機能が詰め込まれ複雑化した分、1980年代から90年代の仕組みが簡素な頃のモデルに比べたら、ある意味では信頼性は相対的には下がっているのかもしれない。
 
 少し話がずれたが、d.365の記事の中に、

欧米だけでなくアジア、アフリカなど幅広い地域で高い支持を得ているのはこれが理由だ。

という記述がある。理由としているのは、耐久性の高さ、室内の快適性、大きな荷物をつめる使い勝手の良さなのだが、注目すべきは”欧米だけでなく”という文言だ。現行型のハイラックスはタイで生産されており、主な販売ターゲット地域はタイを筆頭としたアジア地域と、オーストラリアを中心としたオセアニア地域だ。逆に言えば、それらの地域がターゲットだから、輸出するのに利便性の高いタイで生産しているのだろう。イギリスなどヨーロッパ地域でも販売されているし、ブラジルなど南米でも販売はされているので、”欧米でも販売している”というニュアンスは大きな間違いではないが、北米では現行型ハイラックスはトヨタのラインナップに含まれていない。欧米の定義を調べてみるとヨーロッパ全体と南北アメリカ大陸を指す場合もあるようだが、実際には先進国に該当するヨーロッパの所謂西側諸国と、アメリカ・カナダを指して”欧米”とする場合の方が圧倒的に多く、多くの人はそのように認識しているだろう。そういう意味で言えば、厳密には、ハイラックスが販売されていない北米の2か国でも高い支持を得ているとは言えない。
 ピックアップトラックという車種を発展させてきたのは間違いなくアメリカで、ハイラックスも1995年までは北米でも販売されていたが、それ以降はタコマというハイラックスから派生した北米専売モデルが販売されいる。当初は、ハイラックスとタコマは兄弟車種のような間柄だったが、現行モデルではサイズもデザインもエンジンも異なる別モデルであると言って差し支えない状況になっている。

 個人的な感想ではあるが、ピックアップトラックや以前のハイラックスから感じられるアメリカ的なライフスタイルのカッコいい車というイメージを強調したいが為に、d.365の記事を書いたライターは、タイ製ということには一切触れず「欧米だけでなくアジア・アフリカでも高い支持」という表現をしたのだろうと感じる。
 どうも私たち日本人の中には、未だに東南アジアに対して発展途上国というような認識があり、また、欧米に対する強い憧れがあることが、こんなところにも現れているように感じた。流石に差別的だなんて短絡的な批判をするつもりはないし、この程度のことで、このライターの感覚がおかしいとか、欧米を過剰に賞賛するな・憧れるななんて極端なことを言うつもりは毛頭ない。しかし現在日本のメーカーの車ではあるが、日本では生産されておらず、主にアジアで生産され日本に輸入されている、日本メーカーの輸入車が複数存在していることを認識していない日本人は決して少なくなのではないだろうか。今思いつくだけでも、このハイラックスや、日産・マーチ、三菱・ミラージュ、アジア製でなくイギリス製ではあるが、ホンダ・シビックのハッチバックなどは日本国内で生産していない輸入車だ。
 
 確かに私たちの国・日本は、今でも様々な分野で世界的に通用する企業を有する、世界有数の工業国であることは間違いない。しかし、周辺国との工業力の差は、90年代までとは比べ物にならない程小さくなっているのに、多くの日本人にはそれに気が付かず自国を過信し、憧れの存在に位置づけて目標としてきた欧米以外の国を、必要以上に過小評価する傾向があり、言うなれば過去の栄光にしがみついているような状況に陥っているのではないかと危惧してしまう。
 自国に誇りを持つことは重要なことだが、現状を正しく認識することも確実に必要なことだと自分は感じる。

このブログの人気の投稿

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

優生保護法と動物愛護感

 先月末、宮城県在住の60代女性が、 旧優生保護法の元で強制不妊を受けさせられたことに関する訴訟 ( 時事通信の記事 )を起こして以来、この件に関連する報道が多く行われている。特に毎日新聞は連日1面に関連記事を掲載し、国がこれまで示してきた「 当時は適法だった 」という姿勢に強い疑問を投げかけている。優生保護法は1948年に制定された日本の法律だ。戦前の1940年に指定された国民優生法と同様、優生学的思想に基づいた部分も多く、1996年に、優生学的思想に基づいた条文を削除して、母体保護法に改定されるまでの間存在した。優生学とは「優秀な人間の創造」や「人間の苦しみや健康問題の軽減」などを目的とした思想の一種で、このような目的達成の手段として、障害者の結婚・出産の規制(所謂断種の一種)・遺伝子操作などまで検討するような側面があった。また、優生思想はナチスが人種政策の柱として利用し、障害者やユダヤ人などを劣等として扱い、絶滅政策・虐殺を犯したという経緯があり、人種問題や人権問題への影響が否定できないことから、第二次大戦後は衰退した。ただ、遺伝子研究の発展によって優生学的な発想での研究は一部で行われているようだし、出生前の診断技術の発展によって、先天的異常を理由とした中絶が行われる場合もあり、優生学的な思考が完全にタブー化したとは言い難い。

日本の代表的ヤクザ組織

  ヤクザ - Wikipedia では、ヤクザとは、組織を形成して暴力を背景に職業として犯罪活動に従事し、収入を得ているもの、と定義している。報道や行政機関では、ヤクザのことを概ね暴力団とか( 暴力団 - Wikipedia )、反社会勢力と呼ぶが( 反社会的勢力 - Wikipedia )、この場合の暴力とは決して物理的暴力とは限らない。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。