千葉県の「千葉県立房総のむら」という古い街並みを再現した施設で、人気を博していたコスプレ衣装での撮影受付を2/4以降中止していた、と読売新聞などが報じている。記事によれば、中止された理由は、
施設の時代設定に遭わない奇抜な洋装をする者がいた
部屋を長時間占拠する者がいた
撮影の為に展示品を無断で動かす者がいた
胸元や足を露出させたりする者がいた
など、利用者マナーの悪さらしい。「せっかくの雰囲気が壊れる」という苦情も寄せられていたそうだ。記事からだけでは詳しい事情は分からないが、マナーの悪い利用者が居たのだとしても、マナーの悪くないコスプレイヤーも一括りにしてしまう対応に感じられ、少し残念に思う。
コスプレ撮影の受付を始めたきっかけは、房総のむらが江戸から明治期の武家屋敷や商家・農家などを再現していることから「町並みの雰囲気を活かして写真を撮りたい」と要望があったからのようだ。受付が始まったのは4-5年前だそうで、時期を考えれば、コスプレイヤーを誘致して、言い換えればオタク趣味を持っている人たちの目を惹くことで、街おこしとは少しニュアンスは異なるかもしれないが、施設の利用を促し、盛り上げようという思惑が運営側にもあったのだろう。実際に似たような手法で観光客数を増やしたケースは複数存在する。
いくつか挙げられた受付を中止するに至った理由の中には、そんなことがあれば仕方がないと思えるようなものもある。部屋を長時間占拠と展示品を無断で動かす行為などがそれに当たるように思える。しかし、部屋を長時間占拠したり、展示品を勝手に動かしたりしたのは、コスプレイヤーだけだったのだろうか。この施設での経験ではないが、自分は他の博物館や水族館・動物園などで、悪ノリで展示品に触れる中高生だったり、小さい水槽の前なのに独占するように三脚を立てて長時間撮影し続け、他の観覧者の妨げになっているアマチュアおじさんカメラマンだったり、似たようなマナーの悪い客を何度か見かけたことがある。房総のむらではコスプレ撮影者にマナーの悪い者が複数いたのは事実かもしれない。だが、もし悪ノリ中高生が複数いたとしても、中高生で一括りにしてお断りにはしないだろうし、自分の都合しか考えないアマチュアおじさんカメラマンが複数いても、カメラを持ったおじさんで一括りにして撮影禁止にはしないだろう。そう考えれば、マナーの悪いコスプレ撮影者がいたというだけで、コスプレ撮影受付を全面的に中止するという対応が適切なのか疑問だ。勿論適切な運営を維持する為の一時的な対応なら、それは仕方ないと言えるかもしれない。
また、奇抜な洋装と胸元や足を露出させる行為に関しても、ある程度の基準の適用は必要とも思える反面、コスプレイヤーにだけそれを求めるのもどうかと思える。まず奇抜な洋装についてだが、”コスプレ撮影は和装に限る”という規定があったそうだから、確かに洋装コスプレという時点でマナー違反とも言えそうだ。本当かどうかは定かでないが、ディズニーランドには、ディズニーのキャラクター以外のコスプレで入場できないなんて話を聞いたこともある。しかし、施設の性格上「奇抜な洋装コスプレで入場されたらせっかくの雰囲気が壊れる」という話は理解できるものの、例えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんのような原宿系ファッション、ゴスロリ系ファッションなども確実に雰囲気には合わないが、そんな服装で施設を訪れる人もいるのではないだろうか。というか、雰囲気に合わない云々と指摘するなら、ごく普通のダウンジャケットやベースボールキャップなども明治以前は存在していなかったので、施設の雰囲気にそぐわないことには違いない。
目立つからなのだろうが、コスプレだと雰囲気に合うか合わないか厳密に注文を付けるのに、普段着であればこの限りでないというのも少し変だ。もしそうなら、コスプレイヤーらが「普段着です」と言い張り始めることもあり得る。そうなれば更なるマナーの悪化に繋がる恐れもありそうだ。この種の事を言い始めたら、明治期以前に存在したような服装以外は雰囲気にそぐわないから入場禁止、要するに入場するには施設指定の明治以前の服装に準ずるドレスコード・若しくは入場前にその種のコスプレに着替える事が必須ということになりはしないだろうか。もう少し誰もが納得できるような規定が必要なのではないだろうか。
また、胸元や足を露出させる云々という話も同様で、殆どの女性が海水浴場やプールでも着ることのないような面積の小さい水着などを指しているならまだしも、記事の表現からすると、もっと厳しい基準でこれを述べているように感じられる。コスプレイヤーでなくとも胸元が開いた服で施設を訪れる女性は、夏場なら決して少なくないだろうし、単に表現が適切ではないだけの恐れもあるが、”足を露出”に懸念を示すなんて「一体何時代の感覚なのだろう」としか思えない。確かに明治以前の雰囲気を再現した施設であることを考えれば、そんな感覚が示されることもある意味では正しいのかもしれない。しかしそれならば、ミニスカートでの入場などは厳禁ということになりそうだし、コスプレイヤーに限らず施設の雰囲気を乱さないような厳格なドレスコードを規定し、訪れる客が来る前に分かるようにWebサイトなどに掲載するべきではないだろうか。当然そんなことをしたら利用客は十中八九減るだろう。房総のむらというのは、国会や冠婚葬祭のように厳格な服装が求められるべき場所なのだろうか。
自分は「マナーの悪いコスプレ撮影者も利用客なのだからそれくらい容認しろ」と言っている訳じゃない。他の客の利用の妨げにならないように配慮して撮影することは確実に必要で、それが出来ない者には何らかの対処が必要なのは事実だ。しかし、その方法がコスプレイヤーという集合で一括りにすることであってはならないと感じるし、受付中止の根拠に挙げられた理由も、半ば言い掛かりのようなものばかりで、個人的には偏見と言えるレベルだと思う。苦情の中には、コスプレイヤーというだけで快く思わない人の恣意的な意見も含まれているのではないか、と想像してしまう。
自分は房総のむらを一度も訪れたことがないので実際の正確な状況は分からないが、間違ってはいけないのは、コスプレイヤー=マナーの悪い客、という絶対的な因果関係があるのではなく、コスプレイヤーの中にマナーの悪い客がそれなりにいる、という相関関係がありそうだということ、でしかないということだ。自分には因果関係はないのに、まるで因果関係があるかのような苦情に注目してしまっているように見える。現在は近隣の、町娘や忍者などの和装限定コスプレ施設利用者に限ってコスプレ撮影を許可しているそうで、これまでのような撮影受付に関しては、中止や新ルール策定なども含めて検討段階だそうだ。記事によると担当者は「誰にでも楽しんでもらえる施設にしたい」とコメントしているようだ。”誰にでも”をしっかり実現できるように適切に検討されることを願う。