佐川国税庁長官(元理財局長)が昨夜(3/9)辞任した。辞任の理由は、
- 現在懸案になっている森友学園問題に関する決裁文書の書き換え問題に関して、この文書が国会に提出された当時の担当局長で責任者だったこと
- 昨年の国会での答弁で、国会審議に混乱を招いたこと
- 行政文書の管理について、様々な指摘を受けたこと
などであると、本人が記者会見で述べていた。
また、麻生財務大臣も佐川氏の辞任を受けて昨夜会見を行い、「私どもとしては彼の責任感を感じているところは理解するが、では彼が不適任であったかといえば、少なくとも国税庁長官として、不適任だったとの認識は私にはありません」などと述べた。また、同じ会見で麻生氏は、「行政への信頼を損なった」として佐川氏を減給の懲戒処分とする方針も明らかにした。自分はこの二人の会見をテレビで見ていて、とても強い違和感を感じた。
まず佐川氏の辞任の理由について。現在大きな波紋を呼んでいる決裁文書改ざん疑惑に関しては、事案の発端になった記事を掲載した朝日新聞は、誰の目にも明らかな根拠を提示していないし、財務省も改ざんの有無に関して明確に見解を示していないし、調査結果もまだ発表されていない。要するに誰がどう見てもまだまだ”疑惑”があるという状態だ。この状態でその責任をとって辞任という事自体が何より不可解で、責任をとるということは、改ざんの疑いが疑いでなく事実なのではないかと多くの人が感じるだろう。しかし、政治家や役人が事態の収束を図ろうとする際に、疑惑自体は否定するが「疑惑が生じるような事をして世間を騒がせたことの責任をとる」として職を辞することは多々ある。個人的には、そんな話は責任を出来るだけ最小化する為の単なる詭弁だと思っている。
佐川氏は辞任を決断した2つ目の理由に「昨年の国会答弁で混乱を招いた」という、まさにそれに該当する理由を挙げている為、恐らく1つ目の理由もそんな意味合いなのだろう。ということは、佐川氏は改ざんが疑われても仕方がない文書管理が行われていたことは認めているということにはなるだろう。それは3つ目の理由に「行政文書の管理について様々な指摘を受けた」ということを挙げていることからも明らかだ。指摘が事実に反するなら責任をとる必要などないはずだ。
佐川氏が国会答弁に立っていたのは昨年の通常国会で、安倍首相が「李下に冠を正さず」とか「国民の理解を得る為には真摯で丁寧な説明が必要」などと言い始める以前のことだが、その後の閉会中審査や臨時国会・今年の通常国会などで、再三佐川氏の喚問が求められていたにもかかわらず、「その必要性はない」と主張し続けてきたことは、前述のような首相の発言と矛盾するし、首相を始めとした官邸・政府・財務省が、国有地払い下げ問題に関して不適切に関与したかどうかはまだ定かでないが、今回の佐川氏の辞任によって、少なくともこれまで、その件に関して李下に冠を正しまくっていい加減な説明をしてきたことが再確認できる。
また、麻生氏の会見にも強い違和感を感じる。佐川氏が辞任しても尚、麻生氏は佐川氏の選任は適材適所だったとしている。これが不適切な人選だったと認めれば、自身の任命責任が追及される事態になってしまうことを考慮した上でそのように言わざるを得ないのだろうと推測できる。しかし不思議なのは、適材適所の任命で、しかも辞任の理由は概ね「国会審議や世間を騒がせた」という話なのに、「行政への信頼を損ねた」として懲戒処分を加えるということだ。懲戒処分を受けることになるような人間の任命が適材適所だったと言い張れば、麻生氏は「私は人を見る目がない」と認めていることになりそうだ。確かに任命当時は適材適所の人材だったが、その後適任とは言えない状態に佐川氏が変質した恐れもあるだろう。しかし、もしそうだったとしても、それを見抜けなかったのは麻生氏や、同様の発言を繰り返した安倍首相であることに違いない。
適材適所で任命したはずの者が「国会審議や世間を騒がせた」という理由で辞任することは、それ自体はとても残念なことだし、現在懸案になっている問題について、それで全て幕引きなんて間違っても出来ないだろうが、しかし一方で、それだけであれば特に違和感を感じるようなことでもない。しかし、これについて「行政に対する信頼を損ねた」として懲戒処分を加えることは、麻生氏や首相が再三言っていた適材適所の任命だったという話と矛盾してしまう。何故なら前述のように、行政の信頼を損ねてしまうような者を適材適所と言い張ってきたことになってしまうからだ。更にその処分を明らかにした同じ会見の中でさえ「適材適所だったことに変わりない」と言っていることが、その違和感をさらに強く感じさせる。
麻生氏にとっては、行政の信頼を損ねる者でも、国税庁長官に適材適所の人材という認識なのだろう。
財務省・近畿財務省の、森友学園への国有地払い下げに関わっていた担当部署職員が3/7に自殺していたことも同日報道されている。この自殺に関しては遺書があったという報道もあるが、その内容は明らかにされていない為、政治的な理由で自殺したのかは不明だ。しかし、それにしてもあまりにもタイミングが悪い。もしかしたら、単にプライベートの問題での自殺だったのかもしれないが、改ざん疑惑が取り沙汰され始めて6日後に関係職員が自殺し、その自殺が明らかにされた日に当時の担当部署責任者が、辞任を発表している。それらは全て単に偶然タイミングが重なったということなのだろうか。その可能性はゼロではないが、偶然重なる可能性はかなり低いように思う。
流石に佐川氏の辞任に関して与党内からも、辞任で幕引きとすることは到底出来ないという話が出ているようだ。森友学園問題が明るみになって以来の一連の流れを見ていると、自分には、首相や麻生氏ら政府関係者らが何かを隠そう隠そうとしているように見えてしまう。もしかしたら、国有地取引に関して、実際は首相の関与はなく、首相夫人が名誉校長に就いていたことで勝手に政府関係者や官僚の一部が忖度して不正が起きたのかもしれない。しかし、これまでの政府や官僚の説明では、そんなことも一切ないという論調だった。もしかしたら、それを隠そうとしているのかもしれない。
何がそう思わせるのかと言えば、政府や官僚らの実態解明に消極的な姿勢だ。問題が無かったのなら、誰の目に明らかなように包み隠さず積極的に資料を提出し、調査を自ら進んで行うべきなのに、「ない」としていた文書は後からボロボロ出てくることが続いているし、未だに内部調査には消極的で、一般人ではない官僚の喚問にも消極的だ。
与党積極支持者の中には「野党が不要な質問ばかりして審議を混乱させている」というようなことを言う者もいるが、彼らの目には政府側が「ない」とした文書が後から出てくること、積極的に調査・喚問に応じないことが見えていないのだろうか。昨日の2件の会見を見ていて、記者らも大した質問が出来ていないように思えたし、野党議員らも審議で必要性の低い質問を繰り返すなど、適切な追及が出来ていないと思うこともある。しかし、政府には追及など受けなくても自ら積極的に潔白を証明して見せて欲しい。それが出来れば、今以上に支持を伸ばし野党・マスコミらを一切文句の言えない状況に追い込めるのに、なぜそれをしないのだろうか。とても不思議だ。