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住みたい街ランキングと厚労省不適切データの共通点


 リクルートが発表した2018年住みたい街ランキングの1位に横浜が選ばれたそうだ。自分はこの手のランキングにはあまり興味はないが、横浜市出身ということもあり、あまり悪い気はしない。と言うか寧ろ、何となく誇らしい気分にすらなる。しかし、横浜市以外に住んでいる人は確実に、そして横浜市に住んでいる者でさえも、漠然と「横浜」と言われた時には、駅で言えば東神奈川駅あたりから根岸駅あたりまでの臨海地区を指していると感じる・考えるだろう。自分はこの地域から大きく外れた横浜市北部の出身なので、実際は横浜出身であり横浜出身ではないような気がしている。小学生の頃から買い物に出かけるのは、直線距離では近いのに田園都市線から横浜線、そして京浜東北線への乗り換えが必要で不便な上に時間も掛かる横浜・桜木町・関内駅などの横浜市中心部より、田園都市線一本・しかも急行に乗れば横浜中心部よりも時間的に近い渋谷や、乗り換えは必要だが渋谷よりも身近な町田だった。だから横浜がランキング1位と言われても、誇らしい反面、他人事半分のようでもあるというのが本音だ。
 このように横浜市と一口に言ってもかなり広い。神奈川県を地図で確認すると、横浜市はその認知度が高い事もあり、イメージ的には1/4程度を占めているような感覚になるかもしれない(実際の割合はもっと狭い)。

 
 今回発表された住みたい街ランキングは以下のような順位だ。

1位: 横浜
2位: 恵比寿
3位: 吉祥寺
4位: 品川
5位: 池袋
6位: 武蔵小杉
7位: 新宿
8位: 目黒
9位: 大宮
10位: 浦和


横浜は、吉祥寺などと並んで、常にこのランキングの上位に食い込む。そしてそれが話題になる度に、「横浜と言っても広いから」というツッコミを誰かしらが必ず入れる。今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでもこの件に触れていたが、漏れなくそのような話になっていた。個人的には、この話の流れにいつも違和感を感じる。何故なら、吉祥寺など他の選択肢に関しては駅単位で語るのに、何故か横浜に関しては駅ではなく市全体という括りで捉えてしまっているからだ。
 リクルートの住宅情報サイト・SUUMOに掲載された住みたい街ランキングの記事を見ても分かるように、実際は住みたい街(駅)ランキングである。しかし、ワイドショーやネット掲示板、ツイッターなどで話題にされる場合は、何故か横浜は市全体で括られることも多い。そのような認識の人がメディアですら多いことを考えると、アンケートの回答者も横浜駅周辺と横浜市全体を混同して回答している人も少なくないのかもしれない。ただ、横浜を駅周辺でなく市全体で括るなら、比べる相手は東京23区などでなくてはならない。漠然と横浜を論じるにしても、最低でも前段で説明したように、多くの人が”横浜”と言われた時に想像する、横浜駅周辺・みなとみらい・関内・中華街・周辺臨海部限定で考えるべきではないだろうか。しかし、横浜への帰属意識が薄い横浜出身者の自分でも、吉祥寺や自由が丘などの括りに対しては、横浜臨海部だけでも括りが大きすぎると感じる。東神奈川から横浜駅周辺はどちらかと言えば戦後発展した地域だし、横浜駅から桜木町駅間の海側・みなとみらいは平成以降に出来た新しい街、桜木町の山側・関内や中華街は明治からの歴史ある街、山手地区は戦前から、クレイジーケンバンドで知られるようになった本牧地区は、戦後米軍キャンプなどの存在などによって発展した外国人が多く住んでいた地域だ。横浜臨海部でも、それぞれ町のカラーは異なる。
 所謂横浜以外の人が想像する「横浜」=臨海部だけでもそれだけ差があるのことを知ってもらえたら、吉祥寺や恵比寿など駅単位の比較の中に、急に”横浜市全域”が登場することのおかしさを理解してもらえるだろう
 
 余談だが、横浜の隣の川崎市も「川崎」と一括りにされがちだ。川崎と言われたら、多くの人は京浜工業地帯・特に、かつての東芝の城下町という印象を持つ人が多いだろう。確かに川崎の半分ぐらいは誰もが認めるような労働者の街で、川崎駅付近には堀之内や南町という、関東では吉原に次ぐ規模の、日本有数の風俗街があることなどもあり、下町という印象がかなり強い。また、数年前に未成年者によるいじめ死傷事件が起きたことや、在日コリアンの住民が比較的多く、ヘイトスピーチデモが頻繁に行われていたことなどもあり、治安が良くないという印象を抱く人も多いだろう。しかし実際は、そんなイメージが強く感じられるのは川崎市の臨海部だ。東横線が通る市の中央部も以前は町工場が多く労働者の街という印象が強かったが、近年は武蔵小杉駅周辺が開発されていることもあり、徐々にではあるが、印象が変わりつつある。また、田園都市線が通る市の北西部は、かつてのドラマ・金妻シリーズの影響で人気を博した、横浜市のあざみ野駅・たまプラーザ駅周辺などと似たような閑静な住宅街が多い。南武線と交差する溝の口周辺などは下町っぽい雰囲気もまだまだ残るが、臨海部のそれとは大きく異なる雰囲気だ。
 ただ何故か、前述のように再開発が進み、住みたい街ランキングにも入ることも多くなった武蔵小杉は川崎という大きな括りではなく、武蔵小杉単体で語られることが多い。ここに注目すると、横浜がなぜ市全体で捉えられてしまうのか、が見えてくる。自分は、横浜駅が市と同じ「横浜」という名称だから、市全体とごちゃ混ぜにして語られてしまうのだろうと想像する。川崎駅に関しては、前述のように治安が良くないという印象や、下町感の影響か、住みたい町ランキングの上位にはあまり登場せず(それでも2018のランキングでは20位)、だから横浜に比べれば川崎はまだ、川崎市全体で括られて語られるケース自体も少ないのだろう。また、ランキングに最近よく顔を出す武蔵小杉が単体で注目を浴びていることで、川崎=川崎駅という認識がされるようになっているのかもしれない。要するに、このランキングの上位に、横浜駅以外の横浜市内の駅が1つでも入っていれば(2018は横浜の次にランクインした横浜市内の駅は27位の桜木町)、ランキング内で横浜が指しているのは、市全域ではないと多くの人が認識出来るのではないだろうか。
 
 このように不釣り合いな比較対象を比較する行為が、最近大きな問題になった。それは、昨夜やっと働き方改革法案からの切り離しを安倍首相が決断した「裁量労働制の拡大」に関する、問題性が指摘された厚生労働省作成のデータだ。この話が表面化した発端は、首相が指摘を受けて、不適切なデータを根拠にした「裁量労働制の労働者の方が、一般的な労働者よりも労働時間が短いというデータもある」という発言を撤回したことなのだが、その後「答弁は撤回したが、データを撤回したわけではない」という、「精査は必要だがデータが不適切とまでは言えない」とも聞こえる見解を示したり、再調査を行うことに消極的な態度を示したりしていた。首相は昨夜の会見で、やっと調査に誤りとみられる部分が多数見つかったことについて「国民が疑念を抱く結果になった」という旨の発言を行い、データが不適切であることを消極的には認めた。しかし辻褄の合わない要素が数百件単位で判明しており、データが不適切なのは誰の目にも明らかで、疑念ではなく明確に不正確なデータだ。言葉選びを誤れば、更に傷口を広げることになりそうだが、こんな状況でも首相の受け止めはどこか深刻さに欠けているように見える。

 2/19の投稿でも触れたが、厚生労働省は、一般的な労働者に関しては”1か月で一番長い残業時間”という設問で集めたデータを、裁量労働制の労働者に対しては特段の条件を付けず、単に”一日あたりの残業時間”という設問で集めたデータと、異なる条件で比較が行われた不適切なデータだったと認めている。こんな不釣り合いな設問で集めたデータでも、”残業労働時間の比較”などとだけ表現されていれば、「ああ、そうなんだ」と思うかもしれない。元官僚や国会議員経験者のコメンテーターらなどが、「政府は騙された側で、厚労省の大チョンボ」などのような、責任の多くは厚労省の役人にあるかのようなコメントしているのをしばしば見かける。ある意味ではそれも間違いではないかもしれない。そして更に、昨日ツイッターの自分のタイムラインには、「厚労省の不適切なデータ作成は、民主党政権時代に始まった」などとするプロモーションツイート、所謂何らかのメディアの広告ツイートが表示されていた。その話がどれだけ適切なのかは分からないが、結局、どちらも「現政権には責任がない、ないとは言わなくともそれ程大きくない」と訴えたいのだろう。
 しかし果たして本当にそうだろうか。厚労省の大チョンボであれば、厚労大臣は役人らを適切に管理できていないのだろうし、行政府の長である首相も同様だ。また、実際にデータが作られ始めたのが民主党時代だったとしても、それを精査せず、不適切さに気が付かなかったのなら、現政権も批判する民主党政権同様に能力のない政権であると言えるのではないだろうか。更に言えば、そのようなデータに関して「データ自体を撤回したわけではない」なんて言うのは言語道断ではないだろうか。前政権が不適切な行いをしていたなら、それを正常に戻すのは現政権の使命だ。前政権の不祥事が今になって発覚したのに、その責任を現政権に求めるというのなら、それは確かにおかしい。しかし、前政権が作成し始めた不適切なデータを自分たちも政策に利用しようとしていたのなら、当然現政権にも責任は発生する。
 そもそも、これまでに出てきた決して少ないとは言えない件数の不可解なデータが存在しているのなら、どう考えたって少し調べれば、中学生でも「先生、これおかしいよ」となるだろうし、大体今議論している政策の根拠の一つにしていたデータの調査票を、当初、厚労大臣が「既に破棄した」などと恥ずかしげもなく、堂々と言ってしまえるような状況を、おかしいと感じる者が政権内に誰もいなかったのはどういうことなのだろうか。しかも直後に段ボール箱数十箱分という決して少なくない調査票が見つかるというのも、あまりにも不細工すぎる。更に、現政権下で廃棄したとする文書が出てくるのはこれが初めてではない。似たようなことが昨年だけでも少なくとも2件は起きていることを考えれば、彼らは同じ過ちを今後も繰り返すような、調査能力、現状把握力、部下のチェック能力の低い集団と言われても仕方ない。
 
 要するに、厚労省の大チョンボだろうが、民主党政権時にデータ作成が始まっていようが、現政権や与党の中には、吉祥寺や自由が丘などの駅と、横浜市全体を比較してしまうような程度の能力しかない者しかいないということなのだろう。ワイドショーなどのコメントや世間話、ネット上の与太話なら、話が盛り上がりさえすれば細かい事は気にしなくてもいいかもしれない。しかし彼らが議論しているのは多くの国民に影響を及ぼす法案だ。そんな扱いが許されるはずはない。

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